第二十二話 シルさんの魔法教室

「今日は我が魔法を教えるぞ。時間もそんなにかからないぞ」

「わーい!。ミケ魔法の勉強をするよ」


 今日は午後から冒険者ギルドの初心者研修。

 準備も昨日の内に終わったから午前中何やろうかなと思案していたら、シルが魔法の先生をしてくれる様だ。

 というのも、今日はルキアさんは一日お仕事があり、手が離せないそうだ。

 元々シルは魔法使えるらしいし、昨日も魔法はまかせろと言ってくれたので、どんな感じで教えてくれるか楽しみだ。


 場所は昨日と同じお屋敷の裏庭。

 朝食終了後に、ミケとスラタロウと集まっていた。

 シルは先に行ってくれと言っていたので、今は待機中。


「サトーにミケよ、またせたの」

「お兄ちゃん、ミケちゃんお待たせ」

「主人、待たせたぞ」


 と、そこにシルと一緒にビアンカ殿下とサリー様も連れ立っていた。


「主人、二人とも午前は空くというので、連れてきたぞ」

「ちょうど午前中は何もないのでな、妾も一緒に特訓じゃ」

「私も、礼儀作法のお勉強は午後からだから、一緒に来たの」

「わーい。お姉ちゃん達と一緒に頑張るよ」

「三人とも頑張ればかなりの魔法使いになれるから、頑張るのだぞ」

「うむ、妾も王家に連なるものとして、立派な魔法使いになるのだ」

「私も頑張って、聖女様になるんだよ」


 三人とシルはわいわい話ながらこちらに向かってくる。

 中々微笑ましい風景だ。

 ……、あれ何か違和感が。


「主人、今日教える内容はルキアにも確認しているぞ。何も心配することはないぞ」

「ありがと。ルキアさんが大丈夫と言っているのなら問題はなさそうだな」

「うむ、我に任せるのだ」


 ……、あれれ? これはもしかして。


「ビアンカ殿下、サリー様。シルと会話が出来るのですか?」

「サトー、今更だぞ」

「そうだよお兄ちゃん。シルと普通にお話しできるよ」


 えー、まじですか。

 ということはルキアさんとも?


「シル、いつルキアさんと話した?」

「主人、昨日だぞ。普通に話しているぞ」

「……まじですか」

「あれ? お兄ちゃん、シルがみんなと話せるの知らなかったの? バルガスのおじさんとか、隊長さんとかメイドさんとも話していたよ」

 

 ミケさん、サラリと言ったけど俺にとって衝撃の事実だよ。

 確かに親しい人はシルと会話出来るけど、それにしたって早すぎない?


「主人、何頭を抱えているのだ? 時間ないからさっさと始めるぞ」


 わかりましたよシルさん。なんか納得できないけど。


「今日は、魔法を使う為の基礎を教えるぞ」

「基礎? シル、どんな事を教えてくれるの?」

「ふふ、ミケよ。簡単そうで意外と難しい事だぞ」

「えー、難しいのは嫌だー」

「ははは、そう慌てるのではないぞミケよ。さてサリーよ、魔法を放つには何が必要かと思うか」

「えーと、うーん。魔力操作とか?」

「うむ、確かに魔力操作も重要だぞ。だが、一番重要なのは『想像力』なのだぞ」

「ふむ、なるほど。魔力をどの様に表現するか。シルよ、例えば妾が雷魔法を使うのなら、稲妻をイメージする。それが大事なのじゃな」

「流石はビアンカなのだぞ。稲妻だけでなく雷を鞭のようなイメージにすると、電撃のむちとなる。このような応用方法もあるぞ」

「ふむふむ、なるほど。その人の考えるイメージ次第なんだね、シルちゃん」

「その通りだぞ、サリーよ。お主の聖魔法も、魔法のイメージを考える事が大事なんだぞ」


 シルが説明している事に質問が相次いでるが、要はどの様に魔法を放つかという『想像力』が重要なんだ。

 魔力の制御だけが上手くてもダメなんだな。


「では個別にもう少し説明するぞ。スラタロウは全属性が使えるので、我と一緒に全員の話を聞くんだぞ」

「ミケから行くぞ。ミケは身体強化系だ。我もよく使うが、風の様に速く走るとか、火のように力強くなるとかが良いぞ」

「シルありがとう。風の様に速くかあ。色々試してみるね」


 ミケは身体強化系だけど、それでもイメージは重要なんだ。

 風の様に速く走るとか、シルの例えがとても上手い。


「ビアンカは雷系もそうだが、水系も土系も想像力次第で様々な使い方ができるぞ。水も水球だけではなく霧にしたり水膜にしたりと、色々使い道があるぞ」

「なるほどのう、既成概念にとらわれ無い考え方も必要な訳じゃな」


 ビアンカ殿下にも説明していたが、既成概念にとらわれない考え方か。

 今までにない新しい魔法を生み出すことも可能かな?


「サリーは聖魔法を使う場合、思う事も大事だぞ。悪霊を退治する時も魂を浄化すると考えたり、治癒魔法を使う場合も、必ず治すと自分に言い聞かせる事だぞ。特に治療の現場は凄惨な事もあるので、強い心も必要だぞ」

「相手を思う事、強い心。確かにそうだね、シルちゃん」


 シルがまさしくイケメンオオカミになっている。

 確かに聖魔法は特別視されるから、色々な思いがありそうだな。


「主人の空間魔法は、イメージが大切だぞ。ワープも転送先のイメージが大切だし、ディメンションホームもそうだぞ。上手くいけば空間圧縮とかで攻撃する事もできるぞ」


 そうか、空間魔法は補助的な魔法かと思ったけど、考え方次第で攻撃も出来るんだ。

 本当に魔法は想像力が大事なんだな。


「イメージした魔法がうまく使えるようになるには、昨日の魔力制御が大切だぞ。うまく制御出来る様になれば、数日で魔法を発動することが出来るぞ」

「「「「はい、シル先生!」」」」


 魔法特訓は昨日から始めたばっかりなんだ、焦ってもしょうがないから自分のペースでやろう。

 って思ったんだけど……


 そこにはアースシールドやストーンバレットを使うスラタロウの姿が。


「うわー、スラタロウすごい!」

「妾も土属性はあるが、こうも簡単にやられると悔しいのじゃ。負けてられんのう」

「スラタロウちゃんって、本当に賢者様みたい……」


 あの……、他の人もやる気に火がついちゃった……


「誰が一番最初にできるか競争だ!」

「この妾が負ける事などあり得ないぞ」

「二人に負けないんだから」


 ああ、火がついたどころか、炎上しているぞ……


「ふむ、この分なら直ぐに初級魔法は覚えそうだぞ」


 そしてシルもサラッと流さないの!

 当のスラタロウは、風魔法の瞬足をみんなに見せて、さらに大炎上の元を作っていた。

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