第14話 王宮へ
しばらく馬車に揺られながら街の景色を眺めていると、雑然とした街だったのが綺麗な貴族街になり、さらに屋敷の規模がどんどん大きくなっていった。
高位貴族の屋敷がある辺りではほとんど乗客も残っていなく、王宮近くで降りた時には私たちだけだ。
「大きいですね……」
「王宮はいろんな機能を果たしてるからな」
「入り口はどこでしょうか」
「多分向こうだ」
ヴァレリアさんに付いて大門ではなく通用口のようなところに向かうと、鋭い目つきの門番がいて声を掛けられた。しかし私たちがしっかりとした格好をしているからか、態度はとても丁寧だ。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「王宮から依頼を受けて来ました。これがその手紙です」
「拝見いたします。――確かに王家からの依頼ですね。確認を取りますので、中のベンチで少々お待ちいただけますでしょうか」
「分かりました」
日差しが避けられる場所で座って待っていると、数分で中に入る許可が出た。王宮の使用人が迎えに来てくれて、応接室に通される。
それから数分待っていると、担当だという男性の文官が室内に入ってきた。ヴァレリアさんと同じぐらいの歳に見え、真面目そうな雰囲気だ。
「お待たせいたしました。今回の依頼に関する担当を任じられました、ルインと申します。よろしくお願いいたします」
「薬師のヴァレリアです」
「助手のレイラです」
「今回は騎士団への薬の納品ということですが……」
ヴァレリアさんがさっそく本題を切り出すと、ルインさんは一枚の紙をこちらに向けてテーブルに載せた。
「今回の詳しい依頼内容はこちらとなっております。傷口に塗る軟膏を百回分、痛み止めを五十回分、熱冷まし薬を二十回分。こちらを毎週納品いただきたいです」
「随分と多いですね……」
「最近は魔物が近年稀に見るほど活性化していまして、これでも足りないぐらいなのです。もしかしたら、途中で薬の数を増やしていただくかもしれません」
これだけの量を毎週届けても足りないって、どれほど怪我人が出ているのだろう。王宮には治癒魔法が使える治癒師もいるはずなのに、それでは全く足りないってことだよね……。
「分かりました。承ります」
「本当ですか! ありがとうございます。とても助かります」
「納品は助手のレイラが行いますので、よろしくお願いいたします。報酬は桁が多いので、店まで定期的に届けていただきたいです」
「かしこまりました。ではそのように手配しておきます」
それからいくつかの契約書を交わし、これから毎週届けるから顔合わせということで、ルインさんに連れられて騎士団の詰所に向かうことになった。
詰所は王宮の敷地内に独立した建物があるらしく、話し合いをしていた応接室から歩いて数分だ。ちなみに門からは詰所の方が近い。
「これからは詰所に直接納品していただきますので、よろしくお願いいたします」
「分かりました。ルインさんは納品の場に立ち会っていただけるのですか?」
「もちろんでございます。毎週約束の時間に門までお迎えに上がりますので、ご安心ください」
ルインさんが来てくれるのか、それなら安心だ。
『レイラ、ただいま〜』
王宮に着いてから美味しそうなお菓子の物色に向かっていたフェリスが、満足そうな笑みを浮かべながら戻ってきた。
ルインさんに気づかれない程度に視線を向けて微かに笑いかけると、フェリスは嬉しそうに私の周りを飛び回る。
「こちらが入り口です。先にお入りください」
フェリスと密かに視線を交わし合っていると、詰所の入り口に着いたらしい。ここからは人が増えるのでバレないようフェリスに視線を向けるのも止め、詰所の内装をぐるりと見回した。
さっきの王宮よりも豪華さはなく無骨な雰囲気だ。入り口から入ったところは広い休憩スペースのようになっていて、テーブルや椅子がたくさん置かれている。
「騎士団所属の治癒師がおりまして、その者が薬の管理も一手に引き受けていますので、納品もそちらにしていただくことになります。基本的に治癒室におりますので、そちらにご案内いたします」
そう言って案内されたのは、二階に上がってすぐの場所にある広い部屋だった。ベッドがいくつも置かれ、棚には見慣れた薬や包帯などがたくさん詰め込まれている。
ベッドは怪我人で埋まり、白い制服を着た人たちが忙しく治癒をしているようだ。同じ制服でも一人だけデザインが豪華なものを着てる人がいるから、あの人が治癒魔法を使える治癒師なのかな。
さすがにここにいる人たち全員が治癒師ってことはないはずだ。治癒師は国中に数えられるほどしかいないのだから。
「ノエルさん、少しお時間をいただいても良いでしょうか?」
ルインさんが呼びかけると、こちらに顔を向けたのは予想通り豪華な制服を着た男性だった。癖が強い茶髪を後ろで縛っていて、優しそうな雰囲気だ。
私よりは年上だろうけど……かなり若そうに見える。
「ルインさん。すぐに気づかなくてすみません。薬の調達に関することでしょうか?」
「はい。こちらのお二人が追加で必要な分の薬を納品してくださります。ヴァレリア薬屋のヴァレリアさんとレイラさんです」
「よろしくお願いします」
私たちが頭を下げて挨拶をすると、ノエルさんは優しい笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。
「騎士団専属の治癒師をしているノエルです。私の魔法では治癒が全く追いつきませんので、薬師の方々にはいつも感謝しています。ありがとうございます」
「いえ、お役に立てるのであれば嬉しいです」
いつも感謝してるってことは、日頃から治癒魔法だけじゃなくて薬も使ってるってことだよね……確かによく考えたらノエルさん以外に薬による治癒を担当してる人たちがこれだけいるのだから、普段から使ってるのは確実だろう。
ということは、私たちに依頼された薬は追加分で、あれが全部じゃないってことだ。毎週のようにそんなに薬を使うなんて……騎士団の仕事って予想以上に過酷なのかもしれない。
「毎週の納品は私が担当させていただきますので、これからよろしくお願いいたします」
「分かりました。基本的には私が、私の手が離せない時には他の者が担当しますので、よろしくお願いいたします」
そうして挨拶が終わり、今日は薬もないので早々に帰ろうとしたその瞬間、治癒室のドアが思いっきり開かれた。
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