第7話 餌付けは友好関係を築く基本

 俺は再び図書室に戻り、雷魔術の基礎である「雷魔術入門基礎Ⅰ」を本棚から引っ張り出した。そして基礎である「雷生成サンダー・ジェネレイト」の呪文を覚え、テールラットが大量にのさばる下砲列甲板ロワー・ガンデッキ内で唱えてみた。


『“自然の理よ、我が手に委ね、新たな稲妻いなずまの光を正しき道より見出したまえ――顕現せよ、雷生成サンダー・ジェネレイト”!』


 詠唱と同時に床に魔法陣が描かれ、そこから生み出された幾筋いくすじもの雷光が、テールラットの大群を飲み込み、広範囲に渡ってなぎ払った。


 これはすごい! たった一発打っただけで、感電したテールラットが何十匹も床に転がった。


【スキル「雷魔術基礎:Lv1」が解放されました】


【経験値が一定値に達しました。各種スキルLvが上昇します】


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【船名】なし

【船種】ガレオン(砲38門)

【総合火力】720

【耐久力】500/500

【保有魔力】430/510

【保有スキル】神の目(U)、閲読えつどく、念動:Lv3、鑑定:Lv4、遠視:Lv3、夜目:Lv3、水魔術基礎:Lv1、火魔術基礎:Lv1、雷魔術基礎:Lv1

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『おっ、また総合火力が上がってる。それに、保有魔力の上限も少し増えてるし、害獣退治ついでにレベルアップまでできるなんて、一石二鳥だな』


 俺は「念動」を使って甲板デッキに置かれていたバケツを持ってくると、その中にテールラットの死体を集めて、湖に放り投げてやった。


 途端に、水中で待機していたレイクザウルスが、えさをもらうこいよろしく、バシャバシャと水しぶきを上げながら豪快ごうかいに食い付いてゆく。


『ほら、腹減ってんだろ? どんどん食えよ』


 レイクザウルスは、こちらが投げた餌を全て食べ尽くしてしまうと、水面に顔を出して長い首を持ち上げ、俺に礼を言うように咆哮ほうこうを一つ上げると、満足したのか湖の底へ消えていった。


 レイクザウルスへの餌やりが終わると、俺は再び図書室にこもって、読書の続きを始めた。他にも知りたいことは山積みだったから、いつまででも図書室に居座り続けることができた。こんなに活字本を読んだのも久々だ。何だか少し賢くなったような気がする。


 そんなこんなで、この世界の知識や魔導船についての知識収集に励んでいるうちに、あっという間に一夜が明けてしまった。


 ステータスを見てみると、昨日害獣退治の際に使用して400近くまで減っていた魔力も、一晩すると450くらいまで回復していた。魔素マナを集める帆を張っていなくても、魔力は少しずつ回復していくようだ。大体半日で50回復、一日で100回復というところか……


 そんなことを考えていると――


 コン、コン、コン……


『ん? 何だ?』


 船底から何やら音が聞こえる。水中で何かが当たっているのか?


 俺は不思議に思って視線を湖の中へ向けてみる。するとそこには――


『げっ……』


 昨日エサをあげて満足して戻っていたはずのレイクザウルスが、またやって来ていた。しかも、今度はさらにデカい奴をもう一匹連れて。


 デカい方は体長二十メートルはあるだろうか? 小さい方の二倍、いや三倍ほどの大きさだ。


『まさか……親を連れて来やがったのか!』


 俺はレイクザウルス親のステータスを参照してみる。


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【種族】レイクザウルス

【HP】410/410

【MP】0/0

【攻撃】230 【防御】250 【体力】310

【知性】48  【器用】210 【精神】150 

【保持スキル】潜水:Lv6、突進:Lv6、噛み付き:Lv7、警戒:Lv4、冷寒耐性:Lv3、水圧耐性:Lv2

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 流石に巨大なだけあって、ステータスも桁違いだ。あんなのに本気で体当たりされたら、こんな船でも余裕でひっくり返せてしまうかもしれない。


 すると、デカい親に付き添っていた子レイクザウルスが、また物欲しげに俺の船底を小突いてくる。


『なに? ボクだけじゃなくてママの分も頂戴ってか? 欲張り言うなっての! そんなデカい体じゃ、ネズミを何匹殺したところで足りないだろうが!』


 そう叫びたかったが、下手に刺激してあのデカいのを怒らせたら、今度はマジでひっくり返されるかもしれない。ここはやはり機嫌を取るしか……


『あぁもう分かったよ……俺の中にいる奴みんなぶっ殺して持って来てやるから待ってろ!』


 俺はテールラットのウヨウヨ居る下砲列甲板ロワー・ガンデッキへ目を向け、雷魔法を魔力ゼロにならないギリギリの数値になるまで唱えまくってやろうと決めた。しかし、俺のスキル「念動」も若干の魔力を消費するため、上の甲板デッキにテールラットの死体の山を持って運ぶための魔力も残しておかなければならない。


『ええい、面倒くせぇ……』


 俺はブツブツ文句を垂れながらも、可能な限りの魔力で電撃を放ちまくった。テールラットの集団はチュウチュウ叫びながらパニックになって逃げまどっているが――無駄だ、俺の船のどこにも逃げ場なんてありはしない。まさに「袋のネズミ」とはこのことだ。


『ふはははっ! どこへ行こうというのかね? 無駄だ! 大人しく俺の雷に打たれてしびれろっ! “自然の理よ、汝の法則を(※以下略)――顕現せよ、雷生成サンダー・ジェネレイト”!』


 逃げまどうネズミたちを前に、調子に乗ってイキり散らす俺。転生前の世界では色々とストレス溜めっぱなしの生活だったから、ここへ来て溜まった鬱憤うっぷんが爆発したのかもしれない。どちらにせよ、今の気分は爽快だ! 俺の船内にいる害獣どもをまとめて駆逐くちくしてやる!


 しかし、俺の船にいたのはテールラットだけではなかった。陽の光が当たらない最下甲板オーロップデッキの中を、パタパタ羽音を響かせながら忙しなく飛ぶ黒い影。甲板デッキの天井につり下がり、真っ赤な目を光らせるその生き物に「鑑定」を使ってみると――


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【種族】ポイズンバット(魔物)

【HP】25/25

【MP】10/10

【攻撃】41 【防御】10 【体力】28

【知性】15 【器用】22 【精神】12 

【保持スキル】警戒:Lv2、毒牙:Lv4、夜目:Lv5、音響増幅:Lv2

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 ついに来たな、魔物のたぐいが。こんな奴らでも魔法は使えるらしく、なけなしだがMPも備えている。とはいえ、HPはテールラットと同程度。こいつらも雷魔法で簡単に落とせるだろう。俺は奴らのつり下がっている天井めがけて「雷生成サンダー・ジェネレイト」を唱えた。天井に魔法陣が描かれて閃光せんこうが走り、雷に打たれて焼け焦げたポイズンバットたちがポトポト床に落ちてゆく。


「こんなのも、あいつら食べるのか?」


 ポイズンって言うくらいだから、毒を持ってると思うのだが……まぁ一応投げてみるか。


 俺はひっくり返ったテールラットとポイズンバットを拾い集めてバケツに入れ、上の甲板デッキまで運んで、湖めがけて威勢よく放り投げてやった。


 すると、あの恐竜親子は毒などお構いなしに全て平らげてしまったのである。さすがにあれだけ体が大きければ、ポイズンバットの毒など効果も無いのか……


 さらにねだってくる親子だが、あいにく手元にあるえさは全て投げきってしまった。


『もっとやりたいところだが、もうそろそろ魔力が切れそうだ。今日の所はここまでで頼むわ』


 なんて、あいつらに言ったところで聞いてくれてるはずないか……などと思っていると――レイクザウルスの親が俺の方にすり寄ってきて、船体にスリスリ頬ずりしてきた。


『こいつ……俺をエサやり担当の飼育員と勘違いしてんじゃねぇのか?』


 俺はあきれてため息を吐く。レベルアップついでの害獣退治をしていたら、恐竜親子に懐かれてしまったらしい。まだ魔導船(俺自身)を動かせない状態である今、この親子とはもう少し長く付き合わなければならなそうだ。


『ちくしょう……近いうちに絶対ここから抜け出してやるからな……』


 ――ちなみに、今回のテールラット&ポイズンバット討伐で、俺のステータスはこのようになった。


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【船名】なし

【船種】ガレオン(砲38門)

【総合火力】750

【耐久力】500/500

【保有魔力】610/610

【保有スキル】神の目(U)、閲読えつどく、念動:Lv5、鑑定:Lv6、遠視:Lv4、夜目:Lv5、水魔術基礎:Lv2、火魔術基礎:Lv2、雷魔術基礎:Lv3

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