謎のキマイラのゲーム
サーキュレーター
第1話 監禁と謎のゲーム
20XX年、日本――
それは、テストプレイの様子である。
プレイヤーである一人の中年男性が、
モニタリングされている密室にいた。
彼はモニターの前に座り、
ゲームをプレイしている。
それは巨大なクレーンゲームだ。
画面に映し出されているのは、大きな箱。
クレーンゲームの景品を大きくしたそれは、2本の棒の上に置かれている。
男は恐る恐るアームを操作し、箱を掴んで落とそうとするが……
失敗した。
アームが棒に引っかかり、狙いがズレる。移動が浅すぎた。
彼は『命』である残高を使い果たしてしまった。
キィィィーーーーン
強い高周波が発生し、男に異変が起こる……
頭を押さえもがき苦しむ。ついには転げ落ち、床で痙攣した。
1 監禁と謎のゲーム
――黒木淘汰のゲーム企画のすべてより抜粋
世界には間違った考えというものがある。
偏食を推奨するダイエット、睡眠時間を無視した勉強法、
その中の一つが、誰も思い付いたことの無い、斬新な新しいゲームは面白いんだ!
……という考えだ。
間違いである。
誰も思い付かないということは、他者には理解されないことだから。
N県、山間部の重機のオークション会場
日本製の重機は世界で人気がある、特に中古。
オークション会場はいつも盛況であったが、この日、来場していた新興国の外国人たちは、唖然としている。
今日、競られるはずであった重機が全て無くなっていたからだ。
会場は大混乱、この事件は地方新聞に載ったが、全国では、ほとんど話題にならなかった。
数か月後、この事件に巻き込まれる女子大生が同県にいた、私、難波サキである。
私は午前中の授業が終わって、一人、学食で座っていた。
大学での生活は、満足している。
それまで、私の人生は、なんとなくの一言で進んできたのだけれど。
中学時代、クラスのなかで2、3番目に足が速かったという理由で
なんとなく陸上部に入っていた。本気でやっていた人たちには申し訳ない。
なんとなくやる気が出なくて、炎天下の中、ぼーっとしていたら熱中症で倒れた。
なんとなく水分補給を怠っていたからだ。
大事をとって次の日休んだとき、弟のゲームをなんとなく遊んでみた。
自分でも信じられないほどハマった。自分は驚くほど単純な人間だった。
私の人生が、なんとなくから変化する。
私がやりたいのはeスポーツ……これだ!
それからはゲームの競技者となれるように努力した。その時まで、バラバラに分散していた力が、一つの目標へ向かって、一気に集中した感覚だった。
その後、色々と考えた私は、eスポーツ科が新設されたN県の福禄寿大学に進んだ。
2時間前、格闘ゲームの授業中……
糸の様に細い目の中年男性が腕を組みながら見つめている。武蔵小山の小さなゲームコミュニティ出身で、2D格闘ゲームの数々の伝説を達成した武蔵小山のロキである、ムサコのロキとも呼ばれる。
日本人だが、愛称に北欧神話の神の名を冠している。無口な大男だ。
格闘ゲーム『有象無象闘士5』の対戦は盛り上がってきた。
読み合いには自信がある。相手の行動を先読みして、最適解で攻める。最近、勝率も上がって来た。
講師のムサコのロキからメモを渡された。
13:00に西棟の部屋まで来て欲しいと書かれている。
いろいろな意味で驚いたが、他の学生も何人かメモを渡されていたので、素直に指示に従おうと思う。おそらく次の大会のチーム編成についてだろう。
……さて、そろそろ時間だ。
キャンパス内にはたくさんの建物がある。元々、N県の一般的な大学だったが、近年、志望者が減少。そこで現学長は新規の学科を次々と立ち上げた。eスポーツ科もその一つだ。廃止された学部や学科の名残があちこちに見て取れる。
メモの地図に従って、初めて訪れた部屋に入ると、真っ赤なゲーミングチェアー、ジェットマッハターボが目に入った、1脚20万円のゲーマー垂涎の一品だ。
「おぉっ!ジェットマッハターボ!しかも赤!初めて見た!」
興奮した。授業で使っている椅子よりずっと良さそうだ。
憧れの椅子に気を取られて、部屋の違和感に気が付くのが遅れた。
天井から吊り下げられた大型のモニター。
高い位置にいくつかの窓、頑丈な格子が付けられている、多分、開かない。
奥にもう一つドアがある。トイレとユニットバスだ。あぁ、そうか、ここは教授等が泊まる部屋なのだろう。
入る部屋を間違っただろうかと思案していると、モニターの電源が入った。
街の風景……いや、これはゲームだ。
風景の中、異様な物が映っていた。
大型のクレーン?ガントリークレーンと言っただろうか……街を覆うような巨大な物だ。
ぷるんぷるん
「こんにちは、ガイドAIのプティングです」
目と口が付いたプリンが突然現れ、話しかけてきた。
「はい?」
「あなたの快適なプレイをサポートするガイドAIのプディングです」
驚いていると、プディングが話を続けた
「このクレーンゲーム筐体に搭乗して、ステージのミッションに挑んでください」
アームが一瞬でロボットが変形した
「ロボットモードとアームモードをうまく切り替えて下さいね、あと、えーと、面倒くせぇ……その他は周りのヒントを参照してください」
「ちょ、ちょっと待って!」
ま、周りのヒント……?
たしかに90年代のアーケードゲームにあったインストカードが置かれている。
クレーンゲームにアクションとカードゲームとロールプレイングを合体させた、誰も考え付かなかった新しいゲームだ。と書かれていた。
「何それ」
レバーで自由にアームの移動ができる、普通のクレーンゲームと異なるのは、掴む動作をするタイミングを決められること。
気になるのは、『カード』の項目。
様々なカードを登録して使うことができる様だ。武器や防具を装備するのと同じだろう。
メニュー画面で確認してみると、初期段階から使用できるカードは……ジェル。
説明を読むと
ジェルを発射する、最も一般的なウェポン
「最も一般的?このゲームのベーシックな武器が……ジェルってこと……なの」
古今東西、様々なゲームをプレイしてきたが、基本攻撃がジェルというのは初めてだ。
とりあえず操作方法は分かった。
テストプレイかデバッグのバイトか何かだろうか?怪しいけれど、ちょっと遊んでみようかと思っていたら、
キュルルルルルルルルゥゥゥゥ……
部屋のどこからか強い高周波が発生する。
なんだろう、耳障りだし、嫌な予感。
唐突にプディングが現れ、
「時間かかり過ぎでございますよ、早くプレイ料金を払ってスタートしてください」
ちょっと待て、何を言ってんだ……料金表を見ろ?
「1回1000万のコインが1枚必要、5000万分を払うと1回分おまけが付く、
このボーナスは大事だ、小銭ではないのだから」
ボーナスがどうのこうのは問題じゃない、金額だ、1000万?5000万?
「こんな額のお金、持っているわけないでしょ」
「あなたは融資を受けています」
「融資?」
「全国のマネーロンダリング組織から、丁度3億」
「は?何そのヤバい組織?」
「3億からのスタートです、やったね」
3億……
何かヤバいとは思っていたが、好奇心で様子を見ていた。
「もしゲームオーバーになったら」
「3億は無くなり、あなたには全力で返済してもらいます」
「危ない仕事でもさせる気!?」
「いえいえいえいえ……生体実験の被験者になっていただくだけです」
なんだよ、悪質なドッキリか!?
「センセーショナルではなく、ゆっくりゆっくり死んでいくみたいな」
危険をハッキリ認識し、ドアの方向へダッシュする
予想通り、ドアは開かない。
「まさかとは思ったけど、最近流行りのデスゲームのつもり?」
「クリアかゲームオーバーになるまで出られませんよ」
「考えたのは、ムサコ?ドッキリだとしてもやり過ぎ!」
「…………」
「だんまりはダメでしょ!」
「安心して下さい。生活に必要なものはそろえていますし、不足があれば用意しますよ」
壁にカラオケボックスにある様な受話器が設置されていた。何か用があればこれを使えってことか?
ダメだこのAI、話にならない。本当に始める気だ。
やっぱりスマホも通じていない。ここまで入念に準備しているのだから、当然と言えば当然……
ここは……やるしかないか……
異様なシチュエーションの中で、実は目の前の謎のゲームに好奇心をそそられていた。
不確定要素の多い中、危険は承知だが、気になってしまった。
「分かった、やる。クリアしたら解放してくれるのよね」
「それでは、このステージのミッションですが……」
街に10数人程の人間が出現した。
この中で浮気をしている人間を捕まえて欲しい。
浮気の人数×2千万の報酬を得ることができる。
さらに4又以上は1人につき3000万のボーナスがある。
目標には、いわゆる体力ゲージの様なものが表示されている。
キャッチする前に対象を「傷つかない状態」にしなければならない。
ゲージを全部減らすことが「傷つかない状態」ということ。
その状態ならアームで掴むことが可能だ。
「わかりずらっ!」
……考えが一周して、気になってきた……
私は5コインを投入し、6回の操作権を得る。
アームを移動させ、男の目の前に下した。
試してみよう標準を合わせて……ジェル発射
ジェルの弾が不倫男に向けて発射
ビチャアア!!
「うわっ」
ひるむ不倫男、そしてジェルの予想以上の威力……ゲージが大きく減った
脱力した不倫男を……アームで掴めばいいのか?
掴めた、そのままステージに空いている穴まで持っていく。落ちた……
2又男……4000万
「4000万?どういうこと」
「そのままの意味です」
「ちなみにこのステージは対戦相手がおります、制限時間内の獲得金額で負けますと、ゲームオーバーです」
その説明の最中、別のアームが移動してく、あれは、今、ワイドショーを賑わせているチャラ男俳優だ!CGがそっくり!
あいつはたしか……6又だったか、それが本当ならば……捕まえたら1億2000万だ!そうだ、ボーナスで9000万追加だ!2億1000万!
手慣れた動きでジェルを当て、チャラ男を捕獲した!
……え、つまりこのままだと負けるってこと?
私は焦り、次の獲物を探す。何とか2人目を捕獲したものの、2又で4000万
なかなか多重不倫者が見つからない!3人目はただの独身者、4人目は新婚で不倫はしていない……
「あと30秒です、最後まで浮気者を捕まえてください」
ふと、視界に温厚そうな男を見つける。リュックサックにアイドルアニメのキャラのバッジがズラリと付いている、猛者だ、猛者のオタクだ。
そうだ、不倫している者じゃない、浮気者だ……つまり、多くのアニメを見ているあの男は……いろいろな作品に、「俺の嫁」を持っているかもしれない!
このまま、何もせずにいても負ける、ならばと、ジェルを使い切り、ギリギリでオタクの猛者を捕獲する。
判定は…………10又!今期のアニメは豊作だったようだ!
2000万×10の2憶と、4又以上のボーナスで2億1000万
合わせて4億1000万!!
ステージが終了する
どうやら獲得金額で勝てた様だが……対戦相手はどうなるのだろうか……
そもそも、対戦相手が人間かコンピューターなのかも分からない。プディングが本当のことを言っているとも限らない。だけど……
プディングが現れたので、提案をする。
「私の稼ぎの一部を敗北した対戦相手に渡して欲しい、彼らがゲームオーバーにならない様に」
「……検討します」
そして、やはり私は解放されない。1ステージクリアしただけということだろう。つまり、今日はここに泊まれってことか……
ステージの終了後、獲得した賞金でアームの改造ができる様だ。
プレイするだけでも料金が必要だが、ここは、改造しておこう。
色々なゲームをプレイしてきた勘というか、こういうシステムがある場合、強化をしておかなければ苦戦するケースが多い。
ふと、空腹に気が付く。プディングが言っていった受話器を使うか……
相手は何もしゃべらないので、一方的に用件を告げた。
しばらくして、お掃除ロボットの様な機械が学食から食事を運んで来た。
いつもと変わらない味は落ち着く。
食事が済むと、ガクッと疲れが出て、眠くなった。
監禁されている異様な状況だが、あまりにも眠い。こうなったらヤケだ、寝よう。
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