リンドールの宰相

「いい加減、本当の事を言ってはどうです?」

「……」

尋問官の言葉にディエスは呆れている。



最初から最後までディエスは本当の事しか言ってない。

公正であるべき者がこうでは話しが通じない。


「やってない、と最初から言っていますが」

「証拠はあるんだ!ディエスにしか考えられない!」


痺れを切らし、大声を上げられる。


「失礼、しかし明確な証拠があるのに白を切るとは罪が重くなりますよ」


人身売買など認めたら死罪以外ないじゃないか、とディエスは内心悪態をつく。


「お前が人身売買のため賭博場に出入りしていたり、偽名だが、ディエスの筆跡の人身売買の契約書を見つけた。確たる証拠だろ」


「もしも私が本当に人身売買するならば、見られないようにしますよ。体型を変えたり顔を変えたり。何故私とわかる姿で行くのですか?」

「ぬっ?!」


隠そうともしないなんておかしい。


「筆跡についても、サイン程度なら真似できる者も多いでしょう。私は宰相だ。練習すべき手本は書類の数ほどある」


陥れる事など容易いという事だ。


「しかしお前の家族は、お前が捕まるとすぐに逃げた!ずっと準備をしていたのではないか?!アドガルムもお前の再審を求め、お前に危害を加えると報復をすると脅してきた。娘たちをアドガルム王城で保護させるなんて、アドガルムのスパイだったのではないか?!人身売買のお金も、アドガルムに送るためだったのではないか?!」


「王太子エリック様がレナンに惚れただけです。惚れた女の父だから助けようとしてくれてるんですよ。

私はこの国の宰相です。独自のネットワークは有って然り。リリュシーヌや娘達に何かあれば、物理でシグルド殿に殺されますからね」


助けてくれた理由を聞いて驚いたが、どうもエリックは本当にレナンが好きらしい。


剣聖シグルドを敵に回したことは、リンドールでも問題にはなっていた。




娘婿を解き放て、冤罪だ!

返さなくば領地諸共アドガルムに側に付くと。


王家の騎士団がすぐさまシグルドの領を抑えに向かったが、シグルドの鍛えた自警団には勝てなかった。



常に魔獣などと戦って実践慣れしている自警団と、ぬくぬくと王宮で型通りの訓練をする騎士団では実力差が開いていた。


統率力と団結力がまず違った。

臨機応変に対応し、連携も取れている自警団は逆に騎士団を捕虜とし、ディエスの解放を求めている。


騎士団は貴族の息子が多い。


捕虜になってると聞き、要求を飲んで息子を返してほしいと親たちからも嘆願が来ている。


リンドールはうまくいっていない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る