華の乙女

四月一日真理@初投稿

エピローグ

今日という日を、私は…いえ私達は心待ちにしていました。これは千載一遇のチャンス。…少なくともそうです、私のような庶民にとっては。


「これより女神の神託を開始します」


集められ、身を清め、用意されたシンプルな服を身にまとい、私達はただ与えられた幸運に感謝を示します。


「華の乙女候補として選ばれるのは皆、清らかで信仰深い乙女であり、選ばれた貴方達はとても名誉な方々です。是非ともその信仰深さを、その身心の清らかさを誇りにお思いください」


「御神託を承り、華の乙女の候補になれるのはこの中から一握りの少女達です。

その左手に花の模様を得た者のみが華の乙女の候補となれ、そして華の乙女は我らが祖国シュンタクス王国の礎の一つとなれるのです。これ以上のない名誉でしょう」


この神殿で一番偉い神官長がそう厳かに宣言する。神官長は一段高い祭壇の前で、膝を付き祈りを捧げる多くの少女達を見下ろす。その手に持つ、青の宝玉をはめられた古めかしい杖を女神トレミー様の像の前で掲げる。…少女達は、一様に息を呑んだ。


当たり前です。これですべてが決まってしまうのです。せっかくの100年に1度のチャンス。私達は、少なくともこの場にいる適齢期の少女達は皆、ただそのチャンスに与れたことだけでも、幸運なのです。

膝を付き、胸の前で硬く組んだ両手が緊張で強張ります。

どれだけ覚悟していても、毎晩…例え今までずっと祈り続けたとしても、この瞬間だけはひどく残酷で一瞬なのです。我らが女神トレミー様に選ばれなければ、例えどれだけ高潔な乙女であったとしてもその左手に花は咲かない。花が咲かなければ、私達は華の乙女候補にすらなれないのです。


「我らが女神トレミー様の御神託は本日の宵明けから明朝にかけて下ります。汝らは皆、割り当てられた部屋で祈りを捧げ続けなさい。その御手に花開いた者のみが、華の乙女候補となり得るのです」


神官長の低い声が、神殿内に木霊した。その声を聞きながら、少女達はこの先の未来を夢見る。


ーー華の乙女となり、この国の礎となることを。

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