Surphy

カービン

Ep1

 ここはどこにでもあるような島。あたりはすっかり暗くなっていて、満月がやさしく島を照らしていました。島のほとんどは木に覆われていて、島の端には砂が積もっていました。風が木をなでる音、波が鳴る音以外に何も聞こえません。

 突然、ある1匹のドラゴンがこの島にやってきました。まだら模様の大きいタマゴを1個抱えていて、島を見渡しています。その表情はどことなく悲しそうでした。そして、ドラゴンは何かを見つけて、島の森に入っていきました。

 そこに鳥の巣がありました。そしてその中には、ドラゴンが持っているのと似たような、まだら模様のタマゴが4個並んでいました。

 ドラゴンは周りを見渡して、誰もいないのを確認して、ドラゴンが持っていた卵と、巣に入っていた卵の一つをすり替えました。

「ごめんなさい…」

 ドラゴンは一言だけ言って、どこかに行ってしまいました。


 母鳥は自分のタマゴの一つがすり替えられていることに気づかないまま、数十日が経ちました。タマゴたちは今、母鳥の下でぬくぬくと温まっていました。母鳥は立ち上がって、タマゴの様子を見ます。タマゴにはヒビが入っていて、もうすぐ生まれそうです。

「ああ、もうすぐで私は子持ちになるのね。楽しみだわ」

 まず生まれたのは、黄色の小さいひな鳥。次は黄緑色の、さっきの子より少し大きいひな鳥。3番目に、黄色のくちばしが細長いひな鳥。それぞれが高い鳴き声を発して、誕生の喜びを分かち合っていました。

「ママ! ママ!」

「まぁ、なんてかわいい子たちなんでしょう! 幸せだわ」

 母鳥は生まれたひな鳥たちをかわいがって言いました。

「さて、残りはあなただけよ」

 その残りの卵は、例のすり替えられたドラゴンのタマゴです。

 ついに、そのタマゴから赤ちゃんが生まれました。その赤ちゃんはほかとは全部が違いました。鼻が長くて、口から牙がのぞいています。羽毛は生えていなくて、代わりに青いウロコに覆われていました。

 予想外の出来事に、この鳥の家族はとても困惑していました。黄色のひな鳥は母鳥の後ろに隠れてしまい、その母鳥は口を開いたまま固まっていました。

「そ、そんな…ありえない! これは私の子じゃないわっ!」

 母鳥がなんとか声を上げました。赤ちゃんドラゴンは驚いて母鳥を見ます。

「え、どうして? ボクはお母さんのタマゴから生まれたんだよ」 

「これは何かの間違いよ! 今すぐ出て行って!」

 母鳥はこう怒鳴りました。一方赤ちゃんドラゴンも少し怒った様子です。

「なんで? どうしてなの!?」

「お願い、出て行って、私の子を傷つける前に、早く…」

 赤ちゃんドラゴンは悲しくなって、母鳥の巣から出て、森の中に消えてしまいました。

「ああ、どうしてあんな子を産んでしまったの? できるならあの子を産む前に戻ってしまいたい…」

 母鳥が泣きながら言いました。待ち望んでいたはずの子がドラゴンだなんて誰が想像できるでしょうか。

「ママ、おはかすいた」

 黄色の雛鳥が母鳥の隣に座って言いました。

「うん、分かってる。あなたたちこそ私の子供だわ」

 母鳥がひな鳥の頭をなでながら言いました。


 次の日、あの赤ちゃんドラゴンが母鳥の巣に戻ってきました。

「どうして戻ってきたの? すぐに出て行って!」

 母鳥が驚いた様子で言いました。

「いやだ、ボクはお母さんの子だ!」

 赤ちゃんドラゴンが涙をこらえながら言います。

「いいや、あなたはただの怪物よ! 確かに私はタマゴだったあなたを愛してたかもしれないけど、今はもう違う。私なんかがあなたの世話をできるはずがない!」

 母鳥の言葉を聞いた赤ちゃんドラゴンは、ついに泣き始めてしまいます。

「それでも、ボクはお母さんの子だよ…」

「違う、怪物よ!」

 その時、黄緑色のひな鳥が地面に落っこちてしまいました。赤ちゃんドラゴンと母鳥はその音を聞いて、ひな鳥の方へ向かいます。

「あなたが戻ってきたから落ちちゃったじゃないの!」

「ボクは何もやってないよっ!」

 ひな鳥が泣き始めます。

「大丈夫よ、すぐに良くなるわ」

 母鳥はひな鳥を落ち着かせようとします。やがてひな鳥は泣き止みますが、赤ちゃんドラゴンはまだ泣いています。

「おうちに帰りましょう」

 そして、母鳥はひな鳥のために餌をとってきて、その後は昼寝をさせていました。

 赤ちゃんドラゴンがその様子を離れた場所から見ていました。

「ボクがタマゴだったときに捨ててしまえばよかったのにっ!」

 赤ちゃんドラゴンが叫んで、走り始めました。

「なんでいつもそんなに責められないといけないの?」

 最終的に、赤ちゃんドラゴンは島の端っこに着きました。しばらくはそこにいましたが、やがて海に飛び込んでしまいました。

 その様子を母鳥が、離れた場所から見ていました。

「ごめんなさい。でも、これでよかったのよ。お互いに…」

 その表情は、どことなく悲しそうでした。


 それから数日後、この日は嵐が吹く日でした。ひどい嵐です。常に強い風が吹いて、石や枝を巻き上げています。ひな鳥はみんなおびえていて、母鳥は風からひな鳥を守っていました。

 しかし、くちばしが細長いひな鳥が風に巻き上げられて、嵐にさらわれてしまいました。すかさず母鳥が羽を伸ばしますが、間に合いません。助けに行こうとすると、他のひな鳥が危険にさらされてしまいます。

「ママ! ママ!」

 ひな鳥が必死に助けを求めますが、次第にその声は弱くなっていきます。

「そんな…あの子はもうだめだわ、ごめんなさい…」

 母鳥が悲しそうに言いました。嵐はひな鳥をさらに遠くにやってしまいます。

 その時、あの赤ちゃんドラゴンが現れて、ひな鳥の方へまっすぐ飛んで行きました。どこから来たのかは全く分かりません。そしてひな鳥をつかむと、自分のお腹のほうに抱え込みました。

「助けに来たよ、兄弟!」

 石や枝などが嵐に乗って赤ちゃんドラゴンを襲います。赤ちゃんドラゴンは目をぎゅっとつぶって、歯をくいしばって耐えています。母鳥がその様子を見ていました。泣きそうになっていますが、悲しそうではありません。

そして言いました。

「ありがとう…」

 しばらくすると、嵐がだんだん弱くなって、消えていきました。傷だらけになった赤ちゃんドラゴンがひな鳥を連れて、母鳥のところへふらふらと飛んできました。母鳥がそれを受け取ると、赤ちゃんドラゴンはその場に倒れてしまいました。

「ありがとう、そしてごめんなさい! あなたは大切な息子よ! だから行かないで。お願い!」

 母鳥が赤ちゃんドラゴンに向かって叫びます。

「うん、もちろんさ。前から言ってるじゃないか。ボクはお母さんの子だって」

「その通りよ、そばにいてくれて嬉しいわ。私の強くて勇敢な息子よ、愛してる…」

 赤ちゃんドラゴンは母鳥を見ながら、微笑んで目を閉じます。母鳥はこの日の夜、赤ちゃんドラゴンを大事に抱えながら眠りました。


 次の日、昨日の嵐が残した爪痕がまだ島に残っていますが、この日は晴れていました。

日の光に照らされて、母鳥が起きます。

「みんな、朝よ。起きて」

 母鳥がひな鳥の頭と赤ちゃんドラゴンの肩を軽くたたいて言いました。

「うーん、起きてるよ…」

 赤ちゃんドラゴンは目をこすりながら言いました。ひな鳥もそれぞれ起き始めたようです。

「さて、今日はあなたたちに名前を付けようと思うの」

「名前?」

「そう。まず、小さいけど一番活発なファイン、一番食いしん坊なグルト、ちょっと変わりものなニーク」

 母鳥は、黄色の小さいひな鳥、黄緑色の大きなひな鳥、細長いくちばしのひな鳥の順に見て言いました。

「そしてあなたは…」

 母鳥は赤ちゃんドラゴンを見て、少し考えました。

「サーフィー。サファイアみたいにきれいな体のあなたにはぴったりだわ」

 母鳥は赤ちゃんドラゴンを見て言いました。サーフィーと名付けられた赤ちゃんドラゴンは自分の体を見ます。昨日の傷がまだ残っていますが、青いウロコに水滴が付いていて、輝いて見えました。

「サーフィー! サーフィー!」

 ひな鳥たちがサーフィーの周りで跳ねて、その名前を呼んでいました。

「それじゃ、早速ご飯を探しに行くわよ。みんなで一緒に行きましょう」

 母鳥が空に向かって飛んで、ファイン、グルト、ニークがそれを追います。

サーフィーもそれに続きます。今ではみんなが幸せに暮らしています。

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