②生きがいだった推しVTuberが失踪後、中の子がうちに押しかけてきた。

じゅうぜん

プロット

◯参考作品

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』

『隣の席の元アイドルは、俺のプロデュースがないと生きていけない』(あらすじのみ)


◯世界観

・現代日本

・VTuberグループの中堅事務所『ぶいふぇあ』が存在している。


◯主要キャラクター

◆主人公

・古崎 作馬(ふるさき さくま)

会社員。二十七歳。

物事への興味が薄いが、VTuber『猫梨にゃお』は例外。

妹が亡くなった事の喪失感を猫梨にゃおの配信で埋めている。


◇容姿

痩せ型。目が死んでる。ワイシャツ姿の日が多い。


◇職業

中堅IT企業所属SE(システムエンジニア)


◇背景

両親が早くに亡くなり、一人で妹である灯理の面倒を見ていた。作馬の中で唯一大事なのは病弱な灯理だけ。灯理はVTuberが好きで、『猫梨にゃお』を推していた。

妹が亡くなった日。ふと猫梨にゃおの配信をつけ、何でもない配信を涙を流しながら見ている自分に気づいた。その日以来、ずっと猫梨にゃおの配信を追っている。


◇特徴

物事への興味が薄い。例外は妹と、妹が亡くなった後は猫梨にゃおのみ。


◇セリフ

「配信中はそっとしておいてくれ」

「いや、猫梨にゃお以外には興味ないよ」



◆メインヒロイン(中の人)

・水瀬涼菜(みなせすずな)

VTuber『猫梨にゃお』の中の人。

配信を辞めた後、主人公の家に押しかけてくる。

自分はつまらない人間なのに、明るく楽しいキャラを演じて(=灯理の性格を真似て)人気が出ているという現状に違和感を覚えている。

家族という関係に憧れがある。


◇容姿

快活そう。顔立ちは整っている。緩いパーカーやスウェット姿が多い。


◇職業

高校三年生。VTuber『猫梨にゃお』。


◇性格

あまり物怖じしない性格。明るくて少し生意気な後輩という感じ。

元々は暗い。


◇背景

片親。放任主義の母親の元に生まれ、親との関わりが薄いまま過ごした。


中学の時、とある先輩(=古崎灯理)と仲良くなる。病気であっても明るい性格に憧れを覚えた。先輩はVTuberを紹介されて興味を持つ。そして高校の時、VTuberの募集を見つけて合格した。


VTuberになってからある程度は満たされていた。同時期にデビューした『狛犬こまり』とも仲良くなった。だが、配信は灯理の性格を真似ているだけであることに辛さを感じている。しばらくしているうちに、キャラがだんだんうまく表現できなくなってきた。それが配信中に限界を迎え、配信を閉じて失踪する。


失踪中は仲の良かった古崎灯理の兄、作馬の元へ訪れる。

作馬は猫梨にゃおの配信がないことで苦しんでいた。これほどのファンなら自分のことも大事にしてくれるかもしれないと思い、期待を込めて家に押しかける。


◇特徴

寂しがり。重ため。


◇セリフ

「『こんにゃお~! ぶいふぇあ所属、猫梨にゃおだよ~!』……ほら、本物でしょ?」

「じゃーん、新衣装です」(主人公の服を着ている)

「……私以外の配信者、見ないで?」



◆メインヒロイン(Vの姿)

・猫梨にゃお(ねこなしにゃお)

二年前、グループ『ぶいふぇあ』からデビューしたVTuber。

癒される明るいキャラ。登録者は二十万を最近超えた。


◇容姿

猫耳。若干露出度がある。


◇特徴(公式ページの紹介)

元々大きなお屋敷で暮らしている猫だったが、ご主人が見ていた配信に憧れて自分も配信したいと願った結果、猫又パワーで人間の体を得た。

明るい性格の癒し枠。


◇セリフ

「こんにゃお〜! ぶいふぇあ所属、猫梨にゃおだよ〜!」



◆主人公の妹

・古崎灯理(ふるさきあかり)

作馬の妹。十八歳の時に病死。明るい性格だった。

まだ元気だった高校時代に水瀬涼奈と仲良くなり、VTuberという存在を教える。



◆他キャラ①

・来巻綾乃(くるまきあやの)

主人公の職場の同僚。

主人公に並々ならぬ感情を抱いているが、主人公はVTuberにしか興味がないのでもどかしい思いをしている。


◇容姿

清楚系。優しげな雰囲気。黒髪ロング。


◇特徴

いい子。非の打ち所がない美少女。


◇セリフ

「またその子の配信を見てるの?」

「作馬くん、あの子の配信が無いのに……どうして元気なの?」



◆他キャラ②

・砂籐明日香(さとうあすか)

『ぶいふぇあ!』所属VTuber『狛犬(こまいぬ)こまり』の中の人。大学生。

年下の『猫梨にゃお』を気にかけていて、姉のような立ち位置。


◇容姿

茶髪染め。緩い恰好をしている。


◇特徴

自分のことはだいたい適当。がさつ。部屋が汚い。


◇セリフ

「にゃおちゃんには幸せになってほしいからなー」

「それ普通に犯罪っぽいけど。……まあ二人がいいならいいや」




◯物語構成

文字数:各話10000〜14000前後(八話は短め)、幕間/エピローグが1000〜4000前後


■第一話:作馬の元に推しの中の子がやってくるまで

■第二話:同居生活(家でゲームやってるJKを眺めて感動する作馬)

■幕間:涼菜の過去、及び主人公に期待を持ち始める様子。

■第三話:同居生活②(おでかけ。フラグ立てなど)

■第四話:同居生活③(狛犬こまりと出会う。第三者の目から現状を認識)

■幕間:涼菜の視点。作馬と離れたくない。

■第五話:同居生活④(自立のため、擬似恋人になる)

■第六話:いじめと解決(作馬の中で涼菜への思いが解決する)

■第七話:配信活動(恋愛的な深まりと配信再開)

■第八話:同居生活⑤(依存と裏話)

■エピローグ



■第一話:作馬の元に推しの中の子がやってくるまで


 主人公、古崎作馬ふるさきさくまは社会人。日々与えられた仕事をこなし、特に問題もなく過ごしている。


 作馬は物事への興味が薄いが、例外としてVTuber『猫梨にゃお』の配信だけは常に追っていた。暇さえあれば猫梨にゃおの配信を流して日々を過ごしている。彼女の配信を見ることが生きがいだった。


 そんなある日、駅のホームで見知らぬ少女に話しかけられる。高校生くらいの女の子だ。猫梨にゃおの配信を聞いているのだと伝えたら、なぜか動揺していた。


 その後、猫梨にゃおの配信が無くなった時に助けてくれるか、という旨の質問をされる。「できることならなんでもする」と答えて、その場では別れた。


 作馬は仕事中もイヤホンをつけている。

 職場では同僚の来巻綾乃くるまきあやのに呆れられたりしている。彼女はよく作馬に声をかけてくる。


 その日の帰宅時、電車で配信を見ようとすると、猫梨にゃおが突如、配信を閉じたことを知る。ゲーム配信中に「つまんないね」と言って配信枠を閉じたらしい。その日以降、猫梨にゃおは説明もなく配信を辞めてしまった。


 猫梨にゃおの配信が無くなり、作馬は落ち込んだ。ずっと追いかけていた配信者の配信が無くなってしまったのは痛い。生きがいを失い、仕事も精細を欠く。同僚の綾乃も作馬を心配している。


 そんな中、作馬は通勤時の電車で、前に会った見知らぬ少女と仲良くなっていた。作馬は面倒さと、気が紛れて助かる気楽さを覚えている。流れでLINEを交換し、彼女が水瀬涼奈という名前であることも知った。


 後日。残業のあった日、夜の電車で「スマホを落としてますよ」と声をかけられた。いつもの少女、水瀬だ。夜に会うのは珍しい。その後水瀬からの幾つかの質問に答える。「部屋ってどのくらいの大きさなんですか?」などそれぞれ答えたが、「家に泊めてくれませんか?」と言われた時は流石に断った。

 すると水瀬は「この手は使いたくなかったんですが」と言ってスマホをいじる。


 作馬のスマホに一通のLINEが届く。それは水瀬からのかなりきわどい自撮り画像の送信だった。さらに、自分から水瀬へ身に覚えのないメッセージを送付していたことに気づく。


『今日も良かったよ(顔文字)』

『今度はえっちな画像も見せてほしいな』

その後、ヒロインの自撮り画像


 まるでパパ活でもしているようなLINEになっていた。

 水瀬は先ほどのLINEを見せ、泊めてほしいと強請ってくる。まだ状況に追いつけない作馬に、さらに彼女は言う。「私が、猫梨にゃおです」

 驚愕と混乱の中、作馬は頷きを返すのだった。



■第二話:同居生活(家でゲームやってるJKを眺めて感動する作馬)


 少女は水瀬涼菜と名乗った。いくつかの会話を交わして、彼女が猫梨にゃおの中の人であることを確信する。数日のストーキングを経て、計画的にうちにあがりこんだようだ。「帰れ」と言うが、家には帰れないと返される。どうも家庭環境が良くないらしい。そうなると、多少なり同情らしい感覚にもなる。


 面倒ごとは嫌いだが、疲れていて頭もあまり回らない。とりあえず、今日は泊まっていいと伝えた。喜ぶ涼菜。絶対に手は出さないことも約束する。


 作馬は彼女が猫梨にゃおの中の人だとは理解したが、同一視はしていない。画面の向こうにいた配信者かのじょと、目の前の女の子は違う。


 それからなし崩し的に同居生活が始まる。


 涼菜は朝、夜と作馬のためにご飯を作ってくれる。結構上手だった。妹には敵わないが。

 涼菜は家にいる間、ゲームや読書をするようになった。作馬の家には、涼菜が昔配信で面白いと言った本や漫画も揃えられている。妹と趣味が似ているなと思う。

 作馬がぼんやり眺めていると、涼菜は独り言を小さく喋りながらゲームをプレイしていた。その様子を見て作馬は猫梨にゃおを幻視した。涼菜は配信など考えずゲームをやっているだけだが、作馬には疑似的な配信にも見えた。


 ここで涼菜が自分の不安を明かす。「普段の私とは違いますよね。つまらないでしょ」などと言う。涼菜は、『自分はつまらない人間なのに、明るいキャラを演じて人気を出している』という現状に違和感を覚えていたのだった。

 そんな涼菜に「深夜テンションはいつもそんな感じだろ」などと作馬は言う。「猫梨にゃおがそう喋ってても違和感はない」


 涼菜はその言葉にいくらか気づきがあったようだった。魂である『水瀬涼菜』と『猫梨にゃお』は別人だと考えていたが、配信中も意図せず素の自分が現れていたことに気づいたらしい。作馬も「別人を演じ切るのは難しいことだ」などと伝える。


 涼菜の抱えていた不安がある程度回復する。



■幕間:涼菜の過去、及び主人公に期待を持ち始める様子。


 ヒロイン、水瀬涼菜みなせすずなの視点から。


 涼菜の過去と押しかけた時の背景について明かす。


 涼菜が配信に辛さを感じている時、電車の中で偶然見覚えのある男性を見つけた。


 昔、仲良くなった先輩の、お兄さんだ。

 何度か彼を探して、いつもイヤホンをつけて駅に立っている事を把握した。

 その日涼菜はどうしても配信ができなくなり、配信を辞める。その後もSNSや仕事関係に向き合えず、対外的には失踪した形になる。


 配信を辞めた後、作馬の元を訪れる。彼は疲弊していた。涼菜はここまで自分に入れ込んでくれていた人を知らなかった。しかもその人は憧れの先輩のお兄さんだ。先輩(=古崎灯理)は、お兄さんのことをとてもいい人だと言っていたし、信頼もできる。


 そういう思考の後、家に押しかけることになった。



■第三話:同居生活②(おでかけ。フラグ立てなど)


 涼菜から、普段の私を見てほしいとお願いされる。


 二人でカラオケに行く。ASMR(物理)もする。ゲームもする。それらはそれぞれ配信の時の様子よりは落ち着いているが、猫梨にゃおだと言われたら頷ける雰囲気はあった。


 作馬は涼菜と一緒にいて、幸福感を感じ始める自分に気づく。彼女が元気であると、自分も救われたような気になる。それは猫梨にゃおに対して覚えていた感情に近い。


 職場での様子も少し変化がある。メンタルは改善され、仕事もうまく行き始める。綾乃は『猫梨にゃお』の配信が無いままなのに最近元気になってきた作馬の様子を訝しむ。作馬は「切り替えたんだよ」などと誤魔化す。


 またある日、作馬は駅の近くで女の子が酔っ払いに絡まれているのを見つける。普段なら見過ごすが、気分が悪くもなるので、とりあえず助けた。大学生の女の子だ。


 彼女は知り合いの女の子を探しているらしい。信頼できる人のところにいるという連絡はあったが、でも不安だと。作馬は「見つかるといいね」と伝える。相手がVTuber『狛犬こまり』の中の人で、涼菜を探しているということには気づかずにいる。


 家に帰ると涼菜が「他の女の匂いがする……」などと眉をひそめている。事情を説明して誤解を説きつつも、こういう前までは面倒だと思っていたやりとりに楽しさを感じている自分に気がつく。



■第四話:同居生活③(狛犬こまりと出会う。第三者の目から現状を認識)


 二人の日々が過ぎていく。


 慣れるにつれて、涼菜はおずおずと、作馬に甘えるようになる。

 前よりも距離感が近い。作馬は悩むが、ある程度甘やかすことを受け容れる。よくないと思いつつ、彼女といる時間に気楽さを感じてもいる。


 後日、涼菜と一緒に出かけることになった。理由は「パジャマや、その他生活に必要な諸々が足りない」等である。

 そこで偶然、作馬は先日助けた女子大生に出会った。涼菜が目を見張っていた。女子大生も目を見合わせて驚愕している。そこでようやく作馬は女子大生が『狛犬こまり』の中の人、砂籐明日香さとうあすかであることを知る。


 近くのカフェで現状の話をする。作馬の家に涼菜が住み着いていること。涼菜はこの状況に不満はまったくないこと。

 明日香は自分の家に住むことを提案した。だが、涼菜はあまりいい顔をしない。涼菜にとって、明日香は事務所の同期である。今は”仕事”から離れていたい。

 明日香も最終的に本人が問題ないならと頷いた。明日香は涼菜の家庭環境を知っている。それと比べたら幸福なのだろうと理解している。


 別れ際、明日香は作馬にこの状況はよくないことだと告げる。作馬にとっても現状を改めて再認識させる言葉だった。たしかに、今の状況はよくない。

 明日香は現状を保留にする代わりに、連絡先だけは交換してほしいと作馬に言う。連絡先を交換する。何かあったら連絡してとだけ言って、明日香は去っていった。



■幕間:涼菜の視点。まだ足りない。


 涼菜の視点から。


 同居生活を続けて、作馬の目から見た自分に猫梨にゃおが重なっていることに気づく。初めは硬かった作馬の態度がだんだん柔らかくなっていることも感じていた。

 甘えると答えてくれる。

 これが家族なのかもしれないと感じる。


 別れ際、明日香の言葉で、作馬が現状に違和感を覚えてしまったことを悟る。

 でも作馬から離れたくはなかった。

 今は曖昧な関係をもっとはっきりした形にしたいと思う。



■第五話:同居生活④(自立のため擬似恋人になる)


 夜、作馬は涼菜に問いかける。「ここにいつまでいるつもりだ?」

 明日香の言葉で現状の不健全さを認識した。今の関係をずっと続けることはできない。どこかで離れる必要がある。


 涼菜は意図を理解して頷く。「わかった。でも、少し考えさせて」


 考える時間には一週間の期限を設けた。その期限が経ったら出ていく算段をつけるようにと決める。


 作馬の中には葛藤がある。離れなければいけないが、離れがたい気持ちもある。

 ただ今は理性が勝っている。離れるべき、という結論は変わっていない。


 一週間が経つ前に、涼菜が不安を口にした。学校では居場所がない。家にも居場所がない。配信も今はまだキャラクターとしての自分が出せる気がしない。今も作馬が傍にいないと不安になる。作馬と離れることを想像すると不安になる。なんでもないのに不安になる。


 だから恋人になってくれませんか、と涼菜は言った。


 作馬は呆気に取られ、そして悩んだ。──恋人?


 悩む作馬に軽い調子で涼菜はいくつかの言い分を口にする。「嘘でもいい」「頷いてくれたら、学校にも行けると思う」

 作馬の中に言い訳が用意される。今の関係は健全じゃない。いつかは解消せざるを得ない時が来るはず。そのためにはまず、涼菜の自立を促す必要がある。こんな関係は長く続かないだろう。健全な生活に戻れるまでの期間だけ。


 やがて作馬は嘘の恋人になることに頷く。涼菜は微笑んでお礼を言う。


 これで涼菜は元の生活に戻れるだろう。

 それまで形だけの恋人でいよう。


 戸惑いはあった。ただ、恋人関係を嫌ではないと感じる自分もいた。



■第六話:いじめと解決(作馬の中で涼菜への思いが解決する)


 擬似的な恋人になった二人。


 一週間の期限で家を出る約束をしていたので、涼菜は作馬の家にはいない。今は明日香の家で寝泊まりをしている。

 明日香は狛犬こまりとして配信はしているが、涼菜(=猫梨にゃお)が家にいることはリスナーには伝えられていない。


 作馬は涼菜とデートという名目で、一週間に何度か一緒に遊んでいる。カフェで長話をしたり、ショッピングをしたりする。まるで付き合いたてのカップルがするようなことを今改めて二人でやったりしている。


 ただ、作馬の中では常に葛藤があった。涼菜との関係で救われるような感覚になる。だが学生とこうして恋人関係になっているのは間違いなく不健全だ。

 毎日、涼菜からはLINEのメッセージが飛んでくる。話しかけてくれる喜びと、話しかけるなという理性が対立して、いつも頭を抱えながら返信している。


 作馬は今まで通り仕事に向かう。仕事は唯一涼菜のことを忘れられる時間だった。

 綾乃はやけに仕事に熱意のある主人公を見て訝し気に思う。また、仕事の終わり際、飲みに行こうと言われて承諾したら、上司に珍しいなと笑われる。今までの作馬だったら飲み会は必ず断っていた。


 そこで作馬は自分が職場にいることで気楽さを感じていることに気づく。涼菜といるより、職場にいることで楽になっている。


 その日、佐藤明日香から連絡があった。『学校での話、聞いてる?』

 後日、近くのカフェで落ち合って話をする。明日香の口から、涼菜の学校での様子について聞く。


 涼菜は明日香の家から学校へとまた通い始めた。ただ、いつも表情は暗い。学校が楽しそうだという様子も見えない。どうも学校の女子がすずなを目の敵にしており、陰口等が始まっているらしい。だが涼菜は作馬と明日香の前ではそのことを隠している。


 明日香は心配してそのことを尋ねると、涼菜は「作馬さんがいるから平気だ」と答えた。


 そんな話を作馬は聞く。不安が持ち上がり、今までの行動を後悔した。涼菜は自分を支えにしているのに、自分は彼女から離れようとしている。


 その後、涼菜と連絡して落ち合う。

 涼菜は水浸しだった。水をかけられたようだ。

 学校でのことを話してくれる。涼菜が不安からか泣き出してしまう。作馬はその不安に気づけなかったことを謝る。すずなともっと向き合うことを話す。

 すずなが抱き着いて感謝を告げる。


 作馬は自分が涼菜を大切に思っていることに気づいた。



■第七話:配信活動(恋愛的な深まりと配信再開)


 いじめの件が過ぎ、さらに仲が深まった二人。

 涼菜はまだ明日香の家に住んでいるが、たまに作馬の家にも遊びに来ていた。


 嘘の恋人関係は継続している。作馬は不健全だと認識はしているが、解消できずにいる。それよりも、涼菜に対して緊張している自分に気づいていた。涼菜の方も以前の気安さとは違う。なんとなく意識してしまっている。


 そんな中、涼菜に明日香から連絡がある。今度の記念配信に出ませんか? というものだった。猫梨にゃおも参加しないか、というものだった。


 涼菜はそれに参加するか悩んでいる。出るにあたって、いくつかの不安を口にする。SNSでの反応や、ブランクがあって上手くできるかわからない等。


 ただその不安を作馬が否定する。涼菜の不安は『自分はつまらない人間なのに、明るいキャラを演じて人気を出している』という自信のなさから生まれるものだった。涼菜は素のままでもちゃんと可愛い。ちゃんと猫梨にゃおとして人気になれるはずだ。配信も、裏の顔も、すべて見ているので断言できる。作馬もサポートすることを伝える。


 涼菜は配信に出ることを決めた。


 配信まで涼菜は準備をする。明日香と諸々の打ち合わせなんかをしているようだ。久々の復帰にもなる。謝罪なども考える必要がある。


 メッセージや通話でもやりとりをする。他愛ない会話をしながら、涼菜の中に未だある不安が垣間見える。


 配信の当日。


 普段の倍以上の人が待合室で待機している。

 配信は狛犬こまりと猫梨にゃお二人が登場して始まった。コメントでは『猫梨ぃ!』『こんにゃお〜』『俺にまたこんにゃおと言わせてくれてありがとう』等々、好意的なもので加速する。それから猫梨にゃおが謝罪した。メンタルの問題でみんなに迷惑をかけた。"友達"の家で過ごして回復したこと等を伝える。


 その後狛犬こまりが主導する形で配信が始まる。

 配信は3Dでのライブが行われた。煌びやかな演出の中、歌って踊る。


 問題なく配信は終わった。SNSでは猫梨にゃおについて、前よりぎこちなさが薄れて、自然体になっていて可愛い、等の意見が流れている。


 作馬もしっかり感動していた。以前よりも猫梨にゃおは何倍も可愛く思えた。

 その後すぐに涼菜からメッセージが届く。『家に行ってもいいですか?』という連絡に、承諾のメッセージを送る。かつて電車の中で迫られた時(=第一話部分)は断っていたのに、今はそういう気にならない。


 涼菜が家に来る。ひとしきり配信を労ったあと、涼菜が何か言いたげにしている。尋ねると、ご褒美が欲しいと言っている。甘めの緊張した空気になる。


 今度は嘘ではなく恋人になってほしいと言われて、作馬は頷いた。



■第八話:同居生活⑤(依存と裏話)


 恋人としての二人。


 涼菜は作馬の家の部屋を借りて配信をするようになった。作馬は涼菜のことを溺愛している。


 作馬は職場でぼんやりすることが増えた。帰れば涼菜がいる。早く家に戻りたい。


 綾乃は作馬の様子を変に思い、理由を聞きたがっていた。でも現状を話せば面倒事になるのは分かり切っている。作馬は渋るが、綾乃は半ば強引に話を聞こうとする。他言しないという理由を付けて、適当な店で話をすることにした。


 作馬は綾乃に細かい点をぼかしつつ、涼菜のことを明かす。

 綾乃は話を聞いて愕然としていたが、何かに思い当たったようだった。


 それは綾乃がある時に見た女子高生のことだ。

 その子は奇妙なことをしていた。なぜか自分からバケツで水を被ってびしょ濡れになっていた。心配して声をかけると笑顔で誤魔化された。


 作馬にはすぐ涼菜のことだとわかった。いつか水浸しでいたことがあったと思い出す(=第六話部分)。涼菜は、作馬の気を引くためにあえて過激ないじめを演出したのだ。


 綾乃は絶対おかしい、と作馬に詰め寄る。そんなの普通じゃない。別れた方がいい。

 作馬の頭にも疑問がよぎる。涼菜の言葉は、すべて信じられるのだろうか?


 そこで電話がかかってくる。涼菜からだ。遅いから心配です、と言っている。

 『心配なので、迎えにきちゃいました』

 窓の外に涼菜がいた。場所は伝えていないはずだった。綾乃が目を見張っている。

 店に入って、「初めまして」と可憐な笑顔で涼菜は言う。



 その後、気づくと作馬は涼菜と共に電車に揺られていた。綾乃には、否定の言葉を伝えたような記憶があった。たぶんその女の子は見間違いだ、といった類の発言をしたと思う。


 涼菜はいつもと変わらない様子だ。何事もなかったかのように、今日は何して過ごしましょうか、などと楽しそうに言っている。


 疑念はある。でも彼女がいて自分は幸せだ。幸せを脅かすような情報は、それがなんであれ必要ない。そう判断して疑念を消し去る。


 電車に揺られ、微睡みの中で目を閉じる。

 涼菜が隣で体を寄せている。幸せを感じながら、作馬は眠りについた。



■エピローグ


 涼奈の視点から。


 作馬が隣にいて幸福を感じる。憧れていた、家族のような関係になれた。

 幸せに浸る涼奈の元に、一つのメッセージが届く。


 大手事務所のVTuberからのコラボのお知らせ。

 そして追記に加えられた言葉。『作馬さんとのこと、聞かせてください』


『話さないなら、私のアカウントであなた達の事を拡散します』


 新たな困難が幕を開ける。

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