ティーネイル Dream in Future

カービン

夢見るティールと追うダイナー

EP.1 夢との出会い

 ー◆◆◆ー


 突然とつぜん、辺りが真っ白になった。

 そこには一匹の動物がいた。二本足で立っていて、体色は薄い黄色、顔は犬に似ていて、長い耳は肩のあたりまで垂れている。胴体どうたいよりも長いしっぽが、腕を組むかのように足元を囲んでいた。

 徐々に目が光に慣れてきて、その動物はゆっくりと目を開ける。相変わらず周囲は真っ白で何も見えない。

「…ここ、どこ?」

 黄色い動物がそう言った瞬間、後ろからにぶい音が聞こえてきた。

 振り返ると、大きな黒いきりがこちらに迫ってくるのが見えた。動物は恐怖で逃げ出したが、すぐに霧は動物のしっぽをつかみ、動物は簡単に転んでしまった。

 霧はしっぽをたどって体に、そして顔までおおおうとしていた。

「ダメ! やめてっ、助けてっ!!」

 次の瞬間しゅんかん、急に体が霧から離れれ、いきおい余って床にあごを打ち付けしまった。

 痛みに苦しむ間もなく、布団ふとんが頭からかぶさった。

 ガバッと起き上がると、ここは自分の部屋だった。黒い霧はなく、窓から朝日がのぼっているのが見える。

 その動物は何が起きたのか全く分からず、しばらく動かなかったが、ふと一言だけ言った。

ゆめ、だったの…?」


 ー◇◇◇ー


 なつ真っ盛り、日の光が町中を照らし、公園では子供がかけ回っている。公園の片隅かたすみにあるベンチに、先ほどの動物が座っていた。長いしっぽはひざの上にのせていて、耳は風で揺れている。

「やぁ、ティールお待たせ」

 ティールと呼ばれた動物は顔を上げた。そこには2匹の動物がいた。1匹は赤いたてがみを持ったワニのような動物、もう1匹は頭に傘のようなかざりを持った動物。

「ティール、夏休みの宿題終わったか? 俺まだ全然進んでなくてさぁ」

 ワニのような動物がティールの前に立って、話しかけてきた。

「ボクは半分くらい終わったところだよ、ダイナー」

「終わった分見せてくんね? ちょっと間に合いそうにねーわw」

 ダイナーと呼ばれたワニは困ったように話した。

「ダメだよ、宿題くらい自分でやりなよ」

 傘の飾りの動物がティールの隣に座って、ダイナーを注意した。

「だってさぁ、もうすぐサッカーの大会だぜ? 宿題とかやってる暇ないっつーの。

 そう言うクロッパは宿題終わったのかよ?」

「もちろん。1週間前に全部終わったよ」

 クロッパと呼ばれた傘の飾りの動物は、飾りをいじりながら言った。

「…終わってんなら手伝ってくんね?」

「やーだよ」

 クロッパの返事はつれなかった。


「あ、ティールにーちゃんだ」

「ほんとだ、あそぼうよにーちゃーん」

 いつの間にかティールたちの周りに子供が3人集まっていた。猫とニワトリとクマ。

「あぁ、またか。良いよ、今日は何する?」

「えーっとねー、【ティール列車】!」

「おっけー、ちょっと待っててね」

 そう言うとティールはベンチから降り、長いしっぽをまっすぐ後ろに伸ばした。子供たちは次々とティールのしっぽの上に乗っていく。ティールは子供たちが全員乗ったのを見て確認した後、ゆっくりしっぽを持ち上げた。

「はーい、【ティール列車】発進しまーす」

 ティールはそう言うと、軽く跳ねるように公園の中を歩き始めた。

「この列車はー、公園地域内の環状線でーす。少々揺れるので、落ちないように気をつけてくださーい。次はー、ブランコ駅ー、ブランコ駅でーす」

 子供たちは笑ったり、手を上げたり(危ないよ)、楽しんでいる様子だ。周りの子供たちも、その様子を見て手を振ったり声を上げたりしている。

「相変わらずティールは子供に人気だね」クロッパが言った。

「てかさ、子供3匹をしっぽで持ち上げてるのって結構ヤバくね?」

 ダイナーが苦笑しながら言った。


 数分後、

「おーいティール、そろそろ行くぞー!」

 ティールがダイナーに呼ばれて、子供たちをしっぽから降ろした。

「ボクそろそろ行かなきゃ、今度まだ遊ぼうね」

「じゃーねー、ティールにーちゃん」

 ティールは子供たちの見送りを受けて、公園を後にした。

「俺のチームメイト待たせてんだ、走っていくぞ!」

 ダイナーがそう言うなり、ダッシュで運動場に走り始めた。

「あ、待ってよダイナー!」

 ティールもしっぽをなびかせながら走っていく。

「え、ちょっと、走るの…?」

 クロッパもあたふたとしながら追いかけるが、どんどん距離が広がっていく。


 街の大広場にあるサッカー場には、多くの動物たちがサッカーをしていた。体系や種族はさまざまだが、全員が子供。チーム分けのために、半分が緑色のビブス、もう半分がマゼンタカラーのビブスを着ていた。

「おーい、みんなおまたせ!」

 すぐそばまで到着したダイナーが声を上げると、子供たちが振り向いた。ティールも息を切らしながら後ろからついてきている。クロッパの姿はない。

「ようキャプテン、待ってたよ!」

 ダイナーは少しかがんだ後、高くジャンプし、サッカー場に着地した。地面がわずかに揺れた。

「すまんな、ちょっと遅れちまった」

 ダイナーが笑いながら子供たちに話しかけた。

「大丈夫だってキャプテン、早速練習試合しようぜ!」

「キャプテン呼びはいいって、ダイナーで良いよ」

 ダイナーは緑色のビブスを受け取り、試合が始まった。


 ティールはその様子を近くのベンチに座って見ていた。そこにクロッパが歩きながらやってきた。

「やっぱりもう始まってる?」クロッパが聞いた。

「うん、全力で走ったばかりなのによくあんなに動けるよね」

「いくら走っても疲れないのがダイナーの凄いところ。さすがサッカーの世界選手になる夢を持ってるだけあるね」

「ゴールもほとんどダイナーが決めてるよね」

 ティールは試合の様子を見ながら話していた。

「ティールは何か夢はないのかい?」

 突然クロッパが聞いてきた。

「え、ボク? うーん、特にないよ。大変そうだし」

「えー、もったいないなぁ。勉強も運動もそれなりにできるでしょ、ティール」

「そうかもしれないけど、趣味とかそういうのもないし…」

 そういう話をしていると、ダイナーが遠くから大声で話してきた。

「ティール! 一緒にサッカーやってくんね!?」

「ボク!? なんで!?」

 ティールも声を上げて返した。

「良いじゃんか、ほらこっちに来なよ、ほら!」

 ほぼ一瞬でこっちに走ってきたダイナーはティールを腕を引っ張って、サッカー場に連行した。

「がんばってねー」クロッパはその様子を他人事のように見ていた。


 ティールはマゼンタカラーのビブスを着せられ、自分のゴールに近い場所に立っていた。

「ティールってサッカーやってるの?」

 近くの子供が聞いてきた。

「全然やってない。ルールを覚えてるかどうかも怪しい」

「そっか、まぁ、大会じゃないから失敗しても大丈夫だよ」

 そんな話をしていると、相手のチームがボールを蹴って近づいてきていた。

「あ、来たよ。ティールお願い!」

「ボクかい、まぁいいけど」

 ボールを蹴っている相手はまっすぐティールの方へ向かっていく。ティールはその子からボールを奪おうとして足を伸ばすが、相手はボールを後ろに転がしたり、宙に浮かしたり、ティールにボールを取られないようにうまく操っていた。

 こういったやり取りがおよそ5秒続き、

「…遊んでない?」

 ティールがさりげなく聞いていた。

「あ、やっぱバレた?w」

 子供は笑いながら答えた。

「コラ! マジメにやれモートン! せっかくガラ空きだったのにみんな戻ってきてんぞ!」

 ダイナーの怒鳴り声が響く。

「やっべ、悪いけど秒で抜くわ」

 その子供はそういって、ボールを仲間にパスした。ティールはすかさず反応してボールに足…、ではなくしっぽを伸ばした。伸びたしっぽはボールを巻き取って、そのまま高く持ち上げた。

「え、あ…ちょっと!! それされたらもう無理じゃん!」

 子供たちが苦情を言い始めた。一見反則のように見えるが、ルール上は問題なし。

 そこにダイナーが近づいてきて、こう言った。

「あー、ティール。悪いけどボール保持するの禁止」


 一方クロッパは、近くの自販機で買った【コココーラ】というジュースを片手にSNSを見ていた。いつの間にか細身で背の高い紫色のトカゲが隣に座っていた。そのトカゲは軽く腕を組み、落ち着いた表情で練習の様子を見ていた。

 しばらくして、そのトカゲは静かに腰を上げ、去って行った。クロッパは全く気が付いていない。


 ダイナーたちの練習試合は夕方まで続き、遊び疲れた子供たちはそれぞれの帰路についていた。同じく、ティールたちも一緒に家に帰ろうとしていた。

「今日は楽しかったな、ティール!」

 まったく疲れてない様子のダイナーが楽しげに話した。

「ダイナーのチームが強すぎて何もできなかったけど」

「ホントか!? 大会で優勝できるかな!?」

「まぁ、できるんじゃない?」

「よっしゃ! 絶対優勝してやる!」

 ダイナーはそう吠えて、ウキウキで足音を鳴らしながら歩いていく。


「あ、あれ何?」

 突然クロッパが前を指して言った。その先には、道路の上で横になって寝ている黒猫がいた。あたりに建物はなく、見通しは良い。

「なんだ、ただの猫じゃん」

 ダイナーがそう言うと、右の方から車の音が聞こえてきた。その車は速度を緩めることなく、黒猫の方へと走っていく。

「ちょっと、まずくない…!?」

 ティールがすかさず黒猫の方へと走っていく。黒猫と車の距離も短くなっていく。

「ダメだティール、間に合わない!」

 クロッパが叫んだ。するとティールはしっぽを地面に押し付け、バネのように反動をつけて一気に飛び込んだ。

 ティールの手が黒猫に届くその瞬間。

「にぃーwww」

 寝ていたはずの黒猫がティールの方を見て、歯を大きく見せながら笑ってきた。

「えっ?」

 ティールが驚く間もなく、その黒猫が手を伸ばしてきて、ティールの腕をつかみ、そのまま流れるように投げ飛ばした。その後ティールがそのあとに見たものは、こちらを見て笑っている黒猫と、その黒猫を容赦なく轢いていく車だった。


「ティール大丈夫!? 黒猫は!?」

 すぐさま駆け付けたクロッパがティールに話しかけた。ティールは地面にあおむけで落ちたまま、動かず、喋らなかった。

「クロッパ、黒猫がどこにもいないぜ!?」

「嘘!? どこ行ったの!?」

「轢かれたにしてはキレイすぎるし、ティールも持ってないんだろ!?」

「…ティール、何があったの?」

 ダイナーがティールの体をゆっくりと起こし、クロッパは持っていた未開栓のジュースをティールに差し出した。ティールはジュースを一口飲み、静かにこう言った。

「…分からない」


 その日の夜、ダイナーたちと別れたティールは家に帰っていた。部屋のテレビは付いていて、ニュース番組を静かに垂れ流している。ティールは机の前に座って、右手にはペン、膝の上にしっぽ、机の上には作文用紙と小説が置かれている。

 ティールは持っているペンを動かさずに、夕方のあの黒猫のことについて考えていた。自分のことをからかうかのような笑顔、自分を軽々と投げ飛ばす力、轢かれたはずなのに何も痕跡が残っていない。ダイナーやクロッパも見ていたことから、幻覚でもなさそうだ。


 あの黒猫は、いったい何者だったのだろうか?


『続いては、コンビニ爆発事件の続報です』

 ニュースが言った。ティールは思い出したかのようにテレビの画面を見た。

『今日の昼4時、黒沢市にあるコンビニエンスストア【テッパン】の店内で爆発がありました。この爆発で、店長のトットさんが死亡、このほかにも、店員と客を合わせて、5人の重軽傷者が発生しました』

 テレビの画面には、黒焦げになった建物とその周囲に集まる野次馬が写され、アナウンスに合わせて字幕も表示されている。

『店内の防犯カメラには、不審者や爆発物らしきものは写っておらず、コンビニの従業員も、直前まで特に変わった様子はなかったと供述しています警察は、事故と事件の双方から調査を進めています、地域の住人は──』

 ティールはテレビを消した。

「……今日はもう寝ようかな」

 部屋の時計は9時4分を指していた。ティールは部屋の電気を消して、月明かりを頼りにベッドに入る。布団はかぶらずに、自分のしっぽを前に抱えて、静かに目を閉じた。


 ー◆◆◆ー


 ティールが目を覚まして体を起こすと、周りにはでこぼこした草原が広がっていた。空中にはところどころ島が浮いていて、よく見ると空を飛んでいる生き物もいる。その生き物たちは鳥でも虫でもなく、ファンタジー世界に出てくるような見た目をしていた。遠くにはどうやら海もあり、水面がきれいに揺らいでいる。空にはところどころ薄いピンク色の雲が浮かんでおり、太陽らしきものは見当たらない。

「…ここ、どこ?」

「夢の世界だよ」

 突然耳元から声が聞こえた。

「うわぁ!? え、誰!?」

 ティールは驚いて、振りむきながら飛びのいた。

「よう、久しぶりだな」

 そこには、濃い紫色で、猫やトラの骨格に似た動物が宙に浮いていた。しっぽは短く、所々に水色の模様があり、胸には赤い宝石のようなものが埋まっている。

「こんなに早く来てくれるなんて思わなかったぜ、嬉しいねぇ」

 その動物はこういうと、見覚えのある笑顔をティールに見せてきた。

「え…、あっ。もしかして、夕方のあの黒猫?」

「ちょ、おいおい、気づいてなかったのかよ。ちょっとショックだなー」

 黒猫はティールの周りを飛び回りながら言った。

「オイラはな、お前みたいなやつを探してたんだ」

「え、ボク? なんで?」

「ちょーっと遊び相手が欲しくてなー、それじゃ早速行くぞ!」

 黒猫はそう言うと、ティールの体の中に入っていった。それと同時にティールの体が黄色い光に包まれる。

「え、ちょっと、何する気!?」

「いいから、すこーしガマンしな。眩しかったら目を閉じてもいいぜ」

 痛みはなかったが、全身が何かで包まれている感覚と、体の内側から何かが湧き出てくる感覚が襲ってくる。未知の感覚に耐えられなくなったティールは、険しい表情をしながら目をぎゅっと閉じた。


「…おーい、いつまで目ぇ閉じてんだよ、もう終わったぞー」

 まだ違和感から覚めないまま、ティールはゆっくり目を開いた。

 ティールが自分の体を見てみると、その体は紫色に変化していて、背も若干高くなっていた。所々にさっきの黒猫のような水色の模様があり、胸にはひときわ大きい赤い宝石が埋まっていた。

「…え? ええーっ!? 何これ!?」

「ちょっとお前の体を借りてるぜ☆」

 ティールが絶叫すると、どこからかあの黒猫の声が聞こえてきた。

「借りてるって…、やめてよ勝手にこんなこと! ってかどこのいるの!?」

「お前の体の中。にしてもお前のしっぽクソ長すぎだろ。ジャマだなぁ…」

 ティールのしっぽもまた紫色になっていて、水色の模様が付いている。

「いっそのこと、しっぽ切っちまうか?」

「ちょ、やめて!」

「キキッ、冗談だよ。さーて、そろそろ出かけるか」

「出かけるって、うわっ!?」

 突然ティールの体が浮いた。ティールがせわしなく体を動かすが、地面には手も足も届かない。

「おいおい、そんなに暴れるなよ」

「待って、ボクをどうする気!?」

「どうって、ただの空中散歩だよ」

 ティールの中の黒猫が言うと、ティールの体が浮いたまま猛スピードで前に進みだした。


「おい、目ぇ開けろよ。何にも見えないだろ」

「ムリムリ! 怖いんだもん!」

「まったく、じゃーちょっと速度落とすから、ちょっとだけ開けてみな」

「うう…」

 ティールはおそるおそる目を開けてみると、浮いている島が猛スピードでこちらに向かってきているのが見えた

「ひぃ!?」

 ティールが小さく悲鳴を上げた。

「あらよっと!」

 ティールの体は急旋回し、すれすれで島をよけた。

「殺す気かー!?」

 ティールが大声で抗議した。

「そう怒るなって、ちょっとからかっただけじゃねーか。それより、大空の空中散歩、気分はどうだ?」

「え?」

 先ほどまでの疾走感は全くなく、今のティールはただ空中に漂っていた。ティールは辺りを見渡してみた。はるか下には黄緑色の地面のようなものがぼやけて見えている。ちょっと上には綿あめのような薄ピンク色の雲が浮かんでいる。ちょっと飛び上がれば手が届きそうだ。


「ちょっと自分で飛んでみな、ほら」

 ティールは言われるまま、手足を動かしてみた。手は犬かき、足はバタ足。まるで水中を泳ぐような動きだった。

「カーッカッカッカww!! 何だよその飛び方、初めて見たぞw!」

「だって飛び方分かんないんだもん…」

 黒猫の声に笑われたティールは、今度は鳥が羽ばたくように腕を上下に動かしてみた。全然進まない。

「あーもう、そうじゃなくって。足と手で風をちょこっと押すんだよ」

「風を、押す…???」

「こんなふうにな、よっと」

 ティールの体が勝手に動く。おそらく黒猫が操っているのだろう。足を折りたたみ、腕を前に出す。そして、足は一気に後ろに伸ばし、腕は仰ぐように後ろへ動かす。すると、ティールの体がスーッと前に進んだ。

「へぇ、すごいね…」

「おい、前見ないとぶつかるぞ」

 ティールが前を見ると、崖がゆっくりこちらに迫ってきていた。

「え、ちょっと。どうやって止まるの?」

「風をつかんで止まる」

「だからそれはどうやってやるの!?」

 ティールが文句を言っている間にも体は前に進み、崖にぶつかってしまった。速度はそれほどなかったので怪我はない。

「よかった。止まった」

「いや、ぶつかっちゃダメだろw」

 黒猫が笑いながら言った。


 このようなでこぼこしたやり取りを続け、ティールはなんとか空中を進むことに成功していた。

「そういえば、ここって何なの?」

 ティールは空中をゆっくり進みながら聞いた。

「さっきも言ったろ、夢の世界だよ」

 ティールの中にいる黒猫が返した。

「夢って、寝てるときに見るアレ?」

「そうだよ。お前らは寝てる間、こっちの世界に来るんだ。ここみたいに静かなところもあるし、ちょっと物騒なところもある」

「…それじゃ、今こっちの世界にダイナーやクロッパも来てるのかな?」

「ダイナー? あぁ、そっちの世界で一緒にいたやつか。寝てたら来てるだろうな。でも夢の世界はめちゃくちゃ広い。探すのは無理だな」

「そっか、…おっとっと」

 ティールの体がゆっくりと地面に近づき、足で着地した。するとさっきの黒猫がティールの体から出てきて、ティールの体は黄色い元の姿に戻った。

「そういえば、お前、名前は?」

「ボクはティール」

「オイラはネイル。こっちの世界の住人さ」

 突然、ティールは何かに吸い込まれる感覚に襲われた。

「え、何?」

「もう起きる時間かぁ、まだ遊び足りないなー…」

 黒猫がつまらなさそうに言った。

「そっか…、また来れるかな?」

「さぁな。でも、また会うことがあったら、よろしくな」

 ティールの意識がだんだんと薄れていく。


 今日も変わらず、朝が来た。

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