伴侶より戦場にトキメク私は変ですか⁉︎
一花カナウ・ただふみ
クジ引き婚ですのであしからずっ‼︎
現在ワケアリ結婚中!
第1話 そこは私の日常
地面に散らばっているのは血液や肉塊、鉱物人形たちが落とした身体のパーツ。どれもやがて自然に還るものだ。
いまだに戦況はよくならず、拮抗状態。今回の魔物討伐はだいぶ厳しいものになった。
――援軍を呼んでいてこれだもんな……
少しでも戦力は残っていたほうがいい。それは私自身のことでもあるし、目の前でボロボロになっている鉱物人形を助けることでもある。
――これは医療行為みたいなものだから、迷ったらダメ。
心臓がバクバク音を立てている。血の巡りがよすぎて身体が熱い。生命の危機を前に、興奮しているのがわかる。
戦場にいるときの私はいつもそうなのだが、今はそれ以上に高揚している。
「――ルビさん、私が助けるから」
私は壊れかけた鉱物人形・ルビに唇を重ねて魔力を吹き込んだ。彼はその行為を拒むように腕を動かしたが、やがてその手は縋るようなものに変わった。
――大丈夫。うまくいく。
術の展開が間に合わなかった。
事前調査の結果では一体だけだと聞いていたのに、魔物は複数体いたのだ。潜んでいた別個体に気づくことはできたけれど、防御までできなかった。
そんな無防備な私を、たまたまそばにいた鉱物人形・ルビが体を張って守ってくれて、この状況である。
――受け入れて、ルビさん……
魔力の授受についての講習は受けたから知っている。基本的に粘膜接触が有効であり、口付けや交わりによって行うのだ。
鉱物人形のヒトに似た特殊な身体は魔力を得れば回復する。私を守るために受けたダメージはこれで修復できるはずだ。
「……待て、それ以上は」
唇が離れて、ルビが囁いた。私は首を横に振る。
「私の術は補助のほうが多くて、最前線での戦闘には向かないの。あなたを回復させて攻撃に回ってもらった方が勝算が高い」
「だが」
「作戦と違うことは承知しています。ですが、戦線崩壊と言えるこの状況で、撤退指示はまだ出ていません。起死回生を狙うならこの方法がきっと適切。あなたはあなたの役割を果たして」
そう告げて、無理矢理口付けをした。強引に舌を絡める。
――なんだろう。ゾクゾクする……
魔力が巡る感覚。私が与えているはずなのに、どうも彼から魔力が流れ込んできてもいるようだ。
「――もういい」
私たちの上下が入れ替わった。ルビの紅蓮の瞳が私を見下ろす。
「戦闘どころじゃなくなってしまうだろう?」
そう告げて、彼は私に口付けをした。舌を軽く絡めたところでゆっくり離れる。別れを惜しむように、互いの唇から唾液が糸のように繋がっている。
――いやらしいな……
この高揚感は戦っているからではないのだと、うっすら感じている。こんな感覚は初めてだ。
ぼんやりとした心持ちで彼を見上げる。
ルビは困ったように笑った。
「……この礼はちゃんとするから、ここで休んでろ。――行ってくる」
ルビは私に命じて、音の大きなほうへと跳躍した。
* * * * *
そこで目が覚めた。
身体がむずむずする。
「夢、だよねえ……」
私は身体を起こして、ため息をついた。
「――どうした?」
隣で寝ていた《伴侶》のルビが声をかけてきた。約束しているとおりに彼はこの広いベッドの半分より私側には来ていない。相変わらず寝相がいいな。
「いつものやつ、ですよ」
「戦場の夢か」
私は彼を見て頷く。
「あんなズタボロになるような戦闘、記憶にないんですけどね。でも感覚が生々しいから変に反応しちゃう」
「どこか痛むのか?」
「それはないんですけど、血が騒ぐんですよね」
血が騒ぐ、という表現でいいのかよくわからない。ただ、自分が興奮しているのは確かだと思う。
「じゃあ、俺と模擬戦でもするか。たまには発散したほうがいいんだろう?」
ルビが身体を起こして大きく伸びをした。そのあとで身体をポキポキと鳴らす。
薄い肌着から彼の肉体が覗く。
二十代の青年といった姿で、戦闘に長けているがスピード型であるから筋肉はあまり目立たない。男性にしては小柄なほうだ。私よりは少しだけ背が高い。そんな体格なので、戦闘服を着込んでいると華奢に映る。脱ぐとまあ、男なんだけど。
ルビはほかの鉱物人形と同様に美形で、クールな印象の顔立ちである。赤い髪赤い瞳で熱そうなのに、表情は冷ややかなのだ。そういうギャップがいいらしい。私にはわからない。
「付き合ってくれるんですか?」
「最近の任務はぬるくて感覚が鈍るからな。君が相手なら俺は嬉しい」
「……まあ、連携も見直しておきたいですし、しますか」
今日の仕事のスケジュールを思い出す。調査のために協会を出るのは午後からだったはずなので、家を早く出れば時間は取れそうだ。
「なら、朝食の準備だな。俺が支度をしておくから、水浴びをしてきていいぞ」
「ああ、うん。ありがとう」
変な汗を掻いていて水浴びをするか悩んでいたことに気づいていたようだ。ルビはベッドをおりてキッチンに行ってしまう。
「……あれは、彼だったなのかな。それとも、ただの夢なのかな」
下着が汚れている。その理由が私にはわからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます