第20話 権力争いの渦に飲まれて
ラビは、つい数ヶ月前まで、ロシュール王国と呼ばれる国の一部を統治する領主の娘だったらしい。父親の名前は「シェイムズ・
ロシュール王国は厳格な
しかし、今から約六年ほど前に「
ラビの父親であるレウィナス公爵は、その五人の領主のうちの一人で、戦時中に
その反面、終戦して「レウィナス公爵領」の領主となってからは、レウィナス公爵は他の領主たちのように権力を振りかざすような真似はせず、常に国民に寄り
〇
――これらの話は、娘であるラビの口から聞いたことだから、父親の功績についていささか美化が過ぎているところもあるかもしれない。
けれど、民を率いるリーダーとしての手腕はしっかりと持ち合わた人物であったらしく、ゆえに国民からの人気も高かったのだろう。さっきのラビの話からも分かるように、家族関係も良好で、良き父親としての一面も持ち合わせていたようだ。
――しかし、そんな幸せな家庭に、あるとき突然悲劇が襲う。
「お父様の管理する領地のことで不満を持った一人の領主――フョートル・デ・ライルランド男爵が、自ら兵を挙げてレウィナス公爵領に侵攻したの。皆が寝静まった夜を狙って、一斉に攻撃してきて……私たちの屋敷は、瞬く間に地獄と化したわ」
どうやら、そのライルランドという領主がクーデターを起こし、ラビは領主同士の争いに巻き込まれてしまったらしい。
「お父様とお母様は、私を信頼できる一人のメイドに託して逃げるように言ったの。『私たちも後で行くから』って……でも、それは
そこまで言葉にしたところで、ラビはショックに耐えられなくなったのか、口を手で押さえたまま目からポロポロと涙をこぼした。
『それから、ラビはどうなったんだ?』
「私は……メイドと一緒に屋敷の外へ逃げたけれど、敵の兵士に追われて、
そのとき感じた恐怖を鮮明に思い出してビクッと身を震わせるラビ。それは多分、敵に追い詰められて危機的状況に
「そうして気付けば、私の手はメイドの手から離れて、闇の中に吸い込まれていた。絶対に
ラビはそこまで言うと、回想するのに疲れたのか、大きく息を吐いて舷の手すりに体をもたれた。
――それから、湖に落ちたラビは、男爵の率いる兵たちによって引き上げられ、奴隷商の手に渡って、最終的にあの鬼畜な商人に買い取られたのだという。
これまで家族に囲まれ、暖かで何不自由の無い暮らしを送ってきた娘の元に、
(畜生……やっぱり
精神やメンタル的に問題有りのラビを乗組員として迎えてしまった俺は、そのしわ寄せにどう対処すればいいのか、頭を抱えてしまう。
「あの、本当にごめんなさい。私にもっと力があれば……私がもっと強ければ、あなたを困らせることも無かったし……私の家族も、救えていたかもしれないのに……」
ラビはそう言ってその場に座り込み、目に涙を浮かべたまま、悔しげに唇を噛んだ。
しかし、今さら悔やんだところで、状況が好転することはない。
『――そう、今さら後悔しても遅いんだよ』
俺は、誰にともなくそう声に出していた。かく言う俺自身も、この世界に転生する前、何度同じ言葉を唱えたか分からない。現状を変えられなかった自分の無力さを痛感し、何度悔やんだことか分からない。
『……力が欲しいのか?』
そうして気付けば、俺は甲板に崩れ落ちたラビに向かって問いかけていた。
『強くなりたいのか?』
俺の問いかけに、ラビは顔を上げ、拳を強く握って答え返した。
「ええ、強くなりたい……もっと強くなって、こんな何もできない私自身を変えたい。両親に
少女の
『……なら、俺が
俺の言葉に、少女は強く
「はいっ! よろしくお願いしますね、師匠!」
そう言って、ニコッと
(……いや、そうは言ったものの、やっぱり一筋縄にはいかなそうだよなぁ……)
俺は自分のことを「師匠」と呼ぶあどけない少女を前にして、大きなため息を吐くのだった。
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