おもかげ
笑門みら
おもかげ
生温かい風が吹いてきて、頬や髪にまとわりついてきた。周りでは、うさぎたちが可愛く色とりどりに咲く草花の合間をその風と戯れている。
見上げると、暗闇に明るい星たちが輝き、その暗闇を暗黒へと引き込んでいくようだ。私は、その中で一番大きく青く輝く星を見つめた。
女官たちには、いつも、あの星を見てはいけないと言われる。なぜかと聞くと、あの星を見ることは忌まわしいことだとそれしか言われなかった。
その青い星を見ることが許されぬ私の部屋には窓がない。でも、私は見ることを止められなかった。
部屋に一人いると、いつもどこからか呼ばれているような気がして、その声が聞こえるほうへ辿っていくと青い星が見えるところへたどり着く。
その星を見上げていると、私は吸い込まれたように瞬きもするのも息をするのも忘れて見てしまう。
綺麗だとか、そういうことではない。見ていると、なんだか幸せな気分になれたり、辛くなったり。愛しくなったり……。
しばらく見つめていると、この世界では見覚えのない三人の顔が浮かんでくる。
二人は、しわくちゃの顔した白髪頭、優しい顔立ちの老夫婦。と、肌は白く、りりしい顔立ちの、若い男。
「あなたたちは誰なの?」
そう訪ねても、三人は、何も言わず、ただ私に微笑んでいる。私も、それに答えて、微笑んだ。
この世界で、私に心から微笑んでくれる人なんていない。だから、この三人が愛しくて愛しくて。
なのに、三人はだんだん悲そうな顔になっていく。なんでそんなに今にも泣きそう顔をするの?
私は、一生懸命笑って見せた。
でも、三人は淋しそうな顔でどんどん離れていく。
私まで哀しさがこみ上げてくる。
「待って。行かないで」
こみ上げる思いが、頬に伝う涙を溢れさせて、私はもう止めることはできなかった。
すると、男は私の頬に伝う涙を優しく拭いながら、また私の名を呼んだ。
なんでそんなに私を呼ぶの?
その男は、いつものように優しい声で私の名を呼ぶ。
「かぐや姫」と……。
おもかげ 笑門みら @8saku_m
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