僕の『センパイ』と私の『後輩くん』
チモ吉
第1話 友情について
「センパイセンパイ」
「なんだね後輩くん」
「センパイって友達とかいるんですか?」
「おや、藪から棒に失礼な疑問が飛んできたね。後輩くんは私の友達ではないのかな?」
「友達といえば友達ですけど、それよりもセンパイはセンパイってイメージが強いです」
「それもそうか。私にとっても後輩くんは友人というよりも後輩だな」
「でしょう?」
「それで、友達だったか。ううん、友人はあまり多いとは言えないけれど、それでもいないことはないね。それで?」
「僕も友達は少ないです。けれど、はい。いない訳ではないんですよ」
「ふむ。まあ後輩くんは大人しいタイプだからな、人気者と言えるタイプの人格ではないだろう。さりとて、人から嫌われるタイプでもない」
「そうかもしれません。で、本題なんですが」
「聞こうじゃないか」
「僕の数少ない友人の1人が、すっごく人気者なんですよ。顔もカッコよくてサッカーも上手で、それでいて性格もいいんです。クラスの中心っていうか、はい。そんな感じの」
「ほう。そんな相手と後輩くんはよく友人になれたな。いや、嫌味ではない、素直に感心したんだ」
「嫌味だなんて思いませんよ、それに僕自身もそう思いますから」
「それで、その彼がどうしたんだ?」
「はい。その……くだらない悩みなのかもしれませんけれど」
「悩み、というのは他人から見ればくだらなくとも本人からすればどれも真剣なものだ。否定や批判なんてしないよ、話してみてくれ」
「……えっとですね。ありきたりなことなのかもしれませんけれど。その彼は、僕にとって大事な友達なんです。けれど、人気者の彼は、僕以外の友達もいっぱいいます」
「うん」
「今日、少し不安になったんです。僕にとって彼は大事な友達だけれど、彼にとってはいっぱいいる友達の1人に過ぎないんじゃないかって」
「なるほどね……」
「それで、人気者のセンパイの意見を聞いてみようかな、と」
「私も友人が少ないと言っただろう、後輩くん」
「でも人気者ですよ」
「否定はしないが……そういったことを自身で肯定するのは面映ゆいね」
「それで、センパイはどう思いますか?」
「どう思う……と言われても、後輩くんが何を望んでいるのか、どういった解答を欲しているのかは分かりかねる所なんだが。私見を1つだけ、いいかい?」
「お願いします」
「思うに、後輩くんは友情を測るにあたって割合を重視しているように思う。数多く友人がいる彼は、友人の少ない自分よりも1人当たりに注ぐ友情が少ないのでは、と。だから自分の感じる友情と彼の感じている友情には差異があるのでは、とね。違うかい?」
「……そうかもしれません」
「うん。それで、だけれどね。まるで見当違いかもしれないけれど、と保険の前置きをさせてもらうけれど。絶対量で友情を見れば、彼は後輩くんが想像しているよりも後輩くんに友情を感じているかもしれないよ」
「どういうことですか?」
「仮に、君には友人が2人、その人気者の友人には10人いたとしよう。等しく皆に友情を感じていると仮定した時、注ぐ友情の割合だけ見れば後輩くんはそれぞれ50%、友人は10%ずつになる。友人が後輩くんに感じている友情は後輩くんの感じている友情の5分の1だね」
「そうですね」
「だが、絶対量、つまりは感じている友情自体を数値化するとどうなるだろう。後輩くんが友人に感じている友情を仮に100としてみよう。そして、友人の彼から君に感じている友情も100」
「同じになりました」
「そうだね。もちろん、彼が後輩君に感じている友情はもしかしたら10くらいかもしれない。逆に、1000くらいの友情を感じている可能性もある訳だ。つまり、割合で友情を推し量っても友情の大きさは分からないんだ。友情を数値で示すことも無粋であると、私は思うけれどね」
「……悩むだけ無駄、ってことですか?」
「そうじゃないさ。存分に悩むといい。人間関係なんて悩みでいっぱいだ。悩みながらも、それでもより良い関係へ向かおうとすることが大事なんだと私は思うよ」
「そうかもしれません」
「十分な答えになれたかな?」
「はい、ありがとうございます。ところで、ですけど」
「なんだい?」
「センパイも、悩んだりするんですか? あまりそういったことに縁のない印象でしたけど」
「酷いな、後輩くんは。私をなんだと思っているんだ。私だって人間だ、思い悩むことの1つや2つ、どころか100や1000ほどあるとも」
「例えば?」
「そうだな、例えば……目の前の可愛い後輩について、かな?」
「僕ですか?」
「おや、後輩くんは自分が可愛いという自覚があるのか」
「……そういう意地悪なセンパイは嫌いですよ」
「そうかい? 私はそんな愛らしい後輩くんのことが大好きなんだが」
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