第22話 迫力満点の砲撃演習
床磨きを始めて一週間後――ラビは
『よし、じゃあ次は大砲だ。俺の中には、全部で38門の大砲が積まれている。ずっと放置されてたせいでさびだらけになってるから、砲身の中までキレイに磨き上げるんだぞ』
「は、はいっ!」
ラビは
こうして、次の一週間は全て大砲の掃除に
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【船名】なし
【船種】ガレオン(3本マスト)
【用途】無指定 【乗員】1名
【武装】8ガロン砲…20門 12ガロン砲…18門
【総合火力】1060
【耐久力】500/500
【保有魔力】700/700
【保有スキル】神の目(U)、
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大砲の掃除が終わってから、俺は自分のステータスを確認してみると、なぜか総合火力が
そして、大砲が使えるようになったということは……俺が前から一度やってみたかったことを実践できるようになったということだ。それはずばり――
『ラビ、大砲の
「た、試し撃ち?」
『そうだ。帆船映画や海賊映画に砲撃戦は欠かせないだろ? 大砲が撃てないと、いざ敵が攻めて来たときに応戦する手段がない。だから、お前には大砲の撃ち方も覚えてもらうぞ』
まず初めに俺は、ラビに大砲を撃つための道具をそろえさせた。俺に積まれている大砲は、それこそ帆船映画で見るような古いタイプのもので、一発撃つたびに、いちいち砲身を掃除して、火薬と砲弾を別々に砲口から投入しなければならない。おまけに大砲はかなりの重量があるため、
「う~んっしょ……」
重い大砲の弾を両手で抱え、がに股になりながら必死に運ぶラビ。普通なら大人数名が連携してやる作業を、ラビ一人で全てこなさなければならないとなると、かなりの重労働になるだろう。貴族の出である彼女にこんな力仕事なんてできるのか? という不安はあるものの、こればかりは仕方がない。ラビには大変かもしれないが、これも修行の
ゴロゴロゴロ……
「あぁ、待って!」
甲板の上を転がってゆく大砲の弾を慌てて追いかけたり、誤って火薬を床にこぼしてしまったり、
『足元に気をつけろ。甲板が斜めになれば大砲も動くから、砲台の車輪に足を潰されるぞ』
「はい師匠!」
『馬鹿、弾を入れる前にまず火薬を詰める方が先だろ!』
「ご、ごめんなさい師匠!」
『腰を入れて弾を砲身の中に押し込め、もっとだ! 奥までしっかり入れろ!』
「は、はい師匠!」
……そうして長い
『ラビ、耳を
「はいっ」
耳に両手を押し当て、その場にしゃがみ目を閉じるラビ。俺は「
『ラビ、もう一発撃つぞ、
「えっほ、えほっ、えほっ……は、はい師匠!」
甲板内に立ち込める白煙に
こうして、この日は陽が落ちるまでに全部で十発もの砲弾を飛ばし、大体の射程と狙いを付けるコツを学んだ。これで自衛する手段は得られた訳だが、ラビにももっと訓練が必要だろうし、38門もの大砲を
それから次の日も、俺は丸一日かけて、大砲の射撃訓練を行った。今度は火薬の量を増やしたり、砲身を上に持ち上げたりして、もっと高く、もっと遠くへ砲弾を飛ばすことを目標にした。
こうして砲撃訓練を続けるうちに、面白いスキルが手に入った。
【スキル「
「なんだそれ?」
結論から言うと、このスキルを使うことで、大砲から撃ち出されて飛んでゆく砲弾の
結局この日も、ただひたすら大砲を撃ちに撃ちまくって終わった。最後に、甲板にある全ての大砲に弾を込めて、いつでも発射できるよう準備しておいた。何時またあの商人のような敵が現れるとも限らない。即時に応戦できるよう、予め全ての大砲に弾を込めておくことで、俺が炎魔術を使うだけで砲撃できる態勢を作っておいたのである。
ラビも、最初こそ
『――よし、今日はここまでだ、ラビ』
「は、はい……」
今日最後の砲撃を行った後、満足した俺がそう言うと、きな臭い白煙が立ち込める甲板の中から、ラビの弱々しい返事が聞こえてきた。一日中
――それによく見ると、彼女の様子がどこかおかしい。ラビは両手を腹部に押し付け、苦しげに顔をしかめて背中を丸めている。
『どうした? どこか調子でも悪いのか?』
「へっ? あ、いえ、何でもないです……」
『何で両手を隠してるんだ? 見せてみろ』
俺がそう言うと、ラビは少し恥ずかしそうに
(こんなボロボロな手になりながらも、俺の指示に従って必死に作業をしてくれていたのか……)
俺は感激のあまり胸が詰まった。――よくよく考えてみれば、俺も大砲を動かしたりと手伝いはしていたものの、大抵は指示出ししてばかりで、ラビの負っている苦労などろくに考えもしなかった。
……なるほど、こんなふうに部下のことを何も考えられないような奴が上司になることで、俺が就職していたようなブラック企業は生まれるんだな。俺は今、自分が指示する立場になって、初めてそのことに気が付いた。……ちくしょう、危うく俺をこき使っていた鬼畜上司の二の
「……あ、あの、大丈夫です! 一晩経てばきっと治りますから」
『アホ、そんな手じゃフォークも握れないだろ。手を出したまま動くな』
俺は彼女の差し出した手に向かって、スキル「
「あ、あれ? 手の痛みが引いてる……それに、火傷の跡も」
『治癒魔術を使ったんだ。いいか、これからはどこか怪我したり、体に不調があったらすぐに報告しろ。俺が直してやるから』
そうラビに言いつけると、彼女は少し驚いたように目を見開き、それから少し表情を崩して
「……ありがとうございます。――意外と優しいんですね、師匠」
『勘違いすんな。お前は俺の船にいる唯一の乗組員で、俺の手足なんだ。そう簡単に失いたくないだけだ』
何だかツンデレみたいな返しになってしまい、俺は自分で放った言葉に恥ずかしさを覚えながらも、その感情を隠すように言葉を続けた。
『ほら、さっさと体の汚れを落として、今日はもう寝ろ。明日も早く起こすからな』
「はい! 師匠」
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