第22話 素材採取とフェリスの魔法

 王都を出て少し経ったところで、馬に乗るのも慣れてきたのでヴァレリアさんに話しかけた。


「ヴァレリアさん、護衛がいた方が安全だったんじゃないですか?」

「いや、ルナル山脈はほとんど人がいない場所なんだ。だから下手に護衛がいるよりも、フェリスが力を使えた方が安全だ」

「ああ〜そういうことだったんですね。確かにフェリスがいれば怖いものなしですもんね」


 フェリスは攻撃魔法の威力調節が下手だから近くに他の人がいるところでは魔法を使ってもらえないけど、そうでなければ最強の味方だ。


 それにしても、ヴァラリアさんも随分とフェリスがいることに慣れてきたね。力を借りようとまでしてるし。


『僕に任せて!』


 まあフェリスが凄く嬉しそうだから良いんだけど。多分フェリスが頼られたいタイプだって、分かってきたんだろう。


「フェリス、もし危険な魔物が襲ってきたりしたらよろしくね」

『うん!』

「少し攻撃魔法の練習もすると良い。フェリスが威力を調節できるようになれば、普段もいざという時に使えてレイラの安全性が増すからな」

『確かに……僕、たくさん練習するよ』


 フェリスは拳を握りしめてやる気十分だ。ふんすっと荒い鼻息が聞こえてくる。


「ほどほどにね」


 そんな話をしながら馬に乗ってひたすら街道を駆け、途中で二ヶ所の村に泊まりルナル山脈に到着した。山脈の麓から見上げる山は、とても大きくて壮大で美しい。

 馬は近くの村に預けてきたので、今ここにいるのは私とヴァレリアさん、そしてフェリスだけだ。


「頂上付近は雪があるんですね……」

「上は気温が低いからな。レイラ、雫花はこっちだ」

「どこにあるのか分かるんですか?」

「ああ、基本的に岩場にあることが多い。こっちに岩壁があって、そこを登ったところが群生地なのは比較的有名だ」


 迷いなく森に入っていくヴァレリアさんの後に続き、足場を確認しながら山を登った。ヴァレリアさんがナイフで邪魔な草を刈ってくれるので、意外と先に進みやすい。


『この付近に魔物はいなそうだよ〜』

「フェリス、ありがとう。これからも監視をよろしくね」


 フェリスのおかげで全く心配なく山の中にいることができて、いろんな植物を見ることができてとても楽しいな。初めて見る綺麗な花や面白い形の葉っぱなどがたくさんある。


「ヴァレリアさん、この花を知っていますか?」

「ああ、それは触るんじゃないぞ。茎に毒がある」


 え……こんなに綺麗なのに毒があるんだ。毒という言葉を聞いてしまうと、さっきまで綺麗で楽しく見えていた山の中が、途端に怖いものに思えてくる。


「……知らないものには触らないようにします」

「それが良い」


 それからしばらく山の中を歩いていると、目的の岩壁に辿り着いた。岩壁は断崖というわけではなく、坂道のようになって登れるところがあるみたいだ。


「レイラ、危ないから先に行け」

「分かりました。フェリス、上の様子も見てくれる?」

『はーい!』


 フェリスが危険がないことを確認してくれたので、心配せずにヴァレリアさんと上に登った。数分で岩壁の上に辿り着くと、そこには綺麗な花畑が広がっていた。


「うわぁ……凄いね」

「綺麗だな」

「これ全部が雫花ですか?」

「そうだ。この中でも品質が良いやつを採取するぞ」

「はい」

 

 ヴァレリアさんに採取方法を教えてもらって、透明な水色をした不思議な形の花を採取していった。近づくと良い香りがしてなんだか癒される。


 根を残せばまた生えてくるらしいので、茎の下の方から採取するのが正しい方法らしい。


 それからも花畑の中にしゃがみ込んで真剣に採取をしていると――突然、フェリスの焦ったような声が聞こえてきた。


『レイラ! 魔物が来るよ!』

「ヴァレリアさん、魔物が来るそうです!」

『向こうの森から!』


 私が叫んだのと同時にヴァレリアさんが私の下に駆けてきて、フェリスがいる方向に視線を向けた。


「レイラ、何の魔物だ? どこから来る?」

「森の方から来るらしいですが、まだ魔物の種類は聞いてません」

『……なんかバチバチしてる大きな猫!』


 フェリスからのその言葉を伝えると、ヴァレリアさんは一瞬だけ呆れた表情を浮かべてから眉間に皺を寄せた。


「サンダーキャットだな。かなり強い魔物で、普通なら騎士団の大隊が出動する」

「フェリスは大丈夫でしょうか?」

「多分大丈夫だと思うが……」


 ヴァレリアさんがそう言って森に視線を向けたその時、ドガァァァンという衝撃音が私たちの耳に届き、森の中に土煙が吹き上がったのが目に入った。


 そしてそれから数秒後に、ニコニコと機嫌が良さそうなフェリスが戻ってくる。


『レイラー、倒せたよ!』

「なんだか凄い音がしたけど……」

「サンダーキャットはどうなったんだ?」

『バラバラになったよ!』


 笑顔で得意げなフェリスは可愛いけど、魔物がバラバラになったという話の内容は凶悪だ。その内容をヴァレリアさんに伝えると、大きく息を吐いてから現場に連れて行って欲しいとフェリスに頼んだ。


『こっちだよ!』


 それからフェリスに連れられて向かった場所は……何かが爆発したような有様だった。木々が広範囲で完全に吹き飛んでいて、地面が抉れて雑草すらなくなっている。


 そしてところどころに飛び散っている赤い何か。多分これがサンダーキャット、だよね?


「フェリス、凄い威力だしありがたいが……もう少し威力を落とせないのか?」

『うーん、どうやったら威力を落とせるの?』

「方法を知りたいらしいです」

「よくあるのは、最弱の威力を身につけることだな。風魔法なら蝋燭の火を消す程度の風を発動できるようになれば、威力調節ができるはずだ」

 

 フェリスはその言葉に難しい表情で考え込んでいる。顎に手を当てて考え込むフェリスも可愛いなぁ。


『頑張って練習してみる!』


 それからはフェリスが魔法の練習をする傍ら、私たちは素材採取に集中した。頻繁に衝撃音が聞こえてきていたけど、最初の頃よりは音が小さくなっていた気が……する。多分。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る