『伝説のチキンと遭難勇者』~汝、聖なる生贄チキンよ!方向音痴の勇者を魔王に導け!?美味しそうなチキンにされた雑魚村人のオレは、美少女勇者とモンスターどもから襲われつつも世界を救う!?~

よしふみ

『伝説のチキンと遭難勇者』~汝、聖なる生贄チキンよ!方向音痴の勇者を魔王に導け!?美味しそうなチキンにされた雑魚村人のオレは、美少女勇者とモンスターどもから襲われつつも世界を救う!?~


 ヒトには天から与えられた使命ってものがあるらしい。


 勇者アリサ、オレの幼馴染。昔から腕っぷしが異常に強く、ついには王さまから『勇者』認定されたんだ。伝説の聖剣なんとかをもらったらしい。


「じゃあ、魔王退治に行ってくるね!!」


「おう。いってらっしゃい」


 凡人であるオレは、もちろん魔王軍討伐の旅になんてついて行かない。命が欲しいからね。薄情?違うって。アリサは死ぬほど強いもん。モンスターの群れだろうが魔王だろうが、そのうち倒す。


 周りのヤツはみんなそう言っている。


 世界は、どうせ、アリサに救われるんだよ。


 凡人のオレみたいな村人Aに果たすべき使命なんてあるはずもないからね!


 ……と、思っていたんだが。


「……あれ。あいつ、方向音痴だったよな……?」


 ゴーレムをワンパンするようなチート女子だが、地図も読めなければ右と左を間違う程度に脳筋だ。しかも……パワーに比例するように燃費が悪い。つまり、大食いだ。


「戦闘面では、全くもって問題はないというのに……っ。旅とか、そもそも向いてない!料理も、あいつは作れんしな……」


『その通りなんですううううううう!!』


「うええ!?なんだ、そ、空から強い光と共に……女の声が……っ!?」


『驚かないで、下さい。女神なんです』


「な、なるほど」


 幼馴染が勇者認定されてから、オレも非常識なことに免疫がついていた。


 だから、女神さまのお告げがあっても驚かない。


 もしかしたら、オレも、少しぐらいは伝説的なことに関わりたいとか、期待していたのかもしれない。


 いいじゃないか?


 オレだって、ちょっとは冒険したいとか思っちまうんだ。弱いけど。


『彼女がこの世界に転生するときに、たくさんのスキルを与えたんですけどっ。つい、うっかりしていました。『方向音痴』と『腹ペコ』の属性まで、与えてしまいっ』


「それは……すごく、旅に向きませんね」


『ええ。その通りなんです。このままでは、世界を救う旅の前に、そもそも単独で隣の村にたどり着けるかどうかも怪しい……っ。腕は、世界最強なんですけどっ』


 どうにも状況はややこしいようだ。


 オレは、アリサのために一肌脱ぐことにした。


「女神さま、では、オレがアリサのために。だって、あいつ美少女だから―――じゃなくて、オレも一市民として世界を救いたいんです!」


『ああ、そう言ってくれることを期待していましたよ!是非とも協力してくださいっ!』


「わかりました。では、オレにもカッコ良くモンスターを倒せる能力を!そういうの、いただけたら……なんか、カッコいいし、アリサにも惚れられそうだし、最高ですよね!」


『私の聖なるパワーを、凡人が受け止めたら、ヘンテコな草になってしまいますが……』


「え。それは、嫌ですよ!?」


『弱者が努力もなしに強者になろうという発想が、おこがましく』


「う。そうかもですが、何か、その、方法は?『方向音痴』と『腹ペコ』をオレが解決して、アリサがオレのカノジョになってくれつつ世界も救える方法は?」


『…………』


「…………」


『……zzz』


「そういうボケ、いりませんから」


『はっ。実の父である主神さまから、お告げがありました!アイデアのプレゼントが夢を通じて届きましたよお!!』


「お、おお。さすがは、神々。何だか親子のコミュニケーションが独特ですね」


『では、弱者であるあなたに、使命とパワーを授けます。えーい!!』


 魔法の光が周囲に満ちて……。


 気づけば、オレは……っ!?


「なにこれ!?周りが大きく……っ!?」


『あなたが小さくなったんですよ』


「オレが、小さく……?しかも、えーと、なんか、香ばしい……?」


『あなたは『おいしいチキン』に変身したのです』


「……ちょっと、意味が分からないのですが」


『つまり!神々の力で、『モンスター』も『勇者アリサ』も引き寄せる、『美味し過ぎる料理』になったんですよ!』


「鶏肉に、なってるの!!?え!?嘘、ほんとだああああ!!?」


『神々の力と、ゴブリンにも劣る生粋の弱者であるあなたが、『勇者アリサ』を導くのです!あの子には『いやしい嗅覚』と『傲慢な食欲』という才能を、私は与えてしまっていますからね!!』


「あなたの、ミスですよね、それ……」


『お、女の子の失敗を指摘しないでください、弱者さん!とにかく、あなたは『勇者』も『モンスター』もひきつけます!』


「美味しそうな香り放ってますからね。アリサなら、気づくでしょうし。モンスターも来るでしょうけど……どうしろって言うんです?」


『魔法で脚を生やしてあげますからね!あなたは、動く『エサ』として、アリサを誘導するんですよ!!』


「な、なるほど。それで、『方向音痴』は解決されるんですね、『腹ペコ属性』のおかげで」


『こうなる運命だったのですね。割れ鍋に綴じ蓋ですう!』


「……でも、モンスターも引き寄せるんですよね?」


『……はい?』


「いや。オレが、アリサを『美味しそうな香り』で呼び寄せて、となりの村まで誘導するのは良いことですけど。道中、モンスターも来ちゃいますよね」


『……ええ』


「危なく、ないですか?」


『た、たしかにいいいいいいいいいいいい!!?』


『ッッッ!!?』


「あ、なんか、もう一人、いた!!主神さまが、そこにっ!?」


『父娘そろって、凡ミスこいちゃいましたああああ!!!?弱者さんの命、危険ですうっ!!?』


「だ、大丈夫ですよ。とりあえず、村人の姿に戻してください。ここらのモンスターはギリギリ、オレでも秒で殺されはしない程度には弱いですから。オレ、アリサをとなりの村まではエスコートしますよ」


『無理です』


「なんで!?」


『神々の力が、そう簡単に与えたり引き取ったりできません!できたら、『方向音痴』をアリサから回収してますよう!!』


「た、たしかに……って、え!?ちょっと、待って!?オレ、ずっと、鶏肉のままなの!?」


『使命を達成したとき、解放されます』


「もう、それ、呪いじゃん!?」


『違います、聖なる使命です!……父もそう言っていますから』


「いやいや……っ」


『か、神々に弱者が逆らうなんて、身の程知らずですよう!?と、とにかく!!世界のためにも、あなたのためにも!!『モンスター』と『アリサ』から『追いかけられながら目的地まで誘導する』んですうう!!!』


「……や、やるしか、ないのか。このまま鶏肉でいるわけにも、いかんしな」


 こうして。


 アリサのサポート役の『生贄』として、オレは選ばれてしまったのだ。


 アリサからもモンスターからも追いかけられる。捕まえれば、ゲームオーバー。食われて死ぬだけであった。オレは、村人の姿よりもさらに弱い、『動く食事』として、最強の女勇者をにおいでとなり村まで誘導するため、旅に出た……。


 ヘンテコなハナシだが、真実なんだ。




『あと、千里眼のスキルを与えてあげますねー!』


「おお。すごい。遠くまで見渡せます。アリサも、あと……モンスターもいますね。でも、モンスターはアリサから逃げていますが……?」


『殺されたくないからでしょう。レベル1ですが、アリサの力はとんでもないですからね!』


「そうか。強い強いとは思っていたが、モンスターからも逃げられるとは……って。じゃあ、ますます、オレ、村人として同行しても安全だったんじゃ!?」


『……き、気づかないことに気づき過ぎると、神々の罰が当たりますからね!!』


「お、脅すなんてずるい。でも……あれ、アリサのやつ。ふらふらしてる!?」


『お腹が減っているんですね。あまり、お腹を減らせ過ぎると、当然、モンスターと遭遇すると負けちゃいます』


「じゃあ、オレは、アリサに捕まらないように逃げながらも、アリサを素早く誘導して目的地に運ぶしかないんだな。モンスターからも逃げつつ?……うわ、大変」


『試練ですね。世界の平和のために、ふぁいとー!!』


 やるしかない。


 女神さまにイラっとしたけど、この『呪い』を解くためにも、世界のためにも、アリサのためにも……がんばるしかない。




 見た目とは裏腹にスリリングな戦いが始まった。


「……くんくん。お。なんか、良いにおいだ……っ!!」


『ぐふふふふ!!うまそうな、においだー!!』


「ひえええええ!!?アリサと、モンスターがオレを追いかけてくる!!逃げなくちゃ、逃げなくちゃ!!」


 でも、あいつらどっちもくそ速いっ。


「に、逃げ切れん。食べられちゃううううう……って!?」


「邪魔するなー!!モンスターめえええ!!」


『がふううううううううううう!!?』


「お、おお。アリサがモンスターと戦っている。強いな、あっという間にモンスターを倒していくぞ。さすがは、アリサ、めちゃくちゃ強い……っ!!」


 そのとき。


 オレは閃いた。


「そ、そうか!!アリサとモンスターを戦わせているうちに、オレが逃げるという手もあるんだな!!!」


『かしこい!!それで行きましょう!!弱者なりの生きる知恵ですね!!』


「おお。なんか、腹立つ言い回しですけど、そうですね!!……って、やべえ。アリサめ、モンスターを全滅させやがった……っ」


「どこ行ったー、美味しい料理!!何もしないから、出てこーい!!」


『出て行っちゃ、ダメですよ。食われて死にます』


「あ、ああ。すぐに、においを嗅ぎつけられるだろう。逃げよう!!」


 こうして。


 どうにか、偶発的に見つけたアイデアで身を守れたし、アリサをとなりの村まで誘導することがやれた。




「んー。美味しいにおいの鶏肉、逃がしちゃったなー。まあ、いいかー。王さまからもらったお金もあるし、宿屋に泊まろうー!ごはんも、そこで食べるんだー。鶏肉、鶏肉!」


『やりすごせましたね!いい機転ですよ、弱者さん!!次も、こういう風にして、アリサをとなり街まで誘導しましょう!!』


「ま、まだ、あるんですね」


『そうですとも。魔王の城にたどり着くまで、あなたの使命は全うされません』


「う、うう。モンスターは強くなるんですよねっ。次のステージに進むほどにっ」


『はい。でも、モンスターとアリサを戦わせるアイデアを使えば、どうにかなります。弱者なりの生きる知恵を絞り出しましょう!』


「過酷だ……っ」


『でも、良いこともありますよー。ほら!』


 ♪♪♪


「やったー、私のレベルがアップしたー!!『ファイヤーボール』を覚えたぞー!!」


『モンスターを倒したことで、経験値を得たアリサがレベルアップしました!』


「そうか、強くなったんだな……良いことだよね」


「逃げる鶏肉にも、届きそうだー!!」


「……って、それ、狩られるオレがピンチっぽい!?」


『そういう面もありますが、弱者さん、聞いてください』


「な、なにをですか?オレ、これからはアリサに『魔法でも攻撃されちゃう』じゃないですかあ……っ。やばいですよ、殺されますうっ。ああ、『アリサを戦わせ過ぎて強くする』と、『逆にオレもピンチ』になるんですねっ」


『でも、『アリサとモンスターを戦わせる必要もあります』からね!』


「ど、どうして!?あなたは、オレを殺させたいんですか!!?」


『そ、そうじゃなくてですね。来たるべき、魔王との最終決戦のためにです!!』


「……え?」


『アリサを『レベルアップさせないといけない』じゃないですか?レベルが低いと、魔王どころか、次のボス戦でも死んじゃうかもしれませんよう』


「そ、そうか。でも……モンスターたちは、アレサから、逃げてましたよね?」


『魔王め、狡猾ですね!レベルアップされたら負けちゃうから、レベルアップさせないようにしているんですよ!!卑劣です!!』


「もしかして……」


『なんでしょう?』


「アリサに『モンスター除け』とかの力を与えていたりしませんよね?」


『はうわああああああああああああああああああああああッッッ!!?』


「あ、与えていたのかっ。くそう、なんて、ことを……っ」


『良かれと思ってのことですうっ!!』


「まあ、それは、わかりますけど。フツー、モンスターと遭遇しない方が安全でいいですし……」


『弱者さんの使命が、また一つ、明確になりましたね!!モンスターとも適度に戦わせてあげてください、アリサのことを!!』


「で、でも。あまり強くし過ぎちゃうと……っ」


『え、ええ。弱者さんが追いつかれるかもしれませんね!!バランスを、取りながらがんばるしかありませんよ!!』


「う、うむ。変な状況になっちまったけど……やるしか、ないよねっ」




 世界を救うために、アリサを育成しつつも、アリサを成長させなさ過ぎないようにしつつ、さらにモンスターからも身を守らなければならないっ。


 そんなわけのわからないルールに縛られた日々が、続いた。




「ぐふう。こ、このオレを、倒すとは……っ。だが、オレなど、魔王軍の中では最弱のエリアボスだっ。まだまだ、これから先、貴様を恐怖に叩き込む強敵が待ち構えている。恐れるがいい、勇者よ」


「ふう。ボスを倒した!さーて、鶏肉、鶏肉!!どーこだー!?」


 ……そう簡単に見つかることもあるまい。


 なぜならば、オレも『強化されているからだ』。


 『野生のハーブ』のなかには、肉のにおいを抑えてくれるものもある。


 そういうハーブを使うことで、アリサから隠れることも可能だ。


 まあ、長くはもたないけどね。


 しかも、数は有限。


 あと……『隠れると誘導もできなくなる』からいけない。迷子にさせないのがオレの役目だからね。ああ、本当に難しいところがある。


 ダンジョンって、一々複雑な作りをしていて、迷子になりやすいから困るんだ。


 罠もたくさんあるから、それを回避しないといけない。いや、『させないといけない』。千里眼パワーでオレはどうにか罠が見えるけど、『アリサは上手く誘導してあげないと罠にかかってダメージを負う』。


 ダメージを負うと、回復のためにアリサはじっとしている。そうなれば、腹ペコが進み、戦闘能力も落ちて行くのだ……っ。




『今回の戦い、どうにか勝てましたが。ギリギリでしたね!もっと、アリサとモンスターを戦わせる必要がありますよ!しかも、罠も回避させながら!時間をかければ、弱くなって敵ボスに負けやすくなります!!』


「そうは言ってもですね、こっちも命がけでして。何か、具体的なアイデアとかあれば、教えてくださいよ、女神さま?」


『そ、そうですね。ダンジョンも敵の強さも難しさを増していますから。何か、新しいアイデアがなければ……アリサさん、お料理覚えてくれたら、自分でも食事作ってくれるかもしれませんね』


「アリサに、料理を覚えさせる、か。良さそうなアイデアですね。アリサの『冒険スキル』を強化することで、攻略が順調になりそうです。でも、アリサ、料理下手過ぎて……」


『では、『道中で食事を与える』というのは?』


「オレに、死ねと?」


『じゃ、じゃなくてですね。モンスターとかを、『お料理に魔法で変えちゃうんです』よ、私のパワーで!!』


「おお。それは、良いですね」


『でも、問題は一つありまして』


「どんなことですか?」


『モンスターを、私が『女神パワーで作る変身魔法陣』に誘導する必要があります。変身させる魔法って、難しいですよう』


「なるほど。敵が罠を仕掛けるように、こちらも罠を仕掛けるわけですね。つまり、オレが囮になってモンスターを誘導するってこと……っ!?」


『ですですー。理解が早くて、何よりですよー』


「うう。知ることで、より恐怖が強まって行くよう……っ」




 だが、『長いダンジョン』ではアリサが空腹になってしまうことは避けられない。『モンスターを魔法陣の変身罠で食事に変える』ことも必須となるのであった……。




「もぐもぐ……うまうま……おー!!HPも、お腹もいっぱいだー!!」


「……ああ。モンスターが変わった料理と知らないで、むしゃむしゃと美味そうに食べて。女神さまは、こう良心が痛みません?」


『だ、大丈夫ですよ!!女神パワーで、食あたりとか起こしませんし……』


「む。ううう……ダメだ、こっちの料理はー」


「……って、言ってますけど?」


『あれは、『ただの好き嫌い』のようですね』


「……な、なるほど。たしかに、誰にだって『好きな味』もあれば、『嫌いな味』もあるからね」


『どうやら『好きな味』の方では、『アリサをパワーアップさせられる』みたいです。逆だと、ガッカリして『弱くさせてしまう』ようです。まあ、一時的な効果ですが』


「でも。それって、アリサの『強さを調整できる』ってことですよね?……あまり、レベルアップさせ過ぎると、速く動き過ぎて、オレが捕まりますから。状況次第では、動きを遅くさせるために『嫌いな味』を食べさせる必要もあるわけですね」


『ええ。逆に『今のレベルでは勝てそうにない強敵に対して』も、『好きな味のモンスターを食べさせることで』、勝てちゃうかもしれません。弱者さんが追いつかれる危険も増えますが』


「よく作戦を考えていかないといけないわけですね」


『はい。そのためにも、色々とモンスターを食べさせて、『アリサの好き嫌いを把握することも必要になります』ね』


「そうですね……あれ?」


「わーい!!なんか、この料理食べると、高くジャンプできちゃーう!!」


『……ふむ、『アリサに特殊な能力を一時的に与えられることもあるみたい』ですね』


「ダンジョンには、届かない高さに宝箱とかあったりもしますから。ああいうのあれば、いいかもしれませんね」


『そうですね。『ボスを倒すために必要なアイテム』とかも、そういう宝箱に入っているかもしれませんからね!』


「うわ、めちゃくちゃ重要じゃありませんか、それ!!?」


『弱者さんには、私が与えた千里眼の力がありますから、『宝箱の位置を把握して』、『ちゃんとアリサが獲得できるように考えてあげてください』ね!世界の運命がかかっていますので、よろしくですよ』


「うう。でも、取り逃したら?今までだって、取り逃したアイテムがあるよーな!?」


『そ、そういうときは、私が『今まで行ったことのある街までアリサとあなたをテレポートさせます』ので。何度でも、トライです!!』


「もう、そうするしか、ないんですねえ……っ」




「あそこの宝箱、今のジャンプ力ならとどくー!!」



「暗闇でも、今なら目が見えるからー。この穴、調べてみよう!……宝箱、ゲットだ!!」




 こうして、オレたちはアリサに宝箱を回収させてもいった。


 その甲斐もあり……。




「最強装備、そろったっぽーい!!」


『……やりましたね!これなら、魔王とも戦えます!!』


「苦労した甲斐があったけど。どうにか、ここまで来れたな。何度、食われると思ったことやら……っ。女神さまは、ときどき『モンスターを予定とは違う料理』に変えるしっ」


『そ、そういうことだってありますよ。何でもかんでも完璧にはいきません』


「まあ、なれてきましたけどね、女神さまのドジには……でも、ようやく、旅の終わりが見えてきましたね」


『魔王城まで来ましたからね!あとは、魔王との対決です。懸念されるのは……魔王戦での、敵の数』


「周りの雑魚敵も集まってきちゃいますからね……対策は……って、まさか」


『はい。魔王と最終決戦を行うアリサの周りを、うろついて、モンスターがアリサに近づかないように調整しましょうね!なおかつ、可能なら魔王の気を引くこと!魔王の集中力を乱すことで、『アリサはクリティカルヒットを出せますから』!』


「な、なるほど。最後の最後まで、オレの役目はあるんですね!」


『ですですー。がんばってください、弱者さんも伝説のチキンになりましょう!!』




 こうして、滑稽かつ激しい最終決戦が行われた。


 アリサのサポートのために、魔王の視界に入ってコッソリ邪魔するオレ。アリサの背後に迫りくるモンスターを美味しい香りで誘い出すオレ……女神さまの罠にかかり、料理になっていくモンスター。そのも料理を食べて、HPを回復するアリサ……。


 きっと、伝説にはならない戦いを、魔王と戦うアリサを応援しながらもしていたんだ。


 がんばれ。


 アリサ!!




「でやあああああああああああああああああ!!!」


「ぐふうう……勇者、アリサよ。よくぞ、やった……ここまで、強さを磨くとは……」


「はあ、はあ。何だか、美味しいにおいがずっと一緒だったから。がんばれた!」


「……なるほど……我は、女神の策に、破れるか……ばたり」


「わーい!魔王を倒したぞー!!」




 こうして。魔王を倒して世の中を救った。


 魔王の死と共に、全てのモンスターが消えたから。


 オレの使命も終わり、人の姿に戻れた。




「あれれ!?どーして、君が!?」


 オレはアリサに事情を話した。


「そ、そっかー。でも、それならさ。君があのチキンだったって、教えてくれたら良かったのに。守ってあげたし、食べようとしたりしなくて、協力し合えたじゃない」


「たしかにッッッ!!?」


『たしかにッッッ!!?』


「あはは。本当に、二人ともドジだなー。じゃあ、世界も救ったし、村に戻ろう!鶏肉パーティーだー!!」




 こうして、平和は訪れた。


 ……かに見えていたが、じつはこのとき、裏ボスが動き出していたらしい。


 女神さまがそれに気づくのは数日後。




『大悪魔が復活しちゃいましたああああああ!!お二人とも、今度も手を貸してくださいいいいいいいい!!!』



 というわけで。もう一度世界を救う冒険をすることになる。


 強化されたモンスターは強いから、やっぱり鶏肉となり、敵を引きつけたりする係をすることになるんだ。強敵ぞろいだが、『今度はアリサに命令できる』からね。


 戦いは、ずっと楽になるはずだぜ!!


 まあ、そのときの冒険のハナシは、また次の機会に!!




                   おしまい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『伝説のチキンと遭難勇者』~汝、聖なる生贄チキンよ!方向音痴の勇者を魔王に導け!?美味しそうなチキンにされた雑魚村人のオレは、美少女勇者とモンスターどもから襲われつつも世界を救う!?~ よしふみ @yosinofumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ