心を開くのは

「レナン嬢、ミューズ嬢、この国はいかがでしょうか」

エリックの問いかけにレナンが応じる。


「皆さんとてもお優しいです。わたくし達のような者を受け入れて下さり、感謝していますわ」


「私もこのような待遇嬉しく思います、ありがとうございます」

ミューズも頷く。


今はティータイム。

エリックとティタンと一緒に紅茶を嗜みながら、淡々と二人の淑女は応じている。




アドガルムの皆は優しい。

だからと言って二人の不安が尽きるわけではなく、若干の警戒心もある。




異性と過ごすわけで警戒をされて当たり前ではあるが…エリックは思考を巡らす。

どうしたら令嬢方と近づけるか。


レナンもミューズもとても美しい令嬢だ。

公爵令嬢として厳しく学んでいたのだろう、気品溢れる仕草は王族であるエリックの目から見ても、とても綺麗であった。


レナンはやや背中を丸めているが、女性にしては長身だからだろうか。

真っ直ぐな銀髪と青い目は涼やかな印象を見せるが、時折見せる感情豊かな表情が可愛らしさを演出している。



ミューズは軽くウェーブのかかった金髪で金と青のオッドアイをしている。

小柄な体躯ながらも豊かな胸をしている。

姉妹でありつつ、レナンとはタイプの違う可愛らしさだ。



「不自由があれば、すぐにでも伝えて下さい。できる限りの事は致しますので」

エリックはあくまでにこやかに、優しく語りかける。


「こうして匿ってもらえただけで充分です、それ以上の事をして頂くわけにはいきませんわ。わたくし達は…罪人の娘ですから」


冤罪だとは信じている。

しかし現状ではレナンとミューズは、そのような立場だ。

喩え裁判中であっても、大々的に勾留されているのでは周囲から罪人としか扱われない。

世間は容疑者に厳しい。


「…リンドールではわかりませんが、ここでは大事な賓客です。ぜひ沢山ののおもてなしをさせて頂きたい」


エリックは、侍女にあるものを持ってくるよう命じた。


「こちらは私達兄弟から、お二人へのプレゼントです」

持ってきてもらったものを見てもらう。


「本やお菓子、ですか?」

「えぇ、私とティタンが選びました。今日の紅茶の茶葉はリオンが。今はリオンは勉強のため席をはずしていますが…どれもあなた方のお気に召せばと、用意してみたものです」


エリックは本を一つ、手に取る。


「これらは最近発売されたものなのですが、気に入るものがあれば、後で部屋に運び入れますよ。全てでも勿論構いません」

「ありがとうございます」


本好きのレナンには、とても嬉しい贈り物だ。


十冊近くあるそれをタイトルだけ確認していくが、その中に発売を楽しみにしていた恋愛小説を見つけ、思わず声が出てしまった。


「気に入ったものがあったようですね」


「はい。こちらずっと楽しみにしてまして、まさか読めるなんて思いませんでしたわ」


思わず弾んだ声が出てしまい、ハッとする。

こんな大変な時に、悠長な事を言ってはいけないと。


「好きな事を楽しみましょう」

こういう状況だから、張り詰めすぎては心が疲弊してしまう。

エリックはレナン達にもっと笑顔になって欲しかった。




エリックは隣に座るティタンを肘で小突く。

ティタンは慌てて口を開いた。


「こちらは巷で人気のお店から取り寄せて見ました。甘いのがお好きと聞きましたので」

箱を開けると一口サイズの、色とりどりのチョコレートが入っていた。


「とても綺麗ですね」

ミューズの顔がパァーッと輝く。


ティタンはホッとした。


「良かった…ぜひお召し上がりください。味もそれぞれ違いますよ。ミューズ様は他にもどのようなスイーツが好きですか?」

「チョコレートが一番好きですが、アイスなども好きです。こうして、このように甘いのを食べれるのは、嬉しいです」


恥ずかしそうにする姿も可愛らしい。

会話の糸口を見つけられ、ティタンも嬉しそうだ。


「これらを購入したお店はカフェがあります、ケーキやアイス、ワッフルなどもあります。ぜひ今度ご一緒してください」

「機会があれば、その時はお願いしまうわ」


さりげなくデートのお誘いをしたが、ミューズは気づかず社交辞令で交わす。





アドガルムに来てから、レナンとミューズはほぼ寄り添うように過ごしていた。


ティータイムが終わり、ティタンとエリックの従者のニコラが、エリックの執務室に集まる。


「そう簡単に、この状況で心を開け、とは言えないな」

エリックは深いため息をつく。


「普通は自分の身内が投獄されてたら、生きた心地もしないでしょうし、無理もない事です。でも好きなものにはやはり反応がありました、良かったのではないですか?」

控えていたニコラからはそう見えた。


「顔見知りから知り合いになった、くらいじゃないか?反応的にはまだまだだな」

ティタンは少し落ち込んでいた。


鼻にもかけられてないのは、目に見えて明らかだったから。


「あんなふわふわで可愛らしい令嬢、初めて見た。俺を怖がりもせず、無視もせず…兄上が隣にいるのに、俺にも反応を返してくれる、女神か?!」


ティタンは兄に比べられ過ぎて、第二王子なのだが、令嬢達からはあまり好意を持たれた事がなかった。


ミューズの反応はそんなティタンにとって新鮮で、恋に落ちるのは一瞬だった。


年の割には体格も良いティタンと並ぶと、ミューズは本当に小柄で、尚且このような状況だ。

守ってあげたいという庇護欲も凄まじい。


「良い子そうだし、何より魔力も高い。近くにいてもらえたら頼もしいな」


弟の恋を勿論応援する。


そして、ミューズは一人で転移術を使えるほどの多量の魔力を保持していると聞いた。


王家にとっても有益な令嬢だ。


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