第19話 お姫様が俺を匿ってくれるそうです!
お待たせしました!
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「はぁ……全身死ぬほど痛いぜ……もうやだ。毎回思うけど、もう2度と闘いたくない。俺は楽して生活するのが夢なのにさ」
俺は王都のとある家のソファーに腰掛けながらそう零す。
マジでもう一歩も動けん。
今首を少しでも捻ったら
まぁそれはどの部分も一緒だけど。
しかしそんな俺でもどうしても動かなければならないことがあった。
俺は動かしたくない体を何とか動かしてゆっくりと部屋を見渡してからため息をつく。
「……それにしてもここ……汚すぎだろ……」
そう、この部屋――と言うよりかはこの家なんだが――は兎に角掃除されていないのだ。
服は部屋の至る所に散乱し、食べ物こそないものの、色々なゴミが捨てられることなく置いてある。
まぁ元々王女様だったから家事できなくて当たり前なんだろうけどさ……もう少し何とかならなかったのかね?
お陰様でベッドですら気持ちよく寝れないんだわ。
だって下着が思いっきり放り投げてあるんだもん。
あれは触ってはいけない聖物だと俺は思っているから退けられないんだ。
もう少し恥じらいを持ったらどうなんだお姫様や。
そのせいで俺は痛む体を無理やり動かしてベッドからソファーに移動する羽目になった。
俺が必死に体の痛みに耐えながら部屋を片付けてあげようか迷っていると、誰かが俺の目の前にある扉を開けて入ってくる。
そこから入ってきたのは綺麗な金髪の長い髪に、物凄く整った顔立ちをしている最強系美少女、シンシア様だった。
「――ただいま帰りましたぁ。レオンさん、体はどうですか?」
「あ、おかえり……シンシア様。今日はめちゃくちゃ早いね……。それと俺の体は既にソファーと一体化しているぜ」
「貴方が全身死ぬほど痛いって言うから頑張って早く帰ってきたのです! と言うか何でソファーにいるのですか! ベッドで寝ていてください!」
ベッドには貴女の下着があるせいで寝られません――
――なんて言えるわけもない俺は、プンプン怒りながらも器用に床に脱ぎ捨てられている服やその他諸々を避けて近づいてくるシンシア様を眺める。
しかしどうにも避けるのは面倒らしく、少し顔を顰めながら来ているシンシア様には悪いが少し面白い。
そしてここで『顔を顰めるくらいなら片付けろ』と言いたくなるが、言わないのが相手を更に怒らせないコツだ。
うーん……これが夢にまで見たヒモ生活。
うむ、何て素晴らしいものなんだ……常に快適な温度、ジメジメしていないしソファーもふかふか……最早此処は
まぁ天国にしてはめちゃくちゃ汚いが。
なんて思っていると、服に足を取られたシンシア様がずっこける。
…………。
「…………ぶふっ……」
「ああっ! 今絶対笑いましたね! なんで笑うのですか!!」
「い、いや、あまりにもダサいコケ方だったもので……ふふっ……」
「むぅ~~~~~笑わないでくださいよ! これはここに落ちている服が悪いんです!」
「それは片付けないシンシア様が悪――「家を追い出しますよ?」……私は全く笑っておりません!! そして悪いのは落ちている服共です!」
そう、今俺は王都にあるシンシア様の家で居候をしている身だ。
何故こんな事になっているのかと言うと、それは2日前に戻る。
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(2日前)
邪神教の本拠地らしき場所を潰した俺達は、他の騎士団に禿げたおデブの邪神教徒の身柄を引き渡したら、特に質問などもされることもなく即開放された。
そのあまりの呆気なさにさすがの俺でも唖然としたよ。
だって俺たち思いっきり一軒ぶっ壊したからね?
それについても結局何も言われなかったし。
それと引き渡した邪神教徒は尋問に掛けられるらしい。
シンシア様によると、尋問するためだけの騎士団がこの国には存在しているらしく、『尋問されれば最後、必ず全てを話してしまうと言われているので、後は結果を待つだけです』と言っていた。
いや怖すぎだろ。
尋問されたら最後って。
やっぱりこの国で国王陛下怒らせたら俺逃げるしか方法なさそうな気がしてきた。
俺はそこで恐ろしくなったので考えるのを止めて、シンシア様に連れられて来た、大通りの出店を見る。
―――……うん、何で?
俺がここに連れてこられて一番に思ったのはそれだった。
思わず出店とシンシア様の顔を二度見してしまう程には意味不明だったのは言うまでもないだろう。
ほんと何も聞かされずにここに連れてこられたからな?
それも急に。
全く意味がわからないよ。
「……えっとシンシア様?」
「――はい? どうしたのですかレオンさん?」
そう言って子供のように純粋無垢な瞳で首を可愛く傾げながら見てくるシンシア様。
その様子からも分かるように、きっと俺を此処へ連れてきたのは、シンシア様にとって悪意のない行動なのだろう。
まぁ俺にとっては全く意味不明な行動なのだけど。
だがそんな瞳で見つめられると、指摘できないどころか俺にダメージが入ってしまうのですよ。
自分で言うのも何だけど、俺の心は汚れているからね。
主に母さんのせいで。
…………母さんとの思い出悪いことしかない気がしてきた。
だってどんなときも怖かったもん。
まぁ俺と妹が原因なんだけど。
俺が母さんとの楽しい思い出を必死に思い出していると、シンシア様が俺の顔を覗きながら聞いてきた。
「どうしたのですか? 急に何かを考え出して……」
俺はその声でシンシア様がめちゃくちゃ近いことに気付き、ドキドキするのを何とか抑えて返答する。
「……何でもないっす。それで何を買いたかったんだ?」
「ん? 買いたいものですか? それは――焼きそばです!!」
そう言って出店に置いてある焼きそばを2つ手に取って店主にお金を渡すシンシア様。
それは1つ俺にくれるって事ですかね?
それで貰えなかったら多分俺泣いて洞窟に帰ることになるよ?
なんてことを考えていた俺だったが、そんな浅ましいことを考える俺なんかより数倍もシンシア様は素晴らしい人だった。
シンシア様は買った焼きそばの1つを俺に差し出すと、
「はいどうぞ。レオンさん、お金がないと聞いていたので買っておきました! これで良かったでしょうか……?」
「も、勿論です!! ありがとうございます!!」
俺はまるで神から貰うかの如く跪いて両手で受け取る。
今俺の手には皿に乗ったホカホカの焼きそばがある!
人が作った料理が!
こうなったらもう我慢などできない。
俺は焼きそばに貪りついた。
「うまぁぁぁぁい! ドラゴンの臭みのある肉とは全然違う! 味がある!」
俺は涙を流しながら焼きそばを食べる。
その姿に店主はドン引きしていたが、そんなの知るか。
こちとら1週間近くくっさくて不味くて硬いドラゴン肉を食ってたんだぞ。
あんなの貴族が、もっと言えば人間が食べるもんじゃないわ!
一体何度吐きそうになったか。
俺はドラゴン肉の味を思い出してゲンナリする。
そんな俺に突然シンシア様がこんなことを聞いてきた。
「レオンさん、これから何処に行くのですか?」
「うーん……金もないし俺はこれからあの洞窟に戻るよ。あそこは野宿するのだったら快適な方だしな」
まぁ一体どれくらいかかって帰れるかは分からないけど。
間違いなく今の俺だったら帰れん。
だって今俺の体はこれ以上動くなって色んなところが警鐘を鳴らしてるもん。
頭は痛いし体は軋むし時折骨が『ボキッ』って鳴ってるし。
あと目眩も…………。
「え、れ、レオンさん!?」
俺は最後に驚くシンシア様の声を聞きながら意識を失った。
<><><>
「そして目が覚めたらシンシア様の家と……」
俺は目の前でプンスカ怒っているシンシア様の顔を見つめながらそんなことを溢す。
初めて女の人の家に来たってので起きた瞬間は緊張したけど、あの部屋の惨状を見たら全く緊張しなくなった。
不思議だよね、部屋の雰囲気一つで心も変わるんだよ?
まぁ今回は酷すぎたのもあるけど。
しかし本当に汚いし、このままこの家には痛くないから、お礼も兼ねていっちょ掃除でもしてあげますかね。
俺は立ち上がって無慈悲にシンシア様に告げる。
「シンシア様、これからこの汚物の掃き溜めみたいな家を綺麗にします。なのでシンシア様には色々と手伝ってもらいますからね」
「いきなり酷いこと言われたと思ったら手伝えって、扱い雑すぎじゃなりませんか!?」
なんて事を言うシンシア様を無視して、俺は部屋の掃除に取り掛かる。
それと同時にこの惨状にならない様にする防止案も考え始めた。
そして一瞬で無理かもと心が折れそうになった俺であった。
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