第33話 ルアーナのダンス相手は…
どうしよう、本当にどうすればいいの?
私は人生の中で、一番混乱していた。
さっきまでレベッカと他の令嬢達と楽しく話していたのに。
私は帝国の皇子というミロシュ皇子殿下に話しかけられて、とても戸惑っていた。
周りにいる令嬢、レベッカも話さずに私とミロシュ皇子殿下のことを見ている。
なんでミロシュ皇子殿下は、私に話しかけに来たのだろう?
よくわからないのだが、今は理由を考えている場合じゃない。
「ああ、そういえばここはダンス会場だったな。ならばルアーナ嬢、私と踊ってくれるか?」
「っ……!」
あっ、ヤバい……一番恐れていたことを言われてしまった。
私はジーク以外と踊ると、おそらくだが絶対に足を踏むくらいにダンスが下手だ。
だから男性から誘いを受けても絶対に断ろうと思っていた。
今までは令嬢の方々と一緒にいるからか、誰にも誘われなかった。
しかし今、最も断りづらい男性から誘われてしまった……!
「そ、その……私はダンスが下手で、皇子殿下に迷惑をかけてしまうかと……」
いや、迷惑どころか怪我をさせてしまうんだけど。
「そのくらいは大丈夫だ、上手く出来ない女性をリードするのもダンスの一興だろう」
皇子殿下は笑みを浮かべてそう言ってくれた。
ほ、本当にどうしよう。
男性からの誘いは断ろうと思っていたのだけど、皇子殿下の誘いって断ってもいいの?
不敬罪とかにならない?
だけど足を踏んで怪我をさせるほうが重罪になる可能性があるわよね?
それなら断った方が……いやだけど、私がダンスがそこまで下手だってことは隠した方がいいってレベッカに言われたし……。
「ルアーナ嬢?」
皇子殿下が私に手を差し出して、ダンスに誘ってくる。
これはもう、受けないといけないのか……?
そう思って、私も手を伸ばしかけた時――横からいきなり出てきた手に、私の手は掴まれた。
「えっ?」
ビックリして声を上げて、私の手を掴んだ人を見ると……。
「ジーク……!」
私のダンスの相手を唯一務められる、ジークがいた。
ジークは私の手を掴みながら、一瞬だけ私と視線を合わせた。
なんとなくその視線だけで、「任せろ」と言われた感じがした。
「ミロシュ皇子殿下、ご挨拶申し上げます。ジークハルトです」
「ああ、ジークハルト。ルアーナ嬢と共に特別褒章を授与されていたな。おめでとう」
「知っていただいて光栄です、殿下」
皇子殿下もジークも笑みを浮かべて会話をしているのだが、雰囲気はとても刺々しい。
お互いに相手を敵視しているような感じだ。
なぜそんな雰囲気になっているのかわからないけど、ジークは皇子殿下を相手にそんな態度を取ってもいいの?
「しかしジークハルト、少し不躾ではないか?」
「何がでしょうか」
「一人の男が女性を口説いているというのに、そこに割って入ってくるなんて」
えっ、私、口説かれていたの?
ただダンスの誘いを受けただけだと思うけど。
「邪魔をしたつもりはありません。ただ俺は、自分のダンス相手を迎えに来ただけです」
「ほう? ルアーナ嬢のダンス相手は、君なのか」
ミロシュ皇子殿下は笑みを浮かべたまま目を細めて、ジークを睨んでいるかのようだ。
「はい、割って入ったことは申し訳ありませんが、不躾なのは皇子殿下のほうかと」
ちょ、ジーク、そんなことを言っていいの!?
ジークの顔を見上げると、彼も皇子殿下と同じように笑みを浮かべているのだが、目は睨んでいる感じだ。
周りの令嬢やレベッカもジークの言葉を聞いて、息を呑んだのがわかった。
全員が次の皇子殿下の言動を見ていたが……皇子殿下は、笑った。
「ふふっ、確かにそうか。相手がいる女性を口説いて不躾なことをしていたのは、私のほうだな。悪かったよ、ジークハルト」
「いえ、わかっていただけたならよかったです」
「ルアーナ嬢も悪かった。私は皇子だから、断りにくかっただろう」
「あっ、いえ、そんなことは……」
いきなり話を振られたからなんと言えばいいかわからず、曖昧な返答をしてしまった。
「ただルアーナ嬢、私はあなたに興味がある。またいずれ、話す機会をくださると嬉しい。その時はジークハルト、君もいて構わない」
私に興味がある?
どういうことなのかわからないけど、ここまで言われて断るわけにはいかないだろう。
ジークと視線を合わせて、軽く頷く。
「……かしこまりました、殿下。それならば問題ないでしょう」
「感謝するよ、ジークハルト、ルアーナ嬢。それでは邪魔者は退散しよう、よい夜を」
皇子殿下はそう言って立ち去った。
その後ろ姿もとても様になっていて、さすが皇子って感じね。
私は皇子殿下が去って姿が見えなくなって、安心をして一息ついた。
「ふぅ……すごい緊張したわ」
「ルアーナ、大丈夫でしたか?」
レベッカが近寄ってきて、心配そうに声をかけてくれる。
「すみません、あれは私が助けるのは難しくて……」
「いえ、大丈夫ですよ、レベッカ。ジークのお陰でなんとかなりましたので」
「くっ、ルアーナのことは全部私が助けてあげたかった……!」
レベッカはなぜかジークのことを睨んで、ジークは余裕の笑みを浮かべていた。
「レベッカ嬢、仕方ないですよ。あなたではどうすることも出来なかったので」
「……そうですね。ジークハルト様、とてもいいタイミングで来てくれました。まるでこちらをずっと見ていたかのようでした、ええ」
「……音楽が流れてからルアーナを探していたら、このタイミングだっただけです。ずっと見ていたわけじゃないですから」
「ええ、そういうことにしておきましょう」
なんで二人は笑みを浮かべたまま、ギスギスした雰囲気を出せるんだろう?
私には絶対に無理だわ。
「まあ、レベッカ嬢は置いておいて」
「失礼ですね、ジークハルト様」
レベッカの言葉を相手にせず、ジークは私の方を見た。
「ルアーナ、いくぞ」
ジークがそう言って、まだ繋いでいた手を軽く引っ張って会場の中を歩かされる。
「えっ、もう踊るの?」
「殿下からの誘いを断って、注目されているだろ?」
「……まあそうね」
皇子殿下が来てからも注目されていたが、誘いを断ってから周りの人達が全員、私とジークを見ている気がした。
「あんなに注目されたのなら、もう踊るしかないだろ?」
「私、人生初めてのダンスが、こんなに注目されてやるの?」
「お前が殿下にダンスに誘われたのが悪い」
「理不尽な!? 私はただ普通に喋っていたら、皇子殿下が誘ってきただけよ」
「……そうかよ」
ジークが私の手を軽く引っ張りながら歩いているのだが、そっぽを向いている。
あれ、なんだか拗ねてる? なんで?
そう思いながらも、会場の真ん中のダンスを踊る場所まで来た。
そして一度ジークが私の手を離し、私の目の前に立って手を差し伸べた。
この手を取って、これからダンスが始まるのだ。
あっ、そういえばさっき、ジークが私の手を取って助けてくれなかったら、あのまま皇子殿下と踊っていたかもしれない。
「ジーク」
「なんだ」
「さっきは助けてくれて、ありがとうね」
まだ言ってなかったお礼を言ってから、ジークの手を掴んだ。
ジークは一瞬だけ固まっていたが、頬を赤くして少し顔を逸らした。
「卑怯だな、お前は……」
「えっ、何が?」
「なんでもない。ほら、踊るぞ」
ジークが私の手を引っ張り、私は彼の胸元に導かれる。
彼の両手を握って、曲に合わせて踊り始める。
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