第69話試し切り




現実世界に戻って来た俺は、スマホで佐々木部長にメールで連絡をとった。


【重要な話なら会ってもいい】


13時頃なら居るから、学園に来てもらっても大丈夫よ。


忙しいからメール連絡したのに、簡単にアポが取れた。




学園に行ったら数ヶ月前は静かだったのに、大勢の人、人で賑わってるぞ。


ちらっと見えた武器販売店は、「売り切れ御免 入荷未定」の張り紙が貼られてる。

それを見て諦めて帰る客やスマホで「なんとか売って下さいよ」と話す客もいた。


そんなに人気な武器なのか・・・

今からルーンブレイドなどを相談しようとする身には、気になって仕方ない。


スマホで検索だ。


【重い大剣でリザードマンを圧勝する】

そんなタイトルが目に入った。


そんな・・・俺の武器より優れた武器が世に出たのか・・・


これが動画か・・・


なんだよ!このしょぼい武器は、ただ大剣の重さを使ってるだけかよ。

俺の武器とは、次元が違い過ぎだろうが・・・


バカ野郎!・・・悪い評価をポチッと押してやった。




あれ!こんな所に保安検査場があるぞ。

いつの間に作られたんだよ。聞いてないよ。


「あのですね。荷物検査しないとダメですか、佐々木学園長と会う約束を取っているのですが」


「ダメです。その毛布に包んでる物を見せて下さい」


「これって学園長に見せる為に持ってきた剣なので・・・ダメですか」


警備員の顔に緊張が走ったような・・・

なんだよ腰に手を掛けたぞ・・・拳銃を向ける気なのか・・・停め具を外したぞ。

もう数名が走りながら、こっちに向かってきたぞ。


これはヤバイぞ。

毛布に包んだ物を荷物検査台に載せて、両手をゆっくりと上げた。


「怪しい者ではありませんよ」


「ビー、ビー、ビー」と荷物検査のブザーが鳴った。





学園長室って、こんなにだだぴろいのか・・・


「椅子に掛けなさい。それにしてもあんな事が起きるなんてね・・・新しく武器を持っての立入り禁止区間が広がったのよ。例の事件以降、警備体制の見直しが色々あって」


「あんな検査場があるって知ってたら、こっちも「剣を持って行きます」と連絡してから行ったのに・・・」


「そう、ごめんね」


え、それだけかよ。



「それで見せたい剣がこれなのね」


「はい、2階層でスライムからドロップした剣です」


ここは嘘で誤魔化そう。


「それにしてもキレイな剣ね」


「この持ち手部分が開くようになっていて、魔石をはめ込んで斬と念じると凄い技のスラッシュが発動して魔物を斬ってしまいます」


「はめ込んでの後の言葉が聞き取れなかたの、なんて言葉なの」


え!斬が聞き取れなかった。


「斬」


「シュツで合ってるかしら」


俺ってそんな発音で話していたのか・・・ルーンだからこの世界にないいにしえの言葉だから・・・


「意味は斬るです」


「すると斬ると念じてもいいのね」


「そうです。それともう1つ強も一緒に念じれば、もっと凄い技のハイスラッシュが出ます」


「それは楽しみだわ」


「魔石を使うのでダンジョンでは使用できないでしょう。しかし、地上に出てきた魔物には有効だと思うので持ってきました」


「それはありがたい事だわ。しかし1本だけでは・・・」


「それで、この剣を握った時に付与ふよ魔法を習得して、同じような物が作れるようになりました。それとこのナイフは、改良型でダンジョン内でも魔力を流すと凄い範囲を斬る事ができます」


「この武器を作れるの・・・分かったわ。ナイフの試し切りが必要ね・・・田中君、すぐに手配を・・・」


言われた田中らしき人は、早足で出て行った。




警備員によって訓練場は封鎖ふうさ


なんだなんだと遠巻きに見てるが、ハッキリとは見えないだろう。


斬のルーンナイフは、担当の男が握っている。

その正面には丸太がずらりと1列ならんでいた。


そして、手を振って合図をしてから丸太を斬った。

丸太には、なんの変化も無い。


担当の男が不思議に思って丸太を触った途端に、「バタバタバタ」と丸太が斬れて倒れだした。

4メートル先の丸太まで、切れ込みがあったのだ。


「これがダンジョンで使えるなら怖いものなしよ。神須君、オークションに出さない」


「そうですね。それが1番評価されそうですね。今、撮っている動画も参考資料として公開してくれますか?」


「勿論よ・・・ギルドでも広く知らせるわ・・・本当は日本国内限定にしたいけど、叶わぬ夢ね」




学園の掃除をしているおじさんが、作業着のまま訓練場に立っている。


「あんな人しか居なかったの」


「いません。ダンジョンに入った事がないって条件の普通の人は・・・」


「仕方ないわね、ちゃんと説明したでしょうね」


「本人も了承してます」


「はじめなさい」


おじさんの所に駆け寄って話しているようだ。


担当の男が手を振った。


おじさんは、ルーンブレイドを握って丸太に向かいあっている。


それは一瞬で終わっていた。


丸太の向こうには、おじさんが立っていた。

いつ移動したか俺しか理解出来なかっただろう。


丸太が急に中央が切れて、2つに分かれたのだ。


「おじさんには、異常はありません」と男が叫んでいた。


「凄いわ。これなら行けるわ。もう1つもやってみて」



俺が言ったように大きな岩が置かれている。


掃除のおじさんが「これを切れって・・・」と担当の男と話中だ。



担当の男が手を振った。


それも一瞬だった。岩が中央部分が消失して、石のはしっこが転がっているだけだった。


「石が消失するなんて・・・田中君、急いで防衛大臣に連絡を・・・」


「かしこまりました」


スマホで連絡をしてるようだ。



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