第三十三話 第一回薬草取り選手権

「とはいえ、今日はまだ何も動きはないだろう。午後から薬草取りに行くんだろう? 今後の事も考えて一杯取ってくるがよい」

「うん! ミケ一杯薬草取るよ!」


 アルス王子が話は終了といい、薬草取りのことを話すとミケが元気に手を上げた。

 さっきの涙から一転して笑顔になっている。

 そしてミケが急ぐとばかりに昼食にしようとみんなを誘った。

 先ほどの重い空気が一変して明るくなった。

 ちなみにビルゴさんたちはこの後用事があるということで、昼食前に帰って行った。

 リンさんたちは一緒に昼食を取って、その後薬草取りも一緒についてくるとの事。

 昨日色々あって依頼こなせなかったのもあるそうだ。


「ならルキアも今後の事を考えて一緒に行っておいで。まだ冒険者カードも返却していないんだろう?」

「御館様……。しかし私は」

「昨日の娘の聖魔法で古傷も治ったはずだ。薬草取りくらいなら大丈夫だろう」

「御館様……。ありがとございます」


 ルキアさんも昼食時にバルガス様に背中を押されて一緒に来るようだ。

 実は昨日のサリー様の聖魔法はお屋敷にいたメイドさんとかにも作用したらしく、腰痛が治ったとか肩こりが良くなったと好評だった。

 そしてルキアさんの古傷も全快した。だけど冒険者としてのブランクもあるのでまずは薬草取りでという事です。


「なら妾も久々に行くとするかのう。フランソワもおるし沢山取れるはずじゃ」


 えー! ビアンカ殿下もついてくるの?

 でもビアンカ殿下は冒険者登録していないのでは?


「おー、ビアンカお姉ちゃんも一緒に来るの?」

「うむ、こう見えておぬしらよりもランクは上じゃ」

「凄い! ビアンカお姉ちゃんかっこいい!」


 ああ、なんという事でしょう。

 高く掲げられたビアンカ殿下のギルドカードのランクはEランク。

 Fランクの俺らよりも全然上だ……


「良いなあ、私も一緒に薬草取りをしたいなあ……」

「サリーはまだ先じゃな。バルガスの許可をもらわんと」

「うー、残念です」


 サリー様はお留守番。

 ビアンカ殿下も言っている通り冒険者登録していないし、バルガス様も一人娘を危険な所には出したくないよね。


 ということで昼食も終わり、着替えた後にギルドへ。

 その後はこの間薬草を取った森に移動です。

 

「おー、ビアンカお姉ちゃんの冒険者服かっこいいね!」

「ふふん、どうじゃミケよ。妾のお気に入りじゃ。国外のデザインらしいのう」


 ビアンカ殿下の冒険者服はちょっと和風っぽいのだ。

 着物っぽい服装で髪を大きなリボンでポニーテールにしている。見た感じ派手な剣道着だ。

 武器は小太刀二刀流で、ルキアさん曰く結構な腕前らしい。

 動きやすそうな感じで、活発なビアンカ殿下にあっている。


「ルキアお姉ちゃんは魔法使いみたい」

「ふふふ、ありがとうございます。でも急いで少し直したんですよ」

「そうなんだ!」


 ルキアさんは黒を基本としたいかにも魔女って感じの魔法服だ。

 魔女の帽子はかぶっていないけど、マントがよくお似合いです。

 どこか服を直していたと言っていたが……、その……、お胸がぱつんぱつんです。

 冒険者をしていない二年間で成長されたようだ。メイド服は生地が厚いので気が付かなかった。

 それにミニスカだからおみ足も凄いことに。ギルドでも男性の視線を集めていましたよ。

 そして自分とシルを除いてパーティは全員女性。みんな可愛いし美人です。

 ギルド内の俺に対する視線がとても痛かった。


「よし、お兄ちゃん。誰が一番取れるか競争だ!」

「「「おー!」」」

「えー?」


 そしてミケによって突如宣言された薬草取り大会の開催です。

 俺の抗議の声は、みんなのやる気の声でかき消された……

 ちなみにメンバーはこんな感じ。

 ・ビアンカ殿下、ルキアさん、フランソワ

 ・リンさん、オリガさん、マリリさん、ポチ

 ・ミケ、シル、スラタロウ、タラちゃん

 ・俺


「異議を申し立てる!」

「えー? なんで?」

「なんでじゃないでしょうが!」


 俺一人だけだし、そっちにはみんなシルクスパイダーいるし。

 どう考えても勝ち目ないでしょうが!


「お兄ちゃんなら大丈夫だよ! 始めよ!」

「「「おー!」」」

「ちょっとー!」


 俺の再度の抗議の声もかき消され、ミケによって開始の合図がされた。

 最初から負け試合だよ!


 ちくしょう……

 それなら前回みたいにシルクスパイダーを見つけて仲間にしてやる!

 

 一時間経過。

 ……うん分かっていたよ。

 そういう時に限って何も出てこないのは。

 絶望感に襲われながら一人でもくもくと薬草採取。なんか悟りが開そうです。

 他のみんなはワイワイと楽しそうに薬草採取。

 女の子が集まって楽しそうですね。

 

 ちくしょう……、寂しくなんかないやい……


 二時間経過。

 薬草取り終了。

 俺は地面にのの字を書いています。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 大丈夫じゃないです……


「サトーよ、こういう事もあるのじゃ……」


 うん、そうですよねー……


「サトー様、その……えっと……」


 ルキアさんも久しぶりではしゃいでいましたね……


「サトーさん。その、ミケさんが負けた人が全員に串肉を奢りだと……」


 リンさん良いですよー。最初から分かっていましたよ……


 うん結果なんて分かっていたよ。最初から分かりきっていたんだ。

 慰めなんていらないよ……

 いくらでも奢るよ……


 流石に女性陣も悪いと思ったのか、結果については何も言わなかった。

 俺にどう声をかけていいかわからないみたいだ。

 どうみたって俺の十倍は軽く超えているんだよ。

 勝ち目なんてないよね。

 こんなアラサーの男なんて放っておいて良いですよー。


 トボトボとギルドに歩いて帰る。

 ギルドの解体所に入っても、項垂れる俺となんて声をかけて良いかわからない女性陣を見て何かやらかしたと感じ、流石に他の冒険者も冷やかすことはなかった。


「では皆様の採取の結果を確認しますね」

 

 受付のお姉さんが薬草の確認を始めた。

 なんだか後ろに野次馬が固唾を飲んで見守っている。


「「「おおー!」」」


 野次馬が一斉に声を上げた。

 ビアンカ殿下、リンさん、ミケたちの採取結果を見て驚いている。

 確認台にこんもりと置かれた薬草の山が三つ。

 今までの採取記録を超えているそうだ。

 そりゃシルクスパイダーもいて本気で二時間やれば、このくらい軽く行くよね。

 ギルドとしてもこれだけ薬草があればホクホクだろう。

 何よりこれだけ薬草が取れるって良い宣伝になる。

 この間よりも一杯人が集まりそうだ。


「ではサトー様の採取結果を確認しますね」

「「「……ああ、なるほど……」」」


 二時間頑張って集めた結果が作業台に出ていた。

 かなり頑張ったと思うけど、流石に多勢に無勢。

 野次馬も何かを悟ったのだろう、一言発しただけで何も言わなかった。

 ありがとう、お前らの優しさが身に染みるよ……


「でも買取金額はサトー様の方が上ですね」

「「「え?」」」


 おや? これは予想もしなかった事だぞ。

 女性陣も野次馬もびっくりしている。

 もちろん俺もだ。


「女性の皆様は純粋に薬草だけ沢山ありますが、サトー様は貴重な薬草も結構含まれています。これはもしかしたら薬草の買取金額を更新するかも……」

「「「おおー!」」」


 俺も女性陣も野次馬もみんなびっくりしている。

 なるほど、量で行くか質で行くかの違いか。

 無意識の内に高級な薬草を結構取っていたんだ。

 ギルドにとっても、貴重な薬草も取れるっていうのは量と合わせて良い宣伝になるし。


「今回は判定は引き分けじゃな」

「量で決めるか金額で決めるか決めてなかったですし」

「うむ、でも久々で面白かったのじゃ」

「そうですね殿下。私も昔を思い出しました」


 ビアンカ殿下とルキアさんも話していたが、結局みんな凄い結果になったので勝負は引き分けになった。

 俺も負けると思っていての結果だから一安心だ。


「じゃあお兄ちゃん、頑張ったご褒美にみんなに串肉奢って!」


 ミケさんや、綺麗にまとまったのにそれはないのでは……

 とは思いつつもここ男の見せ所だと思って、俺がみんなに串肉奢ってそれぞれの帰り路についた。

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