松家さんと俺とコンビニと 

愛歌勇

序章 仕事と心の変化

第1話


「馬鹿野郎!!」

会社の中で怒鳴り声が響く

「あーあいつまた、」

「お気の毒だわな」

ひそひそとそんな噂話が俺の耳に聞こえてくる。

はぁどうして。

「聞いているのか!!」

「あーすみません」

今この状況を説明してると、課長のデスクで周りに社員が居るのにも関わらず、平気で俺を怒鳴りつけてくる。

「大体、なんだこの資料は、ええ!!」

迫力がある屋台の鬼の面みてえな顔して怒鳴るなよ、感情を爆発したって意味ねえのに

「指示通り行っただけですが」

「少しは自分で考えんか!、おかげで部長に詰められたではないか」

知らねえ、てめえの脳みそで考えやがれ、いつもめんどくさいこと自分に擦りつけてるくせによ

「以後、気をつけます」

「頼むぞ、君はこの課のエースなんだからな」

怒り疲れたのか、顔を落としてそういった。 都合のいい言葉だけ並べて自分が楽したいだけだろうに

「それじゃ明々後日しあさってのプレゼンもう一回作り直してくれ、俺は帰りを待つ子どもが居るから定時で帰るわ アッハッハッハ」

「…お疲れさまでした」




「今日も終電ギリギリか?」

妙にキザな男、まあ俺の同僚だ、ナルシスト臭が凄いのか事細かに決め顔を忘れない

「そうだよ、たくやってらんねえな」

自分の隣のデスクで暇を潰している同僚が俺に話しかけてくる、何も家に帰りたくないらしい


「いいじゃねえかよ、お前は出世コースみたいに乗ったもんだし」


「馬鹿いえ、出世したところでストレスが倍になるだけだ、大体結婚もしないようなやつに出世してなんになる」


俺は吐き捨てるようにそういうとパソコンとにらめっこしながら資料を作成していた。


「まあ、そんな仕事一筋だと疲れるぜ、出世したら、女遊びし放題と考えればいいじゃねえか」


「いやお前、同棲してる彼女とはどうなったんだよ」

「ああ、いやその」

立ち上がってきょろきょろしてる彼から何枚かボロボロになってる名刺が落ちてきた、女性の口紅の跡みたいなのが見える

「呆れた、喧嘩して家に帰りズレえてことかよ」


「男なら仕方ねえだろ、死活問題だ」


イケボ風にそんなことを言う様がかえって気持ち悪さを増幅させる

「責任持てねえなら付き合うのやめろ、あほらしい」


「君はじゃあ、性欲ないというか、同じ種族である君が」


何かと集中できない、一向に進まない

「…うっせえ仕事してんだよはぁ、帰るわ、データをノートパソコンに移すからケーブル持ってきてくんない」


「アイアイさー!」


ポジティブなのか、空気が読めないKY君であることに変わりないのに、ただ、俺は反論することができなかった。俺は好きな人はいない、ただそういう気持ちになったことはある、それで学生時代は遊んでいた、付き合ってはいない、ただそういう責任のないことはしてた、なのに今じゃ責任に縛られている


「あい、持ってきたぞ~」


「サンキュー、彼女に土下座して詫びろ、それくらいしかねえよ」


「マジかぁ、」


しぼんだ顔をして彼がそう言う、いつまで学生気分なのだろうかコイツは



ヴーンと音が響く

つり革をつかんで体を揺らすのはどこか居心地が良いようで悪い

電車の窓の外を見る、夜景は綺麗だ、ただ疲れ込んだ自分の顔を見ると一気に萎える、あー夢だったらよかったのに


夜中の人気の少ないだが生温かいコンビニの灯、俺はその灯に踏み入る

「あ、来た来た!」


可愛い声が聞こえる、疲れを吹き飛ばしてくれるそんな声が

「お疲れ様です、」


「お疲れ様です!あじゃなかった、いらっしゃいませーぇ…」

少しテンションを落としてジト目になる、そんな素振りが愛おしい、


彼女の目は丸くどこか吸い込まれそうだ、そしてアヒル口で教室の3番目に可愛い子って位置づけだろう


「ハハハ」

「もう何笑ってるんですか!」

「いやだってさ、面白くて」

お互い見合い笑いに包まれる、幸せだ

「じゃ、いつものKチキとあと8番もらおうかな」


「ヤニカスですか?」


「失礼だな、まそうだけど」 


つい笑みがこぼれてしまう


「長生きしてくださいよ~」


「ヤニパワーでなんとかなるって!」


「なんない、なんない」

笑ってごまかす、そのごまかしが楽しくて仕方ない

「お会計988円です。」


「はい、すみません細かいのなくて」

俺は千円を会計にだした。

「いつも真面目ですね、いちいちそんなこと言う人中々居ないですよ」


「え、ああ癖で、小銭出さなくて舌打ちされたことありますから」


「そいつ嫌な奴ですね、12円のお返しです。」


「すみません、いつもありがとうございます」


「いえいえ、そんなまた来てくださーい!」


その子が机から押し出して俺を見てくれている。名札が揺れて踊っているように見える、松家と書かれている、文字が

俺は一礼して店を出た


自宅にてベランダの夜景を観ながらタバコを吸う

「綺麗だ」

吹かした煙をみてそう呟いた、

綺麗な夜空に煙を被せるのがたまらないというか、安心する。

ただ最近は煙の中に松家さんの顔が見える、こうも夜空ピッタリな景色に似合う、なぜだろうか、煙と同じようにどこか安心する


俺はもう一本タバコを吸った

煙は風に流れて、朝を運んでくる。茜色の空には煙は似合わないだろうか。






「おやすみなさい。私」

茜色の空にあの人の顔は似合わないだろうか。吹かして、日が差し込んでくる。

「待ってるね」

コンビニで彼が来るのを夢見ながら、今日も私は夜の彩りになる






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