第十六話 バルガス家の人々

「ビアンカ殿下、一つおききしたいのですが」

「なんじゃ? なんでも申せよ」

「ビアンカ殿下は、その、怖くないのですか?」


 俺だったら、八歳で命狙われるなんで怖くて仕方ないよ。


「ほほ、なんじゃ、その様な事かえ? 妾は王家の人間じゃ、命を狙われるのは日常茶飯事。王家に限らず貴族の宿命じゃ」


 でも、ビアンカ殿下の手が少し震えている……

 そうだよね、こんな小さい肩に色々な人の人生が乗っているんだから。


「ビアンカ殿下、お話いただきありがとうございます。バルガス様、しばらくご厄介になります」

「サトー殿、こちらこそ無理なお願いを受けていただきありがとうございます」


 こんな小さい子が頑張っているんだ。ここで頑張らないと男が廃るってもんだ。

 それにあの視線は俺たちも害する気満々だったし、こちらとしても対処しないといけない。


「サトー殿、ともあれ今日はお疲れでしょう。ゆっくり休まれるが良いでしょう」


 バルガス様がメイドを呼び、ミケ達がいる客室に戻った。

 客室に戻って、ミケとシルにしばらくここに泊まることになったというと、何故か既にわかっていた様な感じだった。

 特にミケは逆になんで俺が知っていないの? って感じの受け止め方だった。

 ミケさんや、あなた馬車の中でビアンカ殿下と何話していたんだ?


 お屋敷の客室には小さいけどお風呂が付いていた。

 なので、ミケと一緒にお風呂タイムです。

 メイドさんにお願いして、お風呂の準備をしてもらいました。


「我は日中洗ったので、お風呂は入らんぞ」


 シルは、ゴブリン退治でドロドロになったので、川で水浴びしていたから見た目は綺麗になっている。

 それにシルはお風呂が苦手の様だ。


「わーい、お兄ちゃんとお風呂だ! 一緒に泡泡になろう」


 それに対してミケはお風呂が大好きな様だ。体を洗った後はお湯船でまったりしている。

 スラタロウもいつの間にか湯船にぷかぷか浮いていた。

 俺も体を洗った後湯船に入る。ここ二日間は体を拭くだけだったけど、やっぱりお風呂はいいもんだ。


 こんこん。


「サトー様、お食事の用意が出来ました」


 お風呂から上がってまったりしていたら、メイドさんが晩御飯の準備が出来たと呼びに来た。

 あれ? この部屋で食べるんじゃないの?

 案内されたのはとても長いダイニングテーブルがあるお部屋。

 映画の世界でしかこんなの見たことないぞ。

 そしてビアンカ殿下にバルガス様、バルガス様の奥さんと思われる人に、お子さんまでいる。

 テーブルの上には豪華な食事が並んでいて、ミケとシルがよだれ垂らしているよ。

 

「おー、サトー殿。お待たせしてすまないな。ささ、こっちに来てくれ」


 えー! 呼ばれたのはビアンカ殿下の向かい側。ミケはちゃっかりとバルガス様の奥さんの向かいの席に座っているし……

 どどどど、どうしよう。超緊張してきたぞ。


「サトー殿、食事の前に私の家族を紹介する。妻のマリーと娘のサリーだ」

「妻でマリーと申します。この度は夫を魔物から助けて頂き本当にありがとうございます」

「サリーです。お父様を助けてくれてありがとう。お兄ちゃんって強いんだね!」

「マリー様、サリー様。ご紹介ありがとうございます。サトーと申します。この子がミケでオオカミがシルと言います」

「ミケです! このスライムはスラタロウっていうんだ」


 お互いに自己紹介をしていきます。

 マリー様は、バルガス様より少し年下でとてもお母さんには見えないくらい若い!

 サリー様はビアンカ様と同じくらいで、ミケよりも少し大きいかな。スラタロウに興味津々みたいだ。

 そしていきなりお兄ちゃんと呼ばれたよ! サリーちゃん、俺はもうおっさんだよ……

 

 目の前のグラスにワインが注がれて、子どもにはジュースが注がれます。


「今日は色々あったが、こうして新しい縁にも恵まれた。神様に感謝しよう。乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 バルガス様の音頭で乾杯されて、食事が始まった。

 テーブルマナーとかどうしよう……


「お兄ちゃん、このお肉とても美味しいよ!」

「バクバクバクバク」


 横を見ると、ミケがガツガツお肉食べていて、床では皿に用意してもらったお肉にがっつくシルがいた。

 子どもってこういう時すごいよね。

 

 テーブルマナーを諦めて、食事を頂く事にした。

 何これ! このお肉美味い! ワインが今まで飲んだことがないくらい美味しい! とにかくなんでも美味しい!

 

「サトー殿、お味はいかがかな?」

「バルガス卿よ、その質問は無粋じゃ。サトーの顔を見れば美味しいのは一目瞭然じゃ」

「はい、バルガス様。大変美味しいお料理です」

「おお、サトー殿、それは良かった」

「お姉ちゃん、このお料理とっても美味しいよ!」

「ほほほ、美味いかミケよ。たくさん食べるが良い」

「うん!」


 ビアンカ殿下とミケは随分と仲良くなったものだ。

 ビアンカ殿下のお姉ちゃんぶりが微笑ましい。


「バルガス様、豪華な食事ありがとうございました」

「サトー殿、お気に召していただいた様でとても良かった」

「サトーよ、ミケから聞いたがそなた料理が上手と聞いた。今度は妾にも振る舞ってくれぬかのう」

「サトー殿は料理にも詳しいのですか? それは楽しみですなあ」

「いやはや、素人料理ですよ。皆様にお出しするものではないです」

「謙遜するでないぞ、サトーよ。独創的な料理だと聞いておる。楽しみにしておるぞ」

「ははは……、機会があれば……」


 食事が終わっておしゃべりタイム。

 俺が料理出来るのが、ビアンカ殿下経由でバルガス様にも伝わってしまった。

 てか、ミケは馬車の中でどんな事を話していたんだ?

 俺の料理なんで一人飯の簡単なものだぞ。

 ……食べさせる相手なんかいなかったんだから。


「ミケさんもゴブリンを倒したの?」

「そうだよ。ゴブリンをハンマーで吹っ飛ばしたんだよ!」

「ミケちゃんすごい! 他には他には?」

「他にはね、キラーラビット倒したりもしていたんだよ」

「ミケちゃんかっこいい!」


 俺の事をバラした張本人は、マリー様とサリー様に道中の武勇伝を話していた。

 特にサリー様は、自分より小さな子どもが戦っていた事に大興奮しています。

 こんな猫耳幼女がハンマー振り回してゴブリンぶっ飛ばすなんて、想像出来ないよなあ。

 そしてスラタロウよ。あたかも自分も戦った様に揺れているが、お前は戦っていないだろうが。


「うにゃうにゃ……」

「おや、ミケさんはもうおねむかな?」


 そうこう言っている内に、ミケが船漕ぎ始めた。

 今日は色々あったから疲れたのかな?

 マリー様が猫耳幼女がねむねむという、可愛いものが見られたと喜んでいる。

 ミケを抱っこすると、すぐに抱きついて夢の中に行ってしまった。

 スラタロウはミケの頭の上でゆらゆら揺れていた。 


「皆様、ミケが寝てしまったので、私たちは部屋に戻ります。今日は色々ありがとうございました」

「サトー殿、こちらこそ色々ありがとう。明日またよろしくたのむ」

「サトー、おやすみなのじゃ」


 メイドさんに案内されて部屋に戻りベットに入ると、俺も疲れとベットの柔らかさもあり直ぐに寝入ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る