第4話 たまにはインテリになってみるのも悪くない
空の中を進む船団を目撃したとき、俺はこの世界のことについて並々ならぬ興味が湧いた。
この世界には、一体どんな乗り物が存在するのか。あの空飛ぶ船の動力源は何なのか。あの遠くに見える大陸――いや、この世界の地理はどうなっている? 船に国旗が掲げられているということは、この世界にも国が存在する。ならばどんな国家があるのか? 情勢は?
とにかく分からないことが多すぎた。今一番必要なものは情報だ。この世界のありとあらゆることを深く理解しなければ、船であれ人であれ、どちらにしろ生きてはいけない。
そこで俺はひらめく。――図書室だ。この船の
『……とはいえ、俺は船なんだよな。船が読書なんてできるかっての!』
そう声を上げたとき――
【スキル「
『は?』
俺は、新たに解放されたスキルの詳細を確認する。
【閲読:書物を開かずとも、触れるだけで内容を読解できる】
『ほう? 本を開かずに触れるだけで読めると? 触れればいいってことは、俺で言う体は
考えるよりやってみた方が早い。俺はスキル「念動」を使って、図書室の棚に収められた本を一冊引き抜こうとした。
しかし、まだLv1ということもあり、力の調整が上手く行かず、一冊取り出すはずが、棚にある全ての本を床に落としてしまった。
「ああ、ちくしょう……」
力を上手く操れないことにイラ立ち、思わず舌打ちする。
すると、本の散乱した床に、突如として魔法陣が現れた。そして次の瞬間、脳内に情報が
【書籍名:「賢王ウルヴァール王子の冒険 上の書」】
【書籍名:「ラマダール=サリマン連合王国の歴史11 ~国家併合と連合国家形成までの道のり~」】
【書籍名:「初心者でも分かる薬草調合術」】
【書籍名:「ドクトル・メイの教える四元素魔術入門」】
【書籍名:「新訳 聖ハウルヌス言録」】
【書籍名:「キルシャー・サーガ 〜眠れる秘宝と蘇りし古代皇帝たち〜」】
【書籍名:「図解 魔導帆船大全 ~完全版~」】
【書籍名:「ヨハム・ベルメル提督監修 ボードゲームから読み解く空戦術」】
【書籍名:「一から始める宮廷ピアノ演奏練習講座」】
etc……
どうやら、「書物に触れる=床に置く」ことでこのスキルは発動できるようだ。題名を見た限り、歴史本から冒険小説、教本、聖書や魔術書らしきものまで、様々な書物が保管されているらしい。試しに一冊の書籍名を選択してみると、本を開かずとも内容を読み、理解することができた。
『なるほど……これは、この世界の知識を得るには絶好の場所だな』
俺はまず手始めに、自分のこと――つまりこの「船」についての知識が記してある書物を探した。自分自身の動かし方を知らなくては、永遠にここを動けない。そして俺が目撃した、あの空飛ぶ船の正体についても知りたかった。この世界に存在する船舶は全てあのように空を飛ぶことができるのだろうか? もしそうなら、俺だって空を自由に飛ぶことができるはずだ。
そんな期待も込めて、俺は図書室に置かれている本を片っ端から引っ張り出し、床の上に散らかして、スキル「閲読」を使い読みあさった。
○
――結論から先に言うと、あの空飛ぶ船のことは「
この世界の大気には、魔法を行使するために必要な魔力の源「
これらの
『って、ちょっと待て……フラジウム結晶って――まさか俺の
俺は視点を
『そういや、俺は鑑定スキルを持ってたじゃないか。それを使って調べれば、このモノリスの正体もすぐに分かるんだったな』
俺はモノリスに鑑定魔法を使ってみた。
【フラジウム結晶:フラジウムを結晶化させたもの。重量500グリム級。】
やっぱりフラジウム結晶だった! ってことは、俺もあのとき目撃した船のように空を飛べるオプションが付いているということになる。これはうれしい発見だった。水陸両用であるというのなら、行動範囲はこの
ちなみに、フラジウムについて図書室にある書物を調べたところ、「世界マテリアル図鑑」という本にこう記されていた。
〈フラジウム〉
地中の岩石に含まれる物質で、魔素を魔力に変換して磁場を発生させることができる。これを結晶化させた「フラジウム結晶」は魔導船の動力源として使用される。この物質は世界各地で発見されており、大陸が浮遊しているのも、地盤に含まれたフラジウムによる磁場の影響である。しかし、フラジウムを岩石から抽出して結晶化させる手法は第二等級以上の魔術師、および第一等級錬金術師でなければ会得できないほど困難な作業であり、生成されたフラジウム結晶がどのくらいの大きさなのかにより、生成に
なるほど、物質としては世界中で普通に見つかるもののようだが、結晶化させるにはとても高度な技術が必要であり、ゆえに結晶は希少かつ高価なものであるらしい。
……ってことは、俺が載せているこのフラジウム結晶は、かなり希少なのではないか? 見た感じ高さ一メートルくらいあるし。
とにかく、この結晶が積まれているということは、俺はただの帆船ではなく「魔導船」なのだ。魔導船が動く仕組みも理解できた。俺のいた世界でいう帆船とは少し異なるが、帆を張ることで動く原理は変わらないようし、そうと分かったならさっそく帆を広げて、いざ大海原へ――
『……って、船である俺にどうやって帆を張れっていうんだよ!』
まだこの体に慣れていないこともあって、自分が船そのものであることをつい忘れてしまっていた。俺は自分の体の一部であるマストへ目を向ける。船体から伸びた三本のマストには、帆をかけるための
「こりゃ骨が折れそうだな……俺の念動スキルで、あの帆を固定してるロープを外せないものかな……」
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