第2話 で、これからどうするよ?
『はは、は………はぁ……』
とうとう笑うことにも疲れて、俺は一人項垂れる。
『悪い夢だったら覚めてくれるとありがたいが、どうせもう死んでるから無理な話だよな……』
転生するなら、どこかの国の王子とか勇者がテンプレだと思うんだが、まさか船とは……一体どこの馬鹿が考えたラノベ設定を引っ張ってきたんだ? てか、人でもねぇし!
ここへ転生する前の俺は、あまりラノベなんて読んでこなかったのだが、異世界転生ものではチート能力? というものがお決まりであるらしい。
だが、船になった俺に一体どんなチートが使えるっていうんだよ? こんな体じゃ剣も振るえないし、敵の前へ飛び出していったところで、乗り込まれたらそれで終わりじゃないか。
『畜生……転生先でも人生――いや、
しかし、わめき散らしたところで何の意味もなかった。いくら「人間に戻りたい」と叫んでも、俺の体は依然として船のままだし、湖の上に置き去りにされている現状も変わらない。
(……もうさぁ、なっちまったものは仕方がないだろ。転生する前だって散々な目に遭ってきた身だ。このくらいで音を上げてたら、この異世界でも生きていけないかもしれないんだぞ)
冷静さを取り戻した俺は自分にそう言い聞かせ、それから弱音を吐く俺自身へ活を入れるように声を上げた。
『……あぁ、分かってるさ。これが現実だっていうのなら――上等だ。こんな体になっても生きていけることを証明してやる! 神様だか何だか知らねぇが、俺をこんなデカい船に転生させた野郎、見てやがれ! ラノベの王道ストーリーみたいに、この世界でも成り上がってやるからな!』
――かくして、俺の異世界での新たな人生……いや、新たな船生が、ここから始まったのだった。
〇
『……とはいっても、船だから水の上しか移動できないってことになるよな。ここは湖だし、いくら広いとはいえ行動範囲がこの湖だけに限られるってのはキツイな。第一、俺自身の動かし方すら分かんねぇし……』
俺はため息を吐き、少しでも自力で動かせないか、体に意識を集中させて、身じろぐように力を入れてみた。
――すると、体は少しも動かない代わりに、とある変化が起こった。
【スキル「念動:Lv1」が解放されました】
また何処からか声がしたのである。一体何なんだこの声は? スキルって、ゲームとかでいうあのスキルのことか?
……ってことは、ちょっと待てよ。
ひょっとしたら、俺にもチート級のスキルが備わってる可能性があるってことじゃないか? なんかさっき「神の目」がどうのこうの言ってたし……もしや神級の力が手に入ったのでは? 俺の胸で期待が膨らむ。
『こういう時に、「鑑定」とかのスキルがあったら強いんだけどな……』
【スキル「鑑定:Lv1」が解放されました】
『うおっ! あるのかよ! しかも解放されちまったじゃねぇか』
ならば、さっそく使うまでだ。まずは俺自身についての情報を引き出してみるか。どれどれ……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【船名】:なし
【船種】:ガレオン(砲38門)
【総合火力】:700
【耐久力】:500/500
【保有魔力】:500/500
【保有スキル】:神の目(U)、念動:Lv1、鑑定:Lv1、夜目:Lv1
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
おぉ、自分の意識の中に情報が表示された。これが今の俺のステータスというわけか。この船、どうやらまだ名前が付いていないらしい。船種は「ガレオン」というらしいが、正直よく分からん。総合火力ってのは、攻撃力のことか? それに「砲38門」ってことは――
……そうか、この船、大砲を積んでいるのか。昔ながらの帆船が登場する
そう考えると、途端に恐ろしくなった。あんな強力な砲弾の雨を食らったら、絶対痛いどころの話じゃ済まない気がする……
――となると、砲撃などの物理攻撃に耐えられるゲージが、ステータスにある「耐久力」であるようだ。「保有魔力」ってのは言葉のままなのだろうけど、船が魔力を保有できるのか?
ステータスを見る限り、初っ
問題はスキルだ。この「神の目(U)」ってのは、どういう能力なんだ? 最後に付いてる(U)ってのはユニークスキルの略なんだろうけど……
と、いろいろ思惑していたら、各スキルの解説文に画面が勝手に切り替わってくれた。
【神の目(U):船外・船内問わず、視点の切りかえ、視点移動、あらゆる角度での視認が可能。ただし、遠視や自身から離れた場所への視点移動・視点切りかえは不可】
【念動:魔力を使用し、物体を触れることなく動かす】
【鑑定:対象を判断・評価して得た情報をステータスとして反映する】
【夜目:夜間・暗闇でも対象の視認を可能とする】
すげぇ、各スキルにきちんとした解説が載っているではないか。
『だが、「神の目」だけはスキル解説見てもあんまりよく分かんねぇな。……でもまぁ、実際に使ってみれば分かることか』
「船外・船内問わず」ってことは、俺の内側――つまりこの船の内部も見ることができるらしい。俺は意識を自分の内側へと向けてみた。
すると、突然視点が切り替わり、船の甲板らしき場所が目に入った。木造の船で、年季が入っているせいか、かなり汚れや劣化が目立っている。マストに掛かった帆は色あせてところどころ破れているし、マストと船体を繋いでいるロープもあちこちほつれてしまっている。甲板の床も湿気のせいで酷くヌメっているし、こりゃひでぇな……
転生する前、俺の暮らしてた一人部屋も汚かったが、今回は汚さのレベルが違う。部屋を散らかし放題にしていた俺が言うのもアレだが、こんなことを口にするのは、本当に久しぶりな気がした。
『――掃除、しないとな……この体でできる訳ねぇんだけどさ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます