月刊ギルドガイド 創刊号~若き冒険者の反逆! 新ギルド設立!?~

藤井 三打

 少しだけ、未来を垣間見た話となる。


                  ◇


 今まで、どんな仕事もしてきた。

 終えた後に、王に謁見するような仕事も。

 報酬に口止め料が上乗せされるような仕事も。

 冒険者になってもう10年ほど経つが、こんな机の上に金貨の山が出来るような仕事をしたのは初めてだった。


「はーっはっは! どうだいどうだい、やってみるもんだろう! こんな大当たり、わたしだって初めてさ!」


 大ぶりのグラスに入った果実酒をがぶがぶ飲みながら、一人の女が騒いでいる。周りにたむろしている人間も、負けずに上機嫌だ。だが、一番うれしそうではしゃいでいるのは、この商売の絵図を書いてみせたこの女だ。彼女には、その資格がある。

 大儲けには、何かの犠牲が、せめて血が必要だと思っていた。だが彼女は、一切の殺傷や暴力行為に及ぶことなく、これだけの金貨を稼いでしまったのだ。

 10年間の冒険者生活が、ただ小銭を稼いでいただけに思えるほどのショック。プライドがぐわんぐわんと揺れていて、悪酔いしそうだ。

 せめて、酒で酔いたい。グラスを捨て、酒瓶をかかえ直に一気飲みした後、改めて彼女にたずねる。


「それで、これは……いったい、なんなんだ?」


 机から拾い上げた粗雑な本を、彼女の前に突きつける。

 城の図書館や学習室に並ぶ、立派な本と比べれば、印刷も綴じ方も全部雑な本である。おそらく、本を扱う商人の大半が、この本を見た瞬間、鼻で笑うだろう。

 だが、この雑誌が、事実金貨の山を作ってみせたのだ。

 女はニヤリと笑う。


「わからない」


 意味ありげな笑みを浮かべての、これである。

 思わず、背負っている大剣の柄に手をかける。


「そんな、怖い顔をするなよう。そうだね、この雑誌は……ホラだ」


 ホラ。嘘ではなく、ホラ。この女は、出会った時からこの言葉を好んでいた。


「真実を追い求めるのでもなく、嘘で人を傷つけるのでもない、ホラを膨らませてみんなを楽しませる! わたしは、向こうの世界に居た頃からそういう仕事が好きだったのさ。これで、この世界も楽しくなるぞう!」


 向こうの世界。この女は異なる世界から来たと自称していたが、それが真実だとして、向こうの世界にはこんな女が生きる余裕があったとでも言うのか。

 この女は、情報を集め、人を煽り、話を膨らませ、この大金を稼いでみせた。そして、この女にネタにされたこと、それだけでおそらくこの王都の冒険者たちはみな、変革を迫られてしまっている。

 直接力を示すこともなく、歴史に残る成果を上げるのでもなく、ただ情報を集め一冊の本にするだけで、数多の冒険者の人生を楽しく変えようとしている。


 理屈で考えるなら、彼女はここで殺しておくべきだ。


 他に考えはあれども、この雑誌の完成に携わった冒険者として言える、正直な感想であった。

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