2.賢者、罠に嵌める

 

 王国へと帰還した勇者一行はすぐさま国王へと謁見した。

 玉座の間――王の前で此度の魔王討伐の顛末を話し終えた勇者ヘイロンは、国王が下した決断に目を見開いて固まるしかなかった。


「勇者ヘイロン、貴様を斬首刑に処す」

「……は?」


 開いた口が塞がらず、呆然としているヘイロンに国王は豊かな白髭を撫で付けて見下ろす。

 立ち尽くしたままのヘイロンに、国王の傍にいた宰相がごほんと咳払いをした。


「封印すべき魔王を殺したこと……本来の勇者の責務を著しく脱している。故に、死刑が妥当との国王陛下の判断だ。何か申し開きはあるか?」

「あっ、あるに決まってるだろ! なんで俺だけ死刑になんなきゃならない!? こっ、こいつらはどうなんだよ!!」


 大声で喚き散らしながら、ヘイロンは背後にいる仲間を指差す。

 彼の必死の訴えに、賢者は涼しい顔をして答えた。


「此度の騒動の責任は全て彼にあるというのが皆の総意です」

「なっ!? 話がちが」

「ふふっ……そもそも、魔王を封印する聖剣を使っていればこんなことにはならなかったのでは?」


 薄ら笑いを浮かべた賢者の言葉に、ヘイロンは耳を疑った。


「は? おまえ、それどういうことだよ……俺は初めから最後までつ、使ってただろ」

「貴方が今まで使っていた聖剣は、ただのなまくらですよ。何の力もない贋作です。どうやら何かの手違いで城の宝物庫へと紛れ込んでいたのでしょうね」

「そっ、そんなこと」

「それを見抜けなかった貴方にも落ち度はあるかと」


 一方的な反論に、ヘイロンは言葉が出てこなかった。

 そもそも、本来の聖剣がどんなものかなど知る由もないし、それが偽物だとしても確かめようがないのだ。

 たった一人、元王宮魔術師である賢者を除いては。

 彼ならば城の宝物庫への細工も容易だ。ヘイロンを騙してなまくらを聖剣と偽ることだって出来る。


 そこでやっと、ヘイロンは理解した。すべて、賢者の策略の内だったのだと。

 彼にまんまと嵌められたのだ。


「……そうですね。可哀想ですけど仕方ありませんね」

「元より、ただのなまくらであることを気付けなかった事の方が問題だ。粗悪品と聖剣の区別もつかないなど、勇者としてあるまじきものだ」


 あろうことか、聖女と剣聖の二人は賢者の意見に賛同した。

 誰がどう見ても、ヘイロン一人に罪を着せようとする行いだ。大事な仲間だと思っていた彼らは自分可愛さに平気で仲間を売るクズ共だったのだ。


「……あっ、ああああああああ」


 目を背けたくなるような事実を知ったヘイロンは目の前が真っ暗になった。

 足元から瓦解して底の見えない穴に真っ逆さまに落ちていくような、深い絶望。


 彼の耳には、誰の言葉も届かない。

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