第13話 再び遠征しよう

 「出発前に済まない。本当は昨日聞けばよかったんだが、砂糖はこの街で手に入るか?」


 俺は、調理用レシピで揃わなかった材料が手に入るか聞きいた。


 「私の父の商会で扱ってますが、ギリーさんなら、問題ないかもですがお高いですよ。」


 「いくらくらいだ?」


 おお、手に入るのか。1kg、金貨10枚とかじゃなければ、買いたいな。


 「小さな壺で銀貨5枚です。」


 あの壺だと500gくらいか。それがまぁ日本円に換算すると5万円くらいか、うん、高いな。

 でも、それで調理レシピが試せるならいいだろう。

 あとは、調理できる場所をどこかで借りれればいいんだが、それも聞いてみるか。


 「そうか。あと、調理に使う竈とかどこかで借りれないか?」


 「竈ですか?調理用の携帯魔道具や家庭用魔道具でしたら買えますが。」


 「おお、それはどこで買える。いくらだ?」


 おお、それはコンロみたいなものかな?多分そうだろう、それあれば、旅先でも試せるし、スキルも上げも行えるな。一応、金額も聞いたけど、これは絶対買おう。出来れば出発前に買いたいな。


 「父の商会でも買えます。金額は金貨1枚からありますけど。」


 うん、砂糖と一緒に買えるなら、是非立ち寄ろう。


 「では、予定をちょっと変更して、出発前に寄りたいが構わないか?」


 「わかりました。では、パルマ、案内して差し上げなさい。その間、私達は、馬車の準備をしておきます。」 


 こうして俺は、砂糖の壺5つと魔導具、魔道具用の魔輝石を買って、戻って来た。パルマが一緒に居たこともあって、多少割り引いて貰えたようだが、冒険者が買う物じゃないから、あとでパルマ達が変に追及されたりしないだろうか?

 イオナの街の南門前を出て、牧場に辿り着くと、馬車は既にいつでも動けるようになっていたので、そのまま出発した。

 最初の御者台は、パルマとリアが担当という事になった。街付近の馬車が行き交う時間帯はまだどうしても扱い慣れたパルマが担当となってしまう。この辺も、早くみんなが扱えるようにならないとな。


 「ところでギリーさん、何しているんです?」


 俺は、馬車の荷台が揺れないのをいいことに、そこに調理道具と材料一式を取りだし、調理を始めようとしていた。それを見ていたミサがそう尋ねて来た。


 「うん、昼用の軽食を作ろうと思ってな。」


 俺はそう言いつつ、軽快に調理を進めていく。うん、ちゃんと調理技能は発動しているみたいだな。


 「軽食って、まだ、出発したばかりですよ。」


 「それに、いくら揺れないとはいえ、馬車の荷台で火を使うのは危なくありません?」


 「そうだな。では、焼く前の下準備だけさせて貰おう。」


 そう言って、卵を割り、卵の殻で卵黄と卵白を器用に分ける。それから卵白を泡立て器で泡立てる。


 「随分、手間をかけるのですね。」


 「疲れないの?」


 ディートとミサから、延々と泡立て器でメレンゲを作ってる俺にそう声が漏れる。

 卵白が泡立て器で持ち上げると角が立ってきたので、メレンゲは出来上がったので、一度鞄にしまう。

 そして、今度は、卵黄を潰し、そこに砂糖と牛乳がなかったのでヤギの乳を規定量の半分入れ、そこに小麦粉を混ぜる。玉(だま)ができないように手早く撹拌し、軽く混ぜたら、残りのヤギの乳を入れる。これで良しと。そうして、これも鞄にしまっておく。


 「あれで、何が出来るの?砂糖を使っていたから甘い物だよね?」


 「ああ、甘い物だ。スフレパンケーキと言うものだが、昼の休憩の時に仕上げるので楽しみにしておけ。」


 「わかったわ。」


 ミサは、嬉しそうにそう頷いた。


 「ギリーさんは、お菓子作りも出来るのですか?」


 ディートは感心したようにそう言う。

 うーん、作れるのは調理技能で作れる食べ物と俺が自炊してた時の食べ物だけど、○○の素みたいな合わせ調味料がないから、普通の料理もそんなに作れないな。お菓子なんて、調理レシピにある物の他には、ここで揃いそうな材料だと3種類くらい作れるだけだぞ。調理技能の書が手に入ればもう少しレパートリーも増えるのだろうが。


 「いや、作れても2、3種類だけだ。それも材料や道具がないので作れるのは実質これだけだぞ。」


 調理レシピに頼らない物は、ベーキングパウダーが手に入らないと作れない物が多いからね。


 「それでも大したものですよ。」


 そう言うもんなのか。確かに町で暮らしていると薪だってかなり高い値段だし、調理用の魔道具だって金貨が必要になる。そう考えると毎食ちゃんと調理をする人間ってあまりいないのか?




 昼の休憩の時間、馬を休ませるため、ディートとミサが馬を水場へと連れて行った。

 俺はその間に、ドロップ品とかを纏めるために買った木箱を取りだし、そこでメレンゲを残りのの材料を混ぜたボウルに移して、再度、全体が混ざるように軽くかき混ぜる。

 そして調理用の魔道具を取りだし、火をつけると、フライパンを載せ、軽く油を馴染ませる。

 フライパンが、十分熱したら、一度それを濡れ布巾の上に置き冷ましてから、魔道具を弱火にしてフライパンを置き、そこに出来上がったタネを流し込み、広げていく。

 甘い香りが漂って来る。


 「お、なんかうまそうな匂いだな。」


 「ええ、鼻腔がくすぐられます。」


 リアとパルマがその匂いに、そう感想を漏らす。

 うん、十分に火が通て来たな。ヘラでフライパンの縁を軽く持ち上げ、パンケーキがフライパンを揺すって、動くようになってくる。よし、フライパンを大きく手首を使って振る、勢いよくパンケーキが宙に持ち舞い上がり、裏返ってフライパンに戻って来る。

 よしっ、成功っと。

 そして、反対側も十分に火を通し、完成させる。

 それをさらに移すと、四等分して、そこに蜂蜜を垂らす。出来上がり。

 丁度、ミサとディートも戻って来たので、馬をつないだら、4人で食べるように促す。

 皆は、歓声を上げながら、美味しそうに食べている。

 俺は、更にパンケーキを作って行く。

 最初に焼いたのと同じように3枚を4等分して皆に振舞い、最後の一枚を自分で食した。

 うん、何とも言えぬ柔らかさと、そして程よい甘み。牛乳と違って、ヤギだと独特の匂いがあると聞いたが言われたほど気にならない。甘みを引き立てる蜂蜜の香り、うん、うまい。

 先に食べた4人は、俺の食べるのを黙って見ているが、今日はこれでお終いだぞ。

 俺が食べ終わると、4人は口々に料理を褒めてくれた。

 でもこれ、作り方、調理のタイミング等作っていてなんとなくわかることから、やはり技能が発動しているから俺の腕と言うのとも違うよな。ただ、これを食べても本来つくはずの料理ハブが付かない。これじゃ、本当にただ料理を作る技能になってしまう。

 喜ばれたから、いいっちゃいいよ。それに、調理技能もどうやら他の人も持っている人が少ないか、居ないみたいだし、変な効果が付くと更に目立つことになるからな。


 午後は、俺とディートが御者台に上がり、目的の村ではなく、まず、途中にある手前の村に立ち寄ることにした。これは、この話を聞いた狩人に話を聞いてすぐ狩りに来たら、何かあると怪しまれる可能性もあるし、なるべく武芸の書が出ることを他に知られないようにするための処置だ。


 馬車を進めていると、ディートが、済まなそうに話しかけて来た。


 「あの、先程のお菓子、レシピを教えていただき、他の所で使っても良いでしょうか。」


 「どうした?余程気に入ったのか?」


 「はい、とても気に入りましたが、そうではありません。昨日、情報を集める際に、父の店にも顔を出したのですが、父がある貴族に相談を受けたらしく困ってらして、協力したいなと思ったのです。」


 「うん?商会に料理を発注でもされたのか?」


 「少し違うのですが、砂糖を購入して頂いた際に、パーティーを開催する際に変わったお菓子を出したいと相談を受けたそうです。」


 「なるほどな。でも、貴族ならあれくらいの物なら食べているんじゃないか?」


 「いえ、私も何度か招待されていますが、あのようなものは食べたことありません。」


 そうか、まぁ協力するくらいはいいか。取り入るにはここの貴族じゃ、柵が多そうだし、でもそこから新興貴族の情報や魔物の情報が得られれば無駄にはならないしな。


 「わかったいいだろう。」


 「本当ですか。ありがとうございます。謝礼は、戻って父と相談となりますがお願いします。」


 そう言って、ディートは嬉しそうにこちらを見ていた。うん、危ないよ。君運転手だから、ちゃんと前を見ようね。

 まぁ、冒険者に成るための準備金を都合つけて貰ったのだろうし、かなり大きな商会のようだから、本来なら政略結婚とかの話だってあっただろうし、受けた恩は返しておきたいのだろう。


 「謝礼?別に要らないが、という訳にも行かないのだろう。考えておこう。」


 金には困ってないし、調理技能のレシピだから本来、金をとるような物でもないが、貴族相手の商売だし、全く無報酬でと言う訳にも行かないだろうから、そう言っておいた。

 その辺は、上手く情報を貰いたいけど、慎重にいかないとだしな。

 まぁ、ある貴族と濁していたけど、そう言った見栄を張る必要があるという事は、ここの領主か、近しい者だろうしな。


 「助かります。」


 「ところで、それは、急ぎか?急ぎなら、引き返すが。」


 「いえ、戻ってからでも十分に間に合います。3か月後に開催だそうです。貴族の催しは何かと前準備が掛かりますから。」


 「あー。わかった。では、戻ったら協力しよう。」

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