ケモミミ国の経済授業
ひとしずくの鯨
第1話 ケモミミ国の経済授業
森の中にある青空教室。
周りは木々が茂り、ここだけ、ぽっかり開いている。巨人の足跡と呼ばれる。そんな形をしているからだ。
枝で羽を休めた赤・青・黄色、色とりどりの鳥たち。そのさんざめく声は心地よい。太陽はポッカポッカであったかい。でも、眠くなったりしない。だって、おじいさん先生の話は特別だ。
先生は物知りだ。ケモミミ国一番と言って良い。何せ、誰も知らないことを話して聞かせてくれる。
ただ授業にそれほど集中できないときもあった。何せ、斜め前にダーク・エルフの気になる子がいるから。風がそよげば、いい匂いが漂って来る。そして、ついつい、そのかわいい顔をのぞいては、デレーとしてしまう。だから、こんなことになってしまう。
「おい。大吉や。ちゃんと聞いておるのか」
こうなると、苦笑いするしかない。でも先生は優しいから、それ以上、怒られることはない。中には殴ったり、立たせたり、教室を追い出したりする教師もいるが、でも、先生は違う。だから、大好きだ。
そして話が面白い。何せ、異世界の話だ。この世界とは全然違う。正直、多少というか、かなりというか、大げさに言っているんじゃないの? と想ってしまう。
だって、なかなか信じられないんだもの。そんなひどい世界って、なかなか無いだろう。疫病とか戦争とか。
先生は、そこから来たんだ。こんな世界はイヤだと願っていたら、来られたんだってさ。このケモミミ国は、まつりごとの参考にするために、いろんな異世界から教師を召喚しているんだ。
授業があって、その後、それを基にしたゲームをした。これも、いつものことだ。
僕らは、各国の中央銀行の総裁になる。
疫病の発生。
経済を復興するために、最初の政策金利は0。
これは、みんな同じ。
経済規模は、先生が作ったくじ引きで決める。僕は、まあまあの国。アナーヒターちゃんは、ビリから2番。既に不機嫌な顔になっている。
1番、大きなのを引き当てたのは、意地悪ゴブリンの阿呆ゴブだ。ちゃんと他に名前があるのだけど、嫌いだから、こう呼んでいる。僕のことを、のろまなドワーフと馬鹿にしている。
ゲームオーバーにならなければ、ゲームクリアだ。僕にもアナーヒターちゃんにもチャンスがある。
阿呆ゴブが有利と思いきや、経済力が強すぎて、すぐにインフレになった。ハハ。僕は0金利でこのまま行くぞ。
そこで、阿呆ゴブ、どんどん政策金利を上げて行く。ただ、これには景気後退のリスクがあると授業で習った。ゲームでは、サイコロで代用する。金利は全部で6段階上げることができる。2段階目から、上げるごとにサイコロを振る。上げた回数より下の目が出たら、景気後退となり、ゲームオーバーだ。
しかし阿呆ゴブ、その強気な性格のままに、どんどん金利を上げて行く。ハハ。自分で自分を追い込んでいたら、世話ない。そんな余裕をかましていたら、なんと、想わぬ攻撃が来た。金利の差が拡大するほど、通貨の力に差が出る。ゲームではトップと金利が6広がったら、負けだ。
ついに、阿呆ゴブは金利を6に上げた。サイコロを振る。6が出る。クソ。僕は1上げざるを得ない。
するとアナーヒターちゃんがジト目で僕を見ているのに気づいた。アナーヒターちゃんも金利は0のまま。
一緒に0にするということ? それも仕方ないな。だって、あんな目で見つめられたら、従うしかない。
僕は上げないと言った。少し場がざわつく。みんな、てっきり僕が上げると想っていたのだろう。
アレっ。アナーヒターちゃんは上げた。
どうして?
でも、いいんだ。アナーヒターちゃんは、上機嫌で、その後、僕に笑顔を向けてくれたから。
それにゲームだもの。何の実害もないんだよ。ねえ、そうだよね。
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