第13話 アイル夫人に気に入られて?
最近、アイル夫人に付きまとわれている気がする。
いや、付きまとわれているは言い過ぎかもしれないけど、私とずっと一緒に行動を共にしようとしてくる。
アイル夫人が目覚めてから、私達は本邸にまた暮らし始めた。
朝起きて、いつも通りメイドさんに支度を手伝ってもらっていると、アイル夫人が私の部屋に入ってくる。
「おはよう、ルアーナちゃん!」
「お、おはようございます、アイル辺境伯夫人」
朝からとても元気な人だ、本当に数週間前まで三年も眠っていた人とは思えない。
「やだわ、ルアーナちゃん。そんな可愛くない呼び方をしないで、気軽にお母さんって呼んでいいのよ?」
「いや、それは……」
「それが嫌なら、アイルちゃんとか、アイルたんでもいいのよ?」
「……アイルさんでお願いします」
この人は本当に、グイグイ来る感じですごい。
なんとなくそんな雰囲気はあるんだけど、まさかここまでとは思わなかった。
「ルアーナちゃん、私が髪を結ってあげようか?」
「えっ、そんな、悪いですよ」
「いいのよ。私には娘がいないから、娘が出来たらやってあげたいと思ってたしね」
アイルさんはそう言って私にウインクをして、鏡の前で座っている私の後ろに来る。
メイドさん達もアイルさんの言うことを聞いて、少し私達から距離を取って見守っている。
もうここまで来たら、断れないようだ。
「じゃあ、お願いします……」
「うん、任せてちょうだい! あなた達は戻っていいわよ」
「いえ、まだやることがありますので、残っております」
メイドさん達に指示を出したアイルさんだが、綺麗な笑みを浮かべてそう言った。
やることって何かしら? 特にもうないと思うけど……。
「そう? わかったわ」
アイル夫人は気にせず、そのまま後ろに立って私の髪をいじっていく。
「とても綺麗な青い髪ね。海の色みたいで素敵」
「ありがとうございます。アイルさんも綺麗な青髪ですよね」
「ふふっ、ルアーナちゃんと少し色味が違うけど、同じ色ね。なんだか本当に娘が出来たみたいで嬉しいわ」
本当に楽しそうにそう言って私の髪を結ってくれるアイルさん。
確かにジークはアイルさんとほとんど似ていない、目が少し似ているくらいだ。
顔立ちも髪色も、父親のクロヴィス様の遺伝を継いでいるようだ。
そういえば、メイドさんに子供の作り方を聞いたけど……っ!
ほ、本当なのかしら? 何か揶揄われているとかじゃないのよね。
もちろんメイドさんが私に嘘を言っているとは思わないけど……。
「ん? どうしたの、ルアーナちゃん。頬が赤いけど」
「い、いえ、なんでもないです!」
いけない、朝から考えることではないわね。
しばらくアイルさんに髪を任せていると、「完成!」という言葉が聞こえてきたが……。
「どうかしら、ルアーナちゃん!」
「……と、とても独創的ですね」
えっと、鳥の巣をモチーフに私の髪をアレンジしたのかな?
いや、それはないと思うんだけど、そうとしか思えない髪型が鏡に映っている。
「うん、ごめんね、失敗しちゃった!」
「ですよね!?」
思わず大きな声でツッコんでしまった。
「ポニーテールにしようと思ったのに、なんでこうなったのかしら?」
頬に手を当てて、不思議そうにしている。
アイルさんって、もしかして不器用……?
「奥様、私達がやりますので」
「あら、そう? じゃあお願いしてもいい?」
「はい、もちろんです」
メイドさんが変わらない笑みを浮かべて、アイルさんを退かした。
あっ、メイドさん達はアイルさんが不器用ってことを知ってたのね。
私の髪がこうなることをわかっていて、だから残ってくれていたということか。
「ルアーナちゃんも、ごめんなさいね」
「い、いえ、大丈夫です」
これからはアイルさんに任せないようにしよう……。
いつもよりも時間がかかった朝の支度だった。
その後も、アイルさんはずっと私と一緒にいようとしてくる。
戦場でもそうだし、屋敷の中でもそうだし……今日はお風呂も誘ってきた。
辺境伯家のお風呂はとても広く、二人で入ったところで何も問題はない。
むしろ一人で入ると広すぎて逆に違和感を覚えるくらいだ。
だけど裸を見られるのは少し恥ずかしいし、断ってしまった。
アイルさんは笑顔で「大丈夫よ、無理強いはしたくないからね」と言ってくれた。
ありがたいけど、なんでこんなに私に話しかけてくるのだろう?
三年間眠っていたんだから、ずっと会えなかった夫のクロヴィス様や、息子のジークと話した方がいいのに。
もちろん嫌なわけじゃないけど、嬉しさよりも疑問の方が大きい。
お風呂から上がって、部屋に戻るために廊下を歩いていると、角を曲がったところでジークとばったり出会う。
「あっ、ジーク」
「ん、ルアーナ……っ!」
角でぶつかりそうになったけど、ギリギリで止まった。
だけどなぜかジークが顔を赤くして目を逸らした。
「どうしたの?」
「お前、髪濡れてるが……」
「ああ、お風呂入ってたから」
「……そうか」
顔を赤くしたままチラッと見てくるジーク。
どうしたんだろう? お風呂上がりだけど、何かついてる?
服は真っ白のバスローブで、髪は濡れたままで少し上げてるけど。
まあいいわ、ジークがこうなるのは時々見るし。
「ジーク、アイルさんについて少し聞きたいことがあるんだけど」
「……ああ、なんだ?」
「なんでアイルさんは、私にあれだけ構ってくれるんだろう? 別に嫌じゃないだけど、とっても不思議で」
「ああ、それか。俺もわからんが一つ言えることは、母上がお前を気に入ってるってことだ」
「そうなの?」
「ああ、母上は気に入っていない奴にそこまで絡まない」
「そう……」
それなら嬉しいけど、なんでそこまで気に入ってくれたんだろう?
もしかして、私が光魔法の治癒を使ってアイルさんを治したから?
「言っておくが、母上が気に入っている理由はお前が光魔法を使えるからとか、治癒魔法で治してくれたから、とかじゃないぞ」
「えっ、ジーク、私の心を読んだ?」
「お前と二年もいれば、それくらいわかる」
そう言ってニヤついたジーク、だが私と視線が合うとすぐにまた顔を逸らした。
「と、とにかく、俺にもわからんから、知りたいなら直接母上に聞け」
「うん、ありがと」
ジークとそこで別れて、自室に戻る。
自室でメイドさんに髪を乾かしてもらい、あとは寝るだけという時に……。
「ルアーナちゃん! 一緒に寝ましょ!」
アイルさんが部屋に突入してきた。
寝間着姿で枕を片手に持っていて、準備万端という感じだ。
「えっと……」
「あっ、もちろん無理強いはしないわよ。その場合は私、床で寝るから!」
いや、それは無理強いというよりは、脅しなのでは?
さすがに辺境伯夫人を床に寝させるほど、私は心臓が強くない。
「……一緒に寝ましょう、アイルさん」
「ありがとう、ルアーナちゃん!」
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