メスガキ魔女をわからせたい

角出 坂本

第一話 今日から晴れて使い魔です

とある山奥、俺は道に迷っていた。

ひどいどしゃ降りの雨の中、帰る道を見失いただただ森を迷っていた。本当は、こういう時は動かない方が良いのだが、この時の俺は何故なぜかそれを忘れただひたすら走っていた。


「寒い…」

雨に打たれ体も冷え、足から下の感覚がない。

地面はぬかるみ何度も斜面しゃめんを滑り落ちそうになり、もうだめかと思ったとき、…いつの間にか、先に巨大な洋館が見えた。


怪しいとは思いつつも、命の危機ききが迫っている状況、洋館へと近づき扉をたたく。ドンドンドン

しばらくすると、中から声が聞こえた

「…人か、何の用だ?」

中から少女の声が聞こえる、凄くけだるげだ。起こしてしまったのだろうか?少し申し訳なく思う。

「あの…すみません、道に迷ってしまって。雨が止むまでの間でいいから、泊めてくれないかい?」

「……ダメだ、帰れ」

「え!?いや、ちょっと待ってくれ!

帰られないんだ、このままじゃ死んじまう!助けてくれ!」

「……」

「頼む、泊めてくれたら何でもするから!だから助けてくれ」

「……」

…遠のく足音が聞こえる、見捨てられた…?

こちとら命がかかり、必至だというのに!

仕方がない背に腹は代えられない、意思を引こうとさらに勢いよく扉をたたく。壊れるんじゃないかって程叩く。

「…うるさい!」

「ご、ごめん!」

「…そうか、我が安眠を妨害するか」

そうぶつぶつ呟く、少しやり過ぎたかもしれない。

「…何でもするのだろう?…覚悟が出来たのなら入れ」

扉がギィっと開く。中から埃がまい、思わず咳き込み顔を背けてしまう。扉の内に目を向けるが…少女はいなかった。

…何故か気味が悪く思ったが、雨宿りのため家の中へと足を踏み入れた時。

『契約はなされた。貴様は今より我が僕だ』

その言葉が脳内にひびくくと同時に、意識が暗転あんてんした。


―――――――――――――


「―起きよ、我が僕よ」

誰かの声に目が覚める。

「…?あれ、俺は…ここは?」

「たわけが、交わした契約を忘れたか」

「え、契約?」

そう、声をかけていたのは、ブカブカのローブと魔女のような帽子をかぶった少女だ。

「…なんだその目は?言っておくが儂は数世紀すうせいきは生きておる、さらには貴様の主だ。」

…突然何を言い出すんだこの少女は、どうみても十代半ば…いや、それより少し下なはずなのに。

「いや、あんまり他人をからかわない方がいいよ、それよりもここは――」

「…貴様は、何も理解していないようだな。」

え?っと、言葉を発する前に、ガッ!と首が何かに捕まれ持ち上げられる。

「エ、ガッ!?」

「はは!なんとも似合う滑稽こっけいな姿だ」

ヤバイ…!ジタバタともがき、首からほどこうとする!

だがおかしい、俺の腕には何も当たらない。というより首をつかんでいるはずの”何か”がどこにも見えない

「う…あ…」

「…主様、人間は脆弱ぜいじゃく虚弱きょじゃくしつけをしすぎますと労力が無駄むさになってしまいますぞ」

「…むぅ、そうか」

「ガハ!ゲハッ!」

危うく死ぬところだった…酸欠でぼんやりとする視界で、新たな声の主に目を向ける。

「…え?」

「なんと、間抜けな声を…みっともありませんぜ」

…間抜けな声が出るのも無理はない、なぜならそこには一匹のふくろうがいたのだ。しかもモノクルを付けて、人の言葉をしゃべってる。

「これでわかったであろう?儂は絶対で強大で偉大な大大大魔女なのじゃ。それを貴様は…あろうことか、我が安眠を妨害する大罪を犯した。死をもってしてもつぐないいきれるものではない」

少女は指をビシッとこちらへさし。

「ゆえに…貴様は、今より我の使い魔となる!使い潰すゆえに覚悟するが良い。レイブン、説明は任せた」

「はい、承りましたサーラ様」

少女はそうまくしたてると、そのまま部屋の外へと歩いて行ってしまった。レイブンと呼ばれた梟は、こちらを一瞥すると仰々しく一礼し話し始める。

「さて、これより貴君はサーラ様の使い魔。契約に基づき、この屋敷に仕え、主であるサーラ様に仕えるのです」

「…ゲホッ…ゴホッ…なん、で、俺が使い魔なんだ?」

「それは、貴君がサーラ様へ頼みごとをしたゆえです。その対価としてあなたの魂はサーラ様へと捧げられたのです。

主のものとなったあなたは、主様に逆らう、あるいは機嫌きげんそこねれば罰が下る」

「…」

正直納得がいかない。夢だと思いたいが、この非現実が嘘ではないことは先ほど思い知らされた。

ポケットを探り、スマホで助けを呼ぼうとしたがなぜかなくなっていた。

「貴君にはこれより使い魔として名誉ある仕事が与えられる。それは」

一息の、どんな無茶の仕事が来るのか身構える。

「この屋敷の掃除でございます」

意外な宣告をされた。

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