第22話 ジークの友達?



 皇宮での社交会が終わってから数日が過ぎた。

 私は人生で初の社交会でとても緊張していたが、大きな失敗はしていないはずだ。


 ジークも隣にいたから、上手く立ち回れたはず。


 だけど……。


「友達は、出来なかったなぁ」


 王都のタウンハウスの庭で紅茶を飲みながら、そう呟いた。


 ここの庭もとても綺麗な花々が咲いていて、お茶をするにはとても素晴らしい場所だ。


 辺境伯家の屋敷の庭もこんな感じで、アイルさんが目覚めてからよく二人でお茶をした。


 アイルさんと一緒だと話すことが尽きないで、すごく楽しかったなぁ。


「お前に社交性がないからだろ」

「……」


 テーブルを挟んで座っているジークに、冷静にそう言われる。


 確かに私はいろんな人に話しかけられたけど、まともに話は出来なかった。


 だけど、それの一番の理由は……。


「ジークが隣にいたからでしょ」

「はっ?」


 不思議そうにジークが首を傾げるが、絶対にそうだ。


 だって女性が話しかけてくる理由がほとんど全部、ジークのことを聞くためだから。


『ジークハルト様とルアーナ様はどういった関係なのでしょうか?』

『お二人は婚約者ではないのでしょうか?』

『ジークハルト様のご趣味などはなんでしょうか?』


 などなど、いろいろと聞かれたものだ。


 最後の質問に関しては、なんで私に聞くのかもわからない。


 そういう話ばっかりだったから、女性と友達になることは出来なかった。


「ジークがあんなにモテるなんて、知らなかったわ」

「俺の顔と辺境伯の嫡男っていう地位を見て近づいてこられても、嬉しくはないがな」

「えっ、ジークって自分の顔にそんな自信があるの?」

「父上と母上の子だからな」

「正論すぎて何も言えないわ……」


 確かにクロヴィス様とアイルさんはとても顔が整っているから、ジークの顔が良いのは当たり前だった。


 辺境伯の嫡男だし、彼と婚約できれば嬉しい、と思う令嬢は多いだろう。


 そう思うと、ジークは婚約者を選ぶのが大変そうね。


 辺境伯の嫡男とかじゃなく、ちゃんとジークのことを見て好きになってくれる人。


 そんな人と出会えればいいわね。


 あ、今はそんなことを考えている場合じゃないわ。


「話が逸れたわ。ジークのせいで友達が出来なかったって話よ」

「女性に関しては俺のせいじゃねえだろ」

「そうね、だけど男性に関しては、あなたが邪魔をしていた気がするけど」


 女性から話しかけられることも多かったが、男性からも話しかけられることがあった。


 その時に毎回、ジークが隣にいるのだ。


 女性から話しかけられている時はどこか違う場所に行ったり、私以外の違う女性と話しているのに。


 なぜか私が男性と話していると、すぐ隣に来ていることがほとんどだった。


 しかもなぜかジークは少しその男性に敵意を出しているから、男性たちはそれにビビッて去っていった。


「なんで私が男性と話す時だけ、あんなに敵意を見せたの? 別に戦うわけじゃないんだから」

「……いやまあ、戦いといえば戦いだしな」

「どういうこと?」

「なんでもねえ。別に、俺がいるだけでルアーナと話さなくなるような男なんて、どうでもいいだろ」

「うーん、そうなのかしら?」

「そうだよ」


 まあ確かに、ジークの敵意を浴びただけでビビッて逃げる男性と、友達になりたいとは思わないけど。


 あ、だけど確か、私に話しかけてきた男性の中で一人、ジークが敵意を向けなかった人がいたわね。


 私と軽く話した後、ジークとも会話をしていた。


 しかもジークとその男性は、少し親しげに話していたような気がする。


 遠くにいたから話の内容は聞こえなかったけど。


 確か名前は……。


「ねえジーク、エリアス・バリ・レクセル様とはどんな関係なの?」

「エリアス? あいつがどうかしたのか?」


 やっぱり呼び方とかが親しそう、友達だったのかな。


「別に、少し気になっただけ」

「気になった? 何がだ? 顔か? 地位か? 確かにあいつは公爵家だが、すでに婚約者がいるぞ?」

「えっ、いや、ただジークと親しそうに話してたから気になっただけだけど……」

「……そうか」


 なんか一気に質問をされてビックリしたけど……。


「えっ、なんで今、そんなに言ってきたの?」

「……なんでもない」

「いや、そんなわけ……」

「なんでもないと言ってるだろ。それで、あいつの何が聞きたいって?」


 ジークが顔と話を逸らしながらそう聞いてくるけど、少しだけ耳が赤いのが見える。


 なぜなのか聞きたいけど、全く話すつもりはなさそうね。


 仕方なく最初に聞こうとしたことを喋る。


「だから、ジークとエリアス様はどういった関係なの?」

「俺が小さい頃、今いるタウンハウスにしばらく住んでいる時期があったんだ。期間は数カ月ぐらいだが、その時に仲良くなったやつだな」

「そうなのね」


 ジークにも男友達みたいな人がいたのね、初めて知った。


 ……えっ、ちょっと待って。


 私はジークも友達がいないって思ってたから、どこか安心してたんだけど……。


 友達いないのって、私だけ?


「ジークにすら友達がいるのに、私が一人もいないなんて……」

「おい、俺のことをなんだと思ってるんだ」

「だってジーク、私との第一印象が最悪だったじゃない」

「……それは否定しないが」


 十五歳の私に対して「チビ」とか「ガキ」とか言ってたし、そんなことを言うジークに友達がいるとは思えなかった。


「それと、エリアスは別に友達じゃない」

「だけど前の社交会で、一人だけ親しそうに話してたじゃない」

「知り合いってだけだ。数年ぶりに会ったが何も変わってない、軽薄そうな野郎だったな」

「そういうのが欲しいの!」

「はっ?」

「そういう軽口が言えるような関係性の同性の友達って、とても素敵じゃない?」

「……だから友達じゃねえって」


 ジークは否定するが、二人の関係は友達と言えるだろう。


 おそらくエリアスさんもジークのことを友達だと思っているはずだ。


 私も欲しい……そのためには、まずは社交会にまた出ないといけない。


 幸いにも、社交会やお茶会などのお誘いはいっぱい届いている。


 また新しいお誘いの手紙が届いて、それを確認しているんだけど……。


「どれに行けばいいのかしら……」


 本当にお誘いの手紙が多くて、どれに行けばいいのか全くわからない。


「ジークにも誘いが届いてるでしょ?」

「届いてるが、ほとんどが令嬢からだから断ってる」

「さすがね……だけど別に全部断らなくても、魅力的な女性がいたらお誘いを受けていいんじゃない?」

「……いないから断ってるな」


 そうなんだ、だけど全部の令嬢からの誘いを断っているって……。


「ジークって意外と女性への理想が高いの?」

「……いや、別に」


 あっ、これは絶対に理想が高いやつだ。


 ジークの理想の女性……あっ、もしかしてアイルさんと同じくらい素敵な女性、なのかな?


 もしそうなら、確かにアイルさんほどの令嬢はなかなかいないでしょうね。


「今は俺のことじゃなく、お前だろ。まず名前を憶えている令嬢なんているのか?」

「そ、それくらいいるわよ! ……名前と顔があまり一致してないけど」

「やっぱりな」


 うぅ、本当にいろんな人にどんどん話しかけられて、覚えている暇がなかったんだから。


 よほど印象に残ってないと……あっ。


 手紙の差出人の名前を見ていて、一人の令嬢の名前に目が留まった。


「この令嬢の方、しっかり覚えているわ。まったくジークのことを聞いてこなかったから」

「ほう、名前は?」

「レベッカ・ヴィ・オールソン伯爵令嬢よ」


 私がそう言うと、ジークが納得したように「あー」と声を出す。


「確かにその令嬢なら、俺のことを聞く必要がないからな」

「もともと知り合いなの?」

「いや、全然。だが知っている。その令嬢は、エリアスの婚約者だ」

「えっ、ジークのお友達の?」

「だから友達じゃねえって」


 まさか私が特に覚えている令嬢の方が、ジークの友達の婚約者だったなんて。


 これはどこか、運命を感じる……!


「私、この方のお茶会に行くわ!」


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