冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。

亡命決意

「お父様が投獄?!」


 急に喚び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。


「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」

 母であるリリュシーヌは悔しげな表情で娘二人に告げる。


 降って湧いた凶事に二人は動揺を隠せない。


「頭に来たわ。こんな国捨ててやるんだから」

 リリュシーヌは公爵夫人としてすぐに執事と相談をし、付いてきてくれる者と、この国に残る者、そしてその後についての話し合いをするという。


「今はまだ王宮からの伝達はないけど、来る前にある程度まとめておくわ。お父様もカンカンなので、一緒に来てくれるわよ」

 リリュシーヌの父である、レナン達の祖父はここリンドール国の辺境伯だ。


 他国や魔物との小競り合いが多い土地に住むため、武に優れている。


「レナン、婚約したばかりなのにごめんね。解消…あるいは破棄になると思うわ」


 さすがにそこだけはどうしようもなく、リリュシーヌは申し訳無さそうに言うと娘を抱きしめる。


「いえ、お父様の事を信じております。ハインツ様もきっとわかってくれますわ」

 ハインツは社交界デビューをした少し後に、初めて出来た婚約者だ。

 これからゆっくりと愛を育もうと、数回デートもしていたのだが。


「一度あなた方を学園に戻すけど、他の子達に悟られてはダメよ。必要な物だけ纏めたらすぐに戻ってきてね。ミューズも通い始めたばかりだというのに…二人とも本当にごめんなさい」

 大丈夫と伝え、娘二人はリリュシーヌを抱き締めた。


 リリュシーヌも抱き締め返し、転移魔法にて二人を学園の自室に戻した。




「驚いたけど、現実よね」

 必要なものを収納ポーチへ入れつつ、ミューズは自分の頭と部屋を整理していく。


 こちらのポーチは母から貰った収納用の魔道具だ。

 吸い込まれるようにして入るのだが、大きさなど関係なく何でも入る。

 容量もかなり多いため重宝していた。


 しまい終わるとミューズはすぐにレナンの部屋へ転移した。




 レナンはショックからか、手元が覚束ない様子だった。


「お姉様、気をしっかり持って」

「だって、折角ハインツ様と婚約出来たのに。これから頑張ろうとしてたのに」


 グスグスと鼻を啜っているレナンの代わりに、収納ポーチに次々と物を入れていく。


「落ち着いたら手紙を書きましょう、今はどうしようもないもの」


 落ち込むレナンの様子にミューズは胸が痛む。


 リリュシーヌは冤罪と言っていたし、早く疑惑を晴らせれば良いのだが。



 ようやく整理が終わり、ミューズがレナンの手を取った。


 ミューズ達の母であるリリュシーヌは魔力がとても多い。


 それを受け継いだミューズも魔力量は同年代のものよりはるかに多いため、母から教わった転移魔法を使用し、自分達の屋敷へと帰る。


 屋敷はバタついていたものの、早いもので片付けが終わっている。

 荷物がないせいかとてもスッキリしていた。



「国からの使者が来る前に、大体終わったわね。貴女達を安全なところまで見送ったら、私はディエスを助ける為に情報を集めるわ」


 ディエスはミューズ達の父で公爵である。

 このリンドール国で宰相をしているのだが、冤罪でも投獄されたなら影響は大きい。

 引きずり下ろそうとする誰かの仕業なのか。

 急な話で検討がつかない。


「私のお守りを持ってるから危害は受けないと思うけど…心配だわ」


 両親はとても仲が良く、今もリリュシーヌはディエスが心配で落ち着かない。



 その時、リリュシーヌのブローチが微かに光る。


「お父様からの合図だわ、あちらも準備が終わったようね。そろそろ行くわよ」

 地下にある転移陣に向かう。


 大規模な移動は流石に魔力消費量が多いため、ここぞという時の為に作った転移陣と、大量の魔石が積まれた部屋に入った。




 付いてきてくれると言った使用人達もいるため、リリュシーヌも魔力の節約のためこれを使うことにしたのだ。


「あなた達を送ったら、私はこの屋敷を破壊します。転移陣が見つかったら困るからね。あちらに言ったらお祖父様であるシグルド辺境伯の言うことをよく聞きなさい」

 転移魔法を使えるものは数少なく、余計な事を言われないよう秘密にしているのだ。

 下手をすればミューズなど無理矢理王族の者と結婚させられてしまうかもしれないし、リリュシーヌとてどうなるかわからないからだ。


 皆が転移陣に乗ったのを確認すると、リリュシーヌは魔石の魔力を用いて皆を移動させた。


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