第百話 姉弟の再会

 ペシペシ、ペシペシ。


「「起きてー!」」

「パパ起きて」

「起きるよ、うーん」


 おう、またかよ。

 お前らは、どこで寝ても朝早いな。

 少しはドラコとかベリルを見習ってもいいんだぞ。

 ドラコなんて、イビキしながら寝ているぞ。

 あーあ、お腹丸出しで。女の子なんだから、もう少し慎ましく寝てほしい。

 ベリルもヘソ天で寝ているし、中々の大物だよ。


 ララ達を連れてお屋敷の庭に出ると、このお屋敷で面倒を見ている子ども達も起きて遊んでいた。

 本当に子どもは朝起きるのが早いなあ。

 遊び相手は、飛龍ですか!

 何回か見たことあるけど、あれはアルス王子の飛龍だな。

 子ども達は飛龍によじ登ったりして遊んでいる。流石は子どもと言っても獣人だ、身体能力が高い。

 飛龍は子どもが相手だからか、大人しくしている。

 お前も何回もアルス王子によって急いで飛んできたり、子どもの相手したりと中々大変だな。


「ララ達も一緒に遊んでくれば?」

「「「いくー!」」」


 ララ達も子ども達に混ざって遊び始めた。

 子ども同士、仲良くなるのも早いな。もう一緒になって飛龍によじ登っている。

 俺は、そんな子ども達の様子をぼんやりと眺めていた。


「主、待たせたぞ」

「あうー」

「シル、流石に雑巾のように引きずってくるのはどうかと思うぞ」


 子どもの遊ぶ様子を見ていたら、シルがドラコの襟を咥えてやってきた。

 よく見ると、ドラコの腕の中にはベリルもいる。


「こやつらは、一度起きたがまた寝ていたのだぞ」

「いいじゃんよ、二度寝くらい」

「ワゥー」

「ミケも寝坊助だけど、スパッと起きて今はマリリを手伝っているぞ」


 成程、ミケはさっさと起きたのに、ドラコとベリルは二度寝をしたのか。

 ミケは起きるときは、直ぐに起きるからな。


「訓練はやらないといけないんだぞ。主よ、ドラコとベリルを子ども達から離れた場所に連れて行くんだぞ」

「はいはい」

「あー」

「クーン」


 諦めの悪いドラコとベリルを、子ども達から離れたところに連れて行った。


「パパ、昨日の避けるのをやるの?」

「そうだよ」

「レイアも手伝う」

「ララも」

「リリも」

「レイア、手伝うって?」


 俺から少し離れたところにいたシルのそばに、レイアがトコトコとやってきた。

 一緒にララとリリも手を繋いでやってきたけど、手伝いって何だ?

 と思ったら、ララとリリとレイアがこっちに向かって手を構えてきた。

 まさか。


「いくよ!」

「ちょっと、何で俺まで!」

「うわー」

「ワオーン」


 三人が俺達に向かって魔法を放ってきた。

 何でまた、俺も巻き添えになるんだよ。


「わー、面白そう」

「僕も僕も」

「ちょっと!」


 しかも獣人の子どもがララのいるところに集まってきて、一緒になって魔法を放ってくる。

 子どもによって放つ魔法の速さが違うから、避けるのが滅茶苦茶難しい。


 数分後。


「ハアハアハア」

「疲れた」

「ウォーン」


 何とか全て避けきった。

 ドラコとベリルも避けきったみたいだ。

 この子らも、やればできる子なんだな。


「うーん、当たらなかったよ」

「お兄ちゃん、避けるのがうまいよ」

「パパ、凄い」

 

 レイアは避け続けた俺のことを褒めてくれたが、ララとリリは魔法が当たらなかったのを悔しがっていた。

 もう少し、お兄ちゃんを褒めても良いんだよ。

 他の子どもも、俺達に魔法があたらないのが悔しそうだ。


「あなた達は何やっているんですか?」


 と、ここですっかり子どもの保母さん役が定着している、メイド姿のマリリさんが登場。

 このときは、俺達に魔法を放った子ども達に注意するかと思った。


「もっと魔力の圧縮や速さの練習をしないと」


 おい、マリリさんからシャレにならない魔力が集まっているぞ。


「こうやるんですよ」


 ヤバい。今はまだ動けないから、急いで魔法障壁を展開する。


 ズドーン。


 とんでもない衝撃だったぞ。

 こんな魔法が直撃したら、大怪我ですまない威力だよ。


「「「おー」」」

「このようにうまく魔力を圧縮すると、威力と速さが増します」

「「「マリリお姉ちゃん凄い」」」

「このくらいならサトーさんは簡単に防ぎますので、遠慮なく練習しましょう」

「「「はい!」」


 何かキレイに締めたけど、こちらはあなたの放った魔法が直撃寸前で死にそうだったのですよ。

 しかもマリリさん、さっき制御の腕輪を外してませんでしたか?

 本気でやりやがったぞ、このメイドさん。

 ちなみにドラコとベリルは、いつの間にか目をまわして倒れていた。

 マリリさんの魔法を俺が防いだ時に、衝撃波を受けたらしい。


「マリリさん。腕輪まで外して本気でやったでしょう」

「子ども達に手本を見せないといけませんから」


 朝食時にマリリさんに朝の魔法の事を抗議したが、しれっと流されてしまった。


「それに結局はサトーさんがとっさに放った魔法障壁で簡単に防がれてしまいましたから。私もまだまだ修行不足です」

「いや、あの。こちらはかなり必死でしたよ」


 マリリさん。かっこよくまとめていますけど、こちらは一歩間違えたら死ぬところでしたから。

 

「でも、確かにサトーさんの魔法障壁は硬いですよね」

「物理も魔法も通さないもんね」

「今度暇があったら、サトーの魔法障壁の耐久テストをしてみたいのじゃ」


 リンさんとエステル殿下の話はともかく、ビアンカ殿下の話はフラグです。

 ほら、シルとリーフがこちらを見てニヤリとしてますよ。


「それはともかくとして。ドラコにベリル、明日も二度寝したら特別メニューだからな」

「えー」

「ワウー」

「文句を言うな。そうだな、あの子ども達とミケを相手に十分間耐久鬼ごっことか」

「あれ? それくらいならできそうだよ」

「ワフー」

「よし、じゃあ明日やってもらおうか」


 ドラコとベリルは分からないな。子どもは、遊びになるほど本気を出すことに。

 それに、どうせドラコとベリルはまた寝坊するだろう。


 朝食後に、馬車に乗ってコマドリ亭へチナさんを迎えに行く。

 ちなみにみんな仕事があるので、迎えは俺一人。


「おはようございます」

「おまたせしました、さあ馬車に乗ってください」


 コマドリ亭の前で待っていたチナさん達を乗せ、お屋敷に向かう。

 馬車は段々と高級住宅街に入っていき、チナさん達も緊張してきたのか会話がなくなってきた。

 そして、お屋敷に到着。


「「……」」


 チナさんとマールさんは、デッカイ屋敷に言葉を失っていた。

 

「サトーさん、あの子どもは?」

「違法奴隷として囚われていた子どもです。あの子の親とかを調査しているので、暫くこのお屋敷にいる予定です」


 ローゼさんは、庭にいた沢山の子ども達に目がいっていた。

 そりゃ、貴族の屋敷にこんなに子どもがいたらおかしいよね。

 あれ? ローゼさんは一人の子どもに目が釘付けだ。

 お、子どももこちらに気がついたと思ったら、猛ダッシュでこっちにきたぞ。


「ねーちゃーん!」

「タロー!」


 え? どういう事?

 このタロー君のお姉ちゃんがローゼさん?

 二人は抱き合っておいおい泣いているし、とてもじゃないが話を聞ける様子じゃない。


「チナさん、マールさん。一体どういうことですか?」

「あれはさらわれて行方不明になったローゼの弟さんですね。私も見たことあります」

「昔ローゼの家に強盗が入り、両親を殺害されて弟が誘拐されたんです。ローゼは弟を探すのと両親を殺害した犯人を追いかける為に、冒険者になったんです」


 うお、かなり重い話になったぞ。

 たった一人になった肉親を探すのに冒険者になるなんて、そりゃすごい決意だ。

 しかし、こうして無事に再会できて良かった。


「ちなみに私は兄弟が多いから、早く家を出ていってって親に言われたんですよ」

「それはそれですごい理由ですね」


 でもマールさんが冒険者になった理由が、深刻な話ではなくて良かった。


「これは流石に予想外の事態じゃな」

「俺もビックリしましたよ」


 と、俺の横にビアンカ殿下がいつの間にか立っていた。

 どうも子どもの一人が執務室に行って、ルキアさんにこの事態を教えたらしい。

 それでビアンカ殿下が来たということだ。

 ちなみに今日は王族らしいドレス姿でいる。

 そういえば、ビアンカ殿下のこの姿は初めて見たぞ。


「さて、サトーもあまり時間がないのでな。せっかくの再会の所悪いが、子どももまとめて執務室にきてもらおう」

「その方がいいですね。何か情報を得られそうですし」


 俺はチナさんとマールさんに加えて、未だに抱き合っているローゼさんとタロー君にも声をかけて執務室に向かうことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る