第25話 騎士の回復
ヴァレリアさんは全ての薬を丁寧に鞄に詰めると、服を着替えて王宮に相応しい格好に変身した。こうして綺麗な格好をすると、貴族子女と言われても違和感はないかもしれない。
「レイラ、準備は良いか?」
「はい。私はいつでも行けます」
「では行こう。始発の乗合馬車はもう出てるな」
「今の時間だと、ちょうど二本目に乗れるぐらいですね」
薬屋の鍵を閉めて途中の屋台でバゲットサンドを買いながら大通りに向かうと、予想通りタイミングよく馬車がやってくるのが見えた。
馬車乗り場に立っていると目の前に馬車が止まり、お金を払って二人で乗り込む。
「ふぅ、やっと一息つけますね」
「そうだな。まずはこれを食べよう」
良い香りがしているバゲットサンドにかぶりつくと、パリパリという良い音がして、もちもちのパンと味が濃いめの美味しい具材が口の中で一体となった。
「うぅ〜ん、美味しい!」
「空腹にこれは最高だな」
バゲットサンドはすぐお腹に収まって大満足で馬車に揺られていると、お腹が少しこなれてきた頃に王宮の近くへと到着した。
馬車を降りて王宮の門に向かうと、門番の兵士の方々は私たちの顔を覚えてくれたのか、すぐルインさんに連絡をしてくれる。
「こちらで少しお待ちください。待ち時間で鞄の中を改めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない。しかし繊細な薬が入っているから慎重に頼む」
「かしこまりました」
兵士の人たちが緊張の面持ちで鞄の中を確認していると、まだ朝早いにも関わらずビシッと決まっているルインさんがこちらに歩いてくるのが目に入った。
ルインさんって何時から何時まで働いてるんだろう。
「ヴァレリアさん、レイラさん、お待たせいたしました。依頼の薬が完成したのでしょうか?」
「はい。患者さんの容体はいかがですか」
「ノエルさんの話を聞く限りですと、芳しくないようです。一般的な呪いの治療薬はできる限りかき集めて使っているのですが……」
「ではすぐに向かわなければいけませんね」
それからすぐに鞄の中身の検査が終わり、私たちは騎士団の詰所に向かった。詰所内の治癒室に入ると、ノエルさんをはじめとした治癒員の皆さんが、目の下にくっきりとした隈を作りながら忙しく動き回っている。
「ヴァレリアさん! レイラさん!」
私たちが姿を現すと、ノエルさんがこちらに気づいて必死だった表情を少しだけ緩めた。
「ノエルさん、お待たせいたしました。まだ全員無事ですか?」
「はい。しかし何人か危ない人がいます。治療薬は……」
「完成しました。こちらを使ってください。熱めのお湯と共に飲んでいただくと、効き始めるのが早いです」
「ありがとうございます……!」
それからは早かった。ノエルさんと治癒員の皆さんが完璧に連携をして、騎士さんたち全員に次々と薬を飲ませていく。
薬の処方は僅か数分で全員に行われた。
「これで、もう大丈夫なのでしょうか」
「そのはずです。しかし呪いが治っても衰弱した体は元に戻りませんので、まだしばらくはケアが必要だと思います。特に心配なのは、冷えすぎてしまった手足が壊死していないかですね」
「確かにそれは心配ですね……そこは私が責任を持って完治するまで経過を観察します」
そう言って頼もしく頷いてくれたノエルさんに、ヴァレリアさんは頬を緩めて頷いた。
「よろしくお願いします。では私たちは……」
「ヴァレリアさん!!」
軽く下げた頭を上げた瞬間にヴァレリアさんがふらついたのが視界に映り、咄嗟に支えようと手を伸ばした。
しかし私の力では支えるに足りず、ヴァレリアさんの下敷きになる――と覚悟した瞬間、私の体が誰かに包まれ支えられた。
「レイラさん、大丈夫ですか?」
「あっ……ノエルさん、ありがとうございます」
ノエルさんの腕は意外にもしっかりとしていて安心感がある。細身に見えてもやっぱり男性なんだね。
「ヴァレリアさんも大丈夫ですか? お二人とも、かなりお疲れの様子ですよ。ここで少し休んでいかれてください」
「……ではお言葉に甘えて、少しベッドを借りても良いでしょうか」
「もちろんです。レイラさんもぜひ」
「はい。ありがとうございます。……あの、ノエルさんたちもしっかりと休まれてくださいね。目の下の隈が大変なことになっています。孤児院の管理長みたいです」
目の下の隈が酷くて見た目は今にも倒れそうなのに、意外にも元気いっぱいな管理長が孤児院にいたのだ。あの幸薄そうな顔を思い出してしまう。
「ふふっ、それは酷いですね。私も休まなければ」
「あっ、やっぱりノエルさんもご存知ですか?」
「はい。あの管理長は三つの孤児院の管理を任されていたらしいですよ」
「そうだったのですね。……今のノエルさんはあの管理長よりも酷いぐらいなので、ぜひ寝てください」
「ありがとうございます。ただレイラさんも似たようなものですよ。まずはレイラさんを休憩室にご案内しますね」
それからすぐに休憩室を貸してもらった私たちは、ベッドに横になった瞬間、気絶するように眠りに落ちた。
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