第121話 だからここに戻るのは嫌だって言ったのに……

 この幼女ロリがニーナの母親だと⁉ 冗談も休み休み言えっての!


 俺はそう叫びたかったが、叫ぶよりも先に幼女が口を開いた。


「ちょっと誰か、アタシを持ち上げてくれないかしら?」


 すると、近くにひかえていたエルフの一人がすぐにドラゴンを降りて幼女の元まで駆け寄ると、「失礼いたします」と声をかけて幼女の腰に腕を回し、その小柄な体を持ち上げた。


 そして、ニーナと目線の高さが合ったところで――


 バチン!


 幼女はニーナの頬を思いきりはたいていた。


「ありがとう、下ろしていいわ」


 抱きかかえられた幼女が地面に降ろされると、満足げな表情をして両手をパンパンと叩く。


「はぁスッキリした。親を散々心配させた罰よ。ホントにバカな子なんだから」


 ぷんすか起こる幼女を前に、叩かれて赤くなった頬をさすりながら、ニーナは「むぅ」ともの言いたげな顔をしつつも黙り込んでいた。


「……で? アンタの後ろにいる子は、一体誰なのかしら?」


 そして幼女は次に、ニーナの背後に隠れたラビに向かって鋭い視線を投げる。


「あっ、あの……こんにちは。私、ラビリスタ・S《シャロ》・レウィナスと言います。ニーナさんには以前、命の危機を救ってもらって、以後も色々とお世話になっています!」


 そう言ってペコリと頭を下げるラビ。――いや、だから本名は隠せっていつも言ってるだろ!


 思わずそうツッコミそうになったが、ラビの表情は真剣で、強面こわもてな幼女と向かい合いながらも、視線を逸らすことなくジッと相手の目を見つめている。――ひょっとすると、彼女なりに何か考えがあって、あえて本名を名乗ったのかもしれない。


 一方、ダークエルフの幼女は「レウィナスって……ふぅん……そういうこと……」などと独り言を漏らしながら、しばらくラビとにらめっこした後、こう言葉を切り出した。


「アンタ、なかなか良い目をしてるじゃない。うちのバカ娘と違って、少しは常識ってものをわきまえてそうね。……いいわ、来客なら大歓迎よ。よく来たわね。アタシはエレノア・アルハ。ウッドロット防空ぼうくう騎士団の団長で、そこのバカ娘の母親。よろしく」


 そう言って、ラビの前に手を差し出すダークエルフ幼女。ラビは少し気後れしながらも、おずおずとエレノアの小さな手を握った。一方のニーナは、自分の母親に「バカ娘」と呼ばれ、不貞腐ふてくされた顔をしたままラビの横に突っ立っていた。


「さ、アンタたちも道を開けなさい。お客さんが通るよ」


 エレノアは周りの騎士団連中に向かいシッシッと手を振って、そこから退くように言う。


「しかし団長様、ニーナは反逆罪に問われていて、評議会に連行しなければ、里長さとおさから何を言われるか分かりませんよ」


 騎士団のエルフの一人がそう言うと、エレノアはそのエルフをじっと見て答えた。


「別に明日出頭するのでも構わないでしょ? ニーナは腐ってもアタシの娘なの。せっかく戻って来たんだから、一日くらい家族と一緒に過ごさせてほしいわね。違うかしら?」

「ご、ごもっともです……」


 エレノアの目力めぢからに圧倒されたのか、騎士団のエルフたちはドラゴンに乗ったまますごすごと引き下がり、俺たちが通る道を開けた。あの幼女、あんな小さい見た目をしていながら、周りのエルフたちは皆、彼女に頭が上がらないらしい。何だかはたから見ていてすごくおっかなく思えてくるのは気のせいだろうか……


「……二人とも何してるの? さっさと行くわよ。アタシの後に付いて来て」


 そう言ってエレノアは自分の乗ってきたクリーパードラゴンの背中にぴょんとまたがると、手綱たづなを引いて宙高く飛び上がらせ、翼をひるがえして大樹の上へと登ってゆく。


「はぁ〜あ………だからここに戻るのは嫌だって言ったのに………ほら行こう、ラビっち」


 ニーナはぶつくさ文句を言いつつ、水辺で休憩させていた自分のドラゴンの上にまたがった。そして、彼女の後ろにラビも跨る。


「――ニーナさんのお母さんって、すごい方なんですね」


 ラビがそう言うと、ニーナは苦笑しながらひそひそ声で答える。


「あはは……チビなくせしてウザいでしょ? あれでも私のママなんだよ。メチャ怖くない?」

「確かに最初見たとき、背格好が私とほとんど同じでびっくりしましたけど、あんなにカッコ良くドラゴンを乗りこなして、キツく言うところはビシッと言って、それでいて相手を気遣きづかう優しさにもあふれてます。やっぱり強い女性ってステキですね! あこがれちゃいます!」


 目をキラキラさせてうらやましがるラビを見たニーナは、「えぇ……マジないわ~」とでも言いたげに眉をゆがめて、それからあきれたように首を横に振って手綱を引き、ドラゴンを飛び立たせた。

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