第77話 いざ、サザナミ大大陸へ!
それから、ラビたちによって解放された
そして何より、彼らが一番驚いていたのは……
「えっ!! ラビリスタお嬢様が、この海賊船の船長を⁉」
お客として船長室に呼ばれたメリヘナと「ホワイトベアーズ」のメイド少女たちが、驚きの声を上げた。
「そう。……メリヘナさんたちには信じられないかもしれないけど、今は私がこの海賊船、クルーエル・ラビ号の船長をやっています」
メリヘナの前でそう打ち明け、被っていた
「あのお嬢様が、海賊に……しかも船長を務めているなんて……」
「ふふっ、確かに、にわかには信じられないと思います。だって以前の私は、お父様とお母様の愛を一身に受けて育った、外の世界のことを何も知らない、か弱い籠の鳥だったのですから」
そう言って笑うラビを前に、「何を仰るのですか!」とメリヘナが言う。
「あなたの御父上であるレウィナス公爵様は、ラビリスタお嬢様が強い女性として成長されることを大変期待されておりました。今の御立派になられたお嬢様を見れば、御主人である公爵様もきっと――」
そこまで言ったところで、公爵が殺された過去の悲惨な事件のことを思い出したのか、メリヘナは言葉を止めて顔を背けてしまう。
「………申し訳ありません、お嬢様。あの侵攻があった夜、私たち近衛メイド隊『ホワイトベアーズ』が、敵の侵入にいち早くに気付き、即座に対処していれば、御主人様は――」
「過去のことを責めても仕方がないわ、メリヘナさん。終わったことで自分を責めないで。悲しむあなたを見ると、こっちまで悲しくなっちゃう……」
メリヘナは、そう言葉を返すラビを見て、「申し訳ありません、気分を損ねる発言を、お許しください」と頭を下げた。きっと「あの侵攻」というのはレウィナス侵攻のことで、そのときラビの父親である公爵を守れなかったことに、メリヘナは罪悪感を抱いているのだろう。忠誠を誓った主人を殺されたのだから、その配下の者たちにとっては今も断腸の思いを拭えないはずだ。
メリヘナの話によれば、レウィナス侵攻があったその後、トカダン中大陸含めたレウィナス公爵領は全てライルランド男爵の支配下に置かれ、それまでレウィナス公爵に仕えていた近衛メイド隊「ホワイトベアーズ」は皆奴隷にされてしまったという。しかも、ライルランドの愚行はそれだけで終わらず、トカダン中大陸の森にある白熊族の村々にも軍を送り込み、村の住人たちまで全員捕えて奴隷とし、タイレル商会に引き渡してしまったらしい。
「ライルランドという男が領主となってから、我々白熊族の扱いはガラリと変わりました。また以前のように人種差別が復活し、私たちはどの町でも周りから目を付けられるようになりました。……いいえ、以前よりもっと酷くなったかもしれません。町で私たちが歩いているのを見つかれば、即座に王国軍に通報され、多くの仲間たちが次々と連行されていきました。相手が女子どもだろうと、奴らは容赦なく私たちを鉄の檻に押し込んだのです。本当に動物以下の扱いでした」
ラビは、レウィナス侵攻があった後の話をメリヘナから聞いて、あまりに冷遇されている白熊族たちの現状に眉をひそめていた。
「そんな……なんて酷いことを。お父様は白熊族含めて、全ての獣人たちへの差別が大陸から無くなるよう、あなた方との友好的な関係を築いてきたというのに……」
悲しい表情で言うラビに向かって、メリヘナが言葉を続ける。
「私たちは奴隷にされた後、あの奴隷船に乗せられて、トカダン中大陸からサザナミ大大陸へと移送される途中でした。サザナミ大大陸の港町ウルツィアでは、毎月に一度タイレル商会最大の闇奴隷市が開催されていて、私たちもそこへ出品される予定だったのです」
闇奴隷市。その言葉を聞いた途端に、ラビの表情が険しくなった。
「……ええ、私も奴隷にされたとき、そこでオークションに出されたわ。下品な趣味嗜好の人たちが集まる最悪の催しで、周りから向けられる嫌らしい視線にゾッとして、背筋が凍り付いたのを覚えてる。あの屈辱は忘れられないわ」
かつて自分が奴隷だったときの体験を語るラビ。俺も
などと思っていると、不意にラビがメリヘナに尋ねた。
「そういえば、メイド長のポーラの姿が見えないけれど、同じ奴隷船に乗せられなかったの?」
「……それが、メイド長は我々より先にサザナミ大大陸に移送されてしまったようで、この船には同乗していませんでした」
そう話すメリヘナ。どうやら、近衛メイド隊「ホワイトベアーズ」には、隊を統括するメイド長と呼ばれる者がもう一人居るらしい。だが、俺たちが襲撃した奴隷船に、彼女は乗せられていなかったようだ。
「どうやらライルランドは、メイド長の持つ
能力? それはポーラというメイド長の持つスキルのことだろうか? 一体どんなスキルの持ち主なのだろう?
「そんな……もし先に運ばれてしまったのなら、今頃ポーラさんは――」
ラビはぐっと拳を握りしめ、椅子から立ち上がる。
「助けに行きましょう! ホワイトベアーズは、メイド長のポーラさんが居てこそ成り立つ部隊ですから!」
そう意気込むラビに、ホワイトベアーズの少女たちも次々と賛同の声を上げた。
「私も協力いたします!」
「私も、お嬢様の力になりたいです!」
「是非、我々もこの船の乗組員に加えてください!」
そう懇願する彼女たちを前に、ラビは声高く宣言した。
「あなたたち近衛メイド隊『ホワイトベアーズ』を、今日からこの船で働く乗組員兼メイドとして正式に認めます。かつてレウィナス公爵邸を守る最大の
船長であるラビの宣言を受け、メリヘナを筆頭とするホワイトベアーズの獣人少女たちは、再びレウィナス一族の下で働けることに喜び、船で働くことを許してくれたラビに深く頭を下げるのだった
そうしてメイドの少女たちが互いに喜び合う中、俺はラビに念話でこそっと話しかける。
『ラビ、これからサザナミ大大陸へ向かうのか?』
「はい、メイド長であるポーラさんを助けに行きます」
『話を聞く限りじゃ、サザナミ大大陸では月に一度、タイレル商会最大の奴隷市を開くみたいだが、その大陸がタイレル商会の本拠地になるのか?』
「そうですね。サザナミ大大陸はタイレル侯爵領内にあって、ウルツィアの港町には侯爵の居城もありますし」
つまり俺たちは、ラビたちを奴隷にしたタイレル商会のボス、タイレル侯爵の居城がある町へと向かうって訳か……非道なライルランドと奴隷売買で手を組んでいるくらいだから、そのタイレル侯爵とか言うヤツも、きっとロクな男じゃないのだろう。
――前回、リドエステ中大陸で起きた要塞襲撃事件の後、俺はニーナたちに廃墟と化した要塞の倉庫を調べるように言った。
すると、要塞の倉庫の中には、大量の毒ガス弾が保管されていたらしい。ニーナも「何コレ! 初めて見るんだけど!」と声を上げて騒いでいた。毒ガス弾の格納されていた箱には、タイレル商会のトレードマークである天秤の焼印が押されていたことから、あの砲弾がタイレル商会の開発した新兵器であることは間違いない。一体なぜ、その新型ガス弾を使って黒炎竜を狩っていたのかは分からないが、ひょっとしたら、サザナミ大大陸でその手掛かりがつかめるかもしれない。
いずれにしろ、世界最強の黒炎竜すらダウンさせてしまう毒ガス弾を作るような物騒なヤツらの本拠地へ向かう訳だから、町では常に警戒を怠らないようにしよう。
『なぁラビ、大陸へ向かうのはいいが、くれぐれも気をつけろよ。お前や白熊族の仲間たちを売り飛ばしたり、黒炎竜を残さず狩り捕って皮を剝ぐような非道な連中の集まる敵の
「はい師匠!」
ラビはそう言ってテーブルに置かれた
「総員、出航準備! 進路をサザナミ大大陸へ! ウルツィアの港町に向かいます!」
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