第十七話 冒険者ギルドに行こう!

 チチチチ。

 鳥の声が聞こえるなあ。

 ふわふわのベットで気持ちいい……


「むにゃむにゃむにゃ……」


 ミケが抱きついて寝ているけど、ここは……

 そうか、バルガス様のお屋敷だった。

 見慣れない天井で一瞬焦ったよ。


「ほら、ミケ。そろそろ起きよう」

「くあー、おはようお兄ちゃん。ねむねむ……」

「ほら、二度寝しない。顔洗ってきな」

「うーん、ねむねむ……」

「今日は冒険者ギルド行くんでしょ。それともここで寝ていくか?」

「はっ、そうだよ。お兄ちゃん、ご飯食べて直ぐ行こう!」

「うお、急に目が覚めやがった。そんなに冒険者ギルド行くの楽しみ?」

「楽しみ!」


 ミケは全身で楽しみを表現していた。

 シルとスラタロウは朝からうるさいなあって目でこっちを見ていた。

 

「今日は冒険者ギルド行くんだ! 楽しみ!」

「あら、ミケさんは冒険者ギルド行くのね。じゃあ、しっかり朝ごはん食べないとね」

「うん!」

「ミケちゃんいいなあ。私もいつか冒険者ギルド行ってみたいなあ」

「へへへ!」


 朝食も昨晩と同じ所です。

 ……まだ緊張するなあ。

 ミケはマリー様とサリー様にも冒険者ギルドに行くワクワクをしゃべっていた。

 マリー様はミケに対して、まるで自分の子どもの様に接してくれている。

 しかしミケは本当に色々な人と直ぐに仲良くなるなあ。ミケの魅力だな。


「サトー殿。本日は騎士隊長が同行する。準備が出来たら玄関口で待っていただけますかな」

「妾とバルガス卿は仕事でな。本当は一緒に行きたいのだが残念だ。またの機会に一緒に行こうとするぞ」

「わざわざありがとうございます。一緒に行ける時を楽しみにしております」


 こちらは大人? の会話。隊長さんとは昨日色々話したから心強いなあ。

 バルガス様とビアンカ殿下も一緒に行きたがっていたが、仕事があるんじゃしょうがないね。


「サトー殿、お待たせして申し訳ない。直ぐにでも行こうと思うのだが、可能ですか?」

「いえいえ隊長さん、こちらも今来たところです。こちらの準備も万端です」

「それは良かった。では行くとしよう」

「わーい、冒険者ギルドに行くぞ!」


 朝食後、準備をして玄関口に来ると直ぐに隊長さんが来てくれた。

 ミケは冒険者ギルドに行くワクワクが抑えきれない感じだ。


「行っていらっしゃいませ、サトー様」

「行ってきまーす!」


 いつも案内してくれるメイドさんが見送りに来たので、ミケが元気よく返事をします。

 どうやらあのメイドさんは、俺たちが滞在する間は専属でついてくれるそうだ。とてもありがたい。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃーーん!」


 ついミケが猫語で鼻歌歌うくらい道中は穏やかな天気。

 隊長さんの話だと、お屋敷から歩いて三十分くらいで冒険者ギルドに着くみたいだ。

 乗合馬車もあるそうだが、今日は天気がいいのでこのまま歩きで向かいます。


「本日はオーク肉がお買い得だ!」

「昨日届いたばっかりの新鮮な野菜だよ!」

「珍しい南国の果物だ! 買った買った!」


 住宅街から市場に景色が変わってくると、威勢の良い声が聞こえてきた。

 多くの人が行き交い、様々なものを買って行っている。

 昨日見た冒険者の人たちもちらほら見えるな。


「ここ、バルガスの街は冒険者の街でもありますが、交易の街でもあります。ここから王都や色々な街に様々な物が運ばれていきます」

「そうなんですね。確かに馬車の数も多いですね」


 隊長さんが色々話してくれたが、市場には珍しいものもありそうだ。今度じっくり見てみたい。

 そうこうしている内に、冒険者ギルドに到着。

 街の城壁に近いところに立っている。立地的に冒険者が移動しやすいのもありそうだな。

 建物は意外にも役所風の物で、隣の建物もギルド所有のものらしい。


「今入る所が手続きなどを行う建物で、隣が魔物などを解体する所です。地方によっては受けつけと解体場が一緒で建物も昔ながらの物がありますが、この街には数多くの冒険者がいますので、建物を分けた方が効率が良いのです」


 隊長さんが答えてくれたが、バルガス様のアイディアも入っているらしい。バルガス様はすごいなあ。


「さあ、建物の中に入りますよ」

「うわあ! すごい!」


 隊長さんに連れられてギルドの中に入ったが、ミケは興奮しっぱなしだ。

 俺も少し驚いている。

 

「思っていたギルドと違っていますかな? この街のギルドは受付を多く取り、依頼も冒険者のランク毎にきっちり分けて張り出ししています。その為に騒ぐものも少なくて、あまり混雑せずにスムーズに運営されています。またギルド内に飲み屋はありません。ギルドの向かい側に飲み屋街があり、冒険者はそこで仕事終わりの一杯をやっています」


 ギルドがここまできっちりした運営形態だと思わなかった。前世で見た漫画とかだと、冒険者ギルドは荒くれ者の集まりで、よくいざこざがあり、飲み屋が併設しているイメージだった。バルガス様の手腕がすげー。


「さあ、受付で冒険者登録をしましょう。併せて従魔登録も行いましょう」

「はーい」


 さて、受付を行うのだが、先に申請書を書くらしい。隊長さんに教えてもらいながら色々書いていく。

 この世界の冒険者は五歳から可能なので、ミケも登録可能だ。

 なぜ低年齢でも登録が可能かというと、孤児の対策の為らしい。

 冒険者をしていて両親が亡くなる事もあり、一定数の孤児はいるとの事。

 孤児は街や教会で運営する孤児院に預けられ、そこから薬草とりや簡単な荷物持ちをしてお金を稼げるようにしているらしい。

 そういえは市場にも子どもが物を売っていたが、商業ギルドにも同じ仕組みがあるとの事だ。

 これを考えたのもバルガス様。今日一日で俺の中でバルガス様の評価がうなぎ登りだ!


「冒険者ギルドにようこそ。申請書を確認しますね」


 受付のお姉さんに書き終わった申請書を渡した。この世界でも受付嬢は美人がデフォルトらしい。

 よく見ると獣人の受付嬢もいるなあ。


「はい、記入箇所は問題ありませんね。サトー様、マネーカードをお持ちですか?」


 おっと、マネーカードってあの100万円が入ったカードのことかな?

 受付のお姉さんに渡したら、問題なかった。


「お預かりします。ミケ様はカードをお持ちですか?」

「いえ、持っていませんがどうすればいいですか」

「こちらで発行出来ますので、一緒に手続きしておきますね」


 ミケの分のカードも作ってくれるんだ。本当にいたれり尽せりだなあ。

 ミケもソワソワしているぞ。


「はい、これで手続きは完了ですね。完了したらまた呼びますので、この番号札をお持ちください。続いて従魔の手続です」

 

 番号札を受け取り、従魔の手続きになります。番号札って、前の世界の役所や銀行の様なシステムだなあ。


「従魔登録はこちらの二匹ですね。ではこちらの物を従魔にお与えください。体には一切影響がありませんのでご安心ください」


 受付のお姉さんからもらった飴みたいなものをシルとスラタロウに与えてみた。するとシルとスラタロウの額に小さな紋章みたいな物が浮かび上がってきた」


「これで従魔登録は完了です。以前はペンダントみたいな物を使用していましたが、大きさが変わる魔物やサトー様の様にスライムをお連れの方には使用出来ませんでしたので、最近は服用型の物に変わりました」


 すごいなあ、従魔の事まで考えているなんて。最近の冒険者ギルドは本当に発展しているんだ。


「これで一通りの手続きは完了です。あとは番号札の番号が呼ばれるまでお待ちください」


 少し時間が空いたな。完了まで依頼とか見てみようかな?

 そんな事を考えていたら、二階から男性の職員が隊長さんに声をかけたことで、想定外の方向に物事が進んでいった。


「隊長殿、ギルドマスターの準備が出来ました。どうぞ二階にお上がりください」

「ありがとう。さあ、サトー殿も一緒に行くぞ」

「はーい!」


 昨日のゴブリンの襲撃の報告に来ていた隊長さんが、俺も一緒に行くと言ってきた。

 冒険者カード発行前にいきなりギルドマスターとご対面ですか。

 そしてミケよ、なぜ元気よく手をあげる。これでは断るに断れないじゃないか!

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