第19話 日の出食堂へ
騎士団に薬の納品をするようになって一ヶ月ほどが経った今日。ついにノエルさんと出かける日になった。
朝から私以上にフェリスが楽しそうで、さらにヴァレリアさんがソワソワと落ち着かない様子を見せている。
「レイラ、本当に行くのか?」
「もう、ヴァレリアさんは行ってほしくないんですか?」
「いや、そんなことはない。断じてない。ただレイラはまだ十五歳だろう? 私は心配なんだ。あのノエルとかいうやつが実は悪人だったりしたら……」
「そんなことないから大丈夫ですって」
男の人と食事に出かけるってだけでヴァレリアさんがここまで心配してくれるのは正直予想外だけど、なんだかとても嬉しい。
私のことを大切に思ってくれているんだなというのが伝わってくる。
『レイラ、もっと露出を増やした方が良いんじゃない? ほら、男は誘惑に弱いんでしょ?』
フェリスは完全に面白がってるよね……それにその知識はどこから仕入れたのか切実に知りたい。普段ふらっといなくなる時にどこに行ってるんだか。
「フェリス、私はノエルさんを落としに行くんじゃないからね? 仕事先の人と食事に行くんだからちゃんとした服装で良いの」
『え〜それじゃあ面白くないよ。ほら、この前買ったミニスカートはどう?』
「あれはまた別の日ね」
そんな会話をしつつ準備を進め、心配からか眉間に皺を寄せたヴァレリアさんに見送られて薬屋を出た。
少し歩いて待ち合わせの広場に向かうと、すでにノエルさんが待ってくれているのが視界に映る。
「ノエルさん、お待たせしてすみません」
駆け足で近づくと、ノエルさんは穏やかな笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。
「おはようございます。私も今来たところなので大丈夫ですよ」
当然だけどノエルさんは制服じゃなくて私服姿だ。なんだか新鮮で、思わずじっと見つめてしまう。ノエルさんは制服よりも私服の方が若々しく見えるかも。
「変ではないでしょうか? 普段は私服を着ることがほとんどなくて……」
「あっ、ジロジロ見てしまってすみません。とてもお似合いだと思います」
「良かったです。レイラさんもお似合いです」
「ありがとうございます」
そんな会話をしてから、さっそく食堂に向かうことになった。今はお昼の少し前なので、お腹はぺこぺこだ。
「ノエルさんは休日はいつも出かけられないのですか?」
「そうですね……基本的には自室で本を読んでいることが多いです。出かける時にはどこに向かうのかを提出しなければいけなくて、元々室内で過ごすのが好きなのでついダラダラと過ごしてしまいます」
「提出しなければいけないというのは、何かがあった時に連絡が取れるようにということでしょうか?」
「そうですね。騎士団専属の治癒師は私だけですので、酷い怪我をした騎士などがいた場合には、休日でも呼び出されます」
そうなんだ……治癒師として働くのも大変なんだね。でもそれだけ頼りにされているというのは、少しだけ羨ましい。
「今日は出かけてしまって大丈夫だったのでしょうか?」
「もちろんです。このようなきっかけがなければ外に出ることはあまりないですから、ありがたいです」
「それなら良かったです」
「そうだ。お昼を食べた後に本屋に寄っても良いでしょうか? いくつか新しいものを買いたくて」
「良いですね。ぜひ寄りましょう」
そんな話をしていると、すぐに目的の食堂が見えてきた。年季の入った看板に日の出食堂と書かれている。
「良い匂いがしますね」
「これは香辛料でしょうか。食欲を刺激されます」
「分かります……絶対に美味しい香りですね」
期待しながらドアを開けて中に入ると、優しそうな四十代ぐらいの女性が笑顔で迎え入れてくれた。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」
「はい」
「では奥のテーブルをお使いください。メニューは壁にかかっていますので、そちらからお選びください」
席に着いてメニューを端から見ていくと、全部で数十のメニュー全てに心が惹かれてしまう。ハンバーグはチーズ入りがあったり、ソースの種類も選べるようだ。
「レイラさん、もしよろしければいくつかを一緒に頼んで分けませんか?」
「それ良いですね! まずはハンバーグでしょうか」
「そうですね。チーズ入りにしますか?」
それから二人で話し合いながら料理を三つ選び、飲み物と共に注文した。するとカウンター越しに見える厨房で調理が始まり、とても懐かしいハンバーグの香りが漂ってくる。
「この香り、孤児院を思い出します」
「本当ですね……とても懐かしいです。香りは変わらないですね」
そんな会話をしながら厨房を眺めていると、給仕を担当している女性が笑顔で私たちの下にやってきた。
「もしかして、孤児院出身の方ですか? 先程の会話が聞こえてしまって……」
「はい。日の出食堂のハンバーグが懐かしくなって、来てしまいました」
「そうだったのですね。そういう方がいらしてくれるととても嬉しいんです。ありがとうございます」
女性は優しい笑顔でふんわりと微笑むと、少し待っていてくださいと後ろに下がってから手にお皿を持って戻ってきた。
「これ、サービスです。ぜひ食べてみてください。孤児院に新しく卸す予定の肉団子なんです」
「良いのですか?」
「もちろんです。感想をお聞かせください」
そう言って女性が他のお客さんのところに向かったので、私とノエルさんは肉団子を食べてみることにした。
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