第63話無スキル




学園からやって来たのは、2人だけとは・・・

学園側は本気で考えてるのか・・・もう疑問だらけだ。

もしかして、講師を使って学園を乗っ取られないか警戒してるのか・・・そんなバカな。


折角のスキル講師の育成なのに・・・それも村の関係者だよ。


高田健一たかだけんいち 64歳】


スキル

力アップ



神田奈菜かんだなな 17歳】


スキル

力アップ



高田のじいさんは、なんとなく事情は分かる気がする。


「いい年して探索者ゴッコを何時いつまでしてるんだい」と村の老人に言われてた。


じいさんも老人には、敵わないからな。

じいさんのオシメを変えた叔母が、今も健在だ。



それに対して神田奈菜は、神田じいさんに説得されたと俺は感じたな。

孫の2人が可愛いんだ。


今、着てるジャージはブランド物だ。

なんと鑑定では、6万800円って・・・今、俺が着てるジャージは、2980円だぞ。


「お前、最近になって自動車教習所へ行ってるらしいな」


「行ってるわ・・・何か問題でもある。兄が乗り回してるの見たら欲しくなって・・・それよりイサム、こんどは何を教えてくれるの」


歳が近いからってタメ口だよ。



「いいか、身体強化をもっと効率的に上げる方法だ。それが新しい生徒に教え込むのが講師の務めでもある」


「わかった」


え!分かったの。



2人には、体を触っての魔力循環の手助けだ。


「やめて!気持ちが良過ぎよ」


サッと手を離した。


「え!何してるのよ。やめないで」


「どっちなんだよ」


「まだまだ循環が慣れなくて・・・」


高田のじいさんは、理解したと1人で瞑想しながら魔力循環をしてるのに・・・



「まだまだダメよ、あと少しで分かりそうな気がする」


おかしいな・・・俺には手応えがあるのに・・・個人差があるのか・・・


結局、1時間も魔力循環をやらされたよ。


「折角、気分がいいのに・・・」


魔力循環は、魔法士だけに教えた準備運動みたいなものだ。

これをマスターしないと先に進めない。




もう、次の段階に行ってもいいうだろう。

俺は、バッグからナイフを取り出して2人に手渡した。


「え!なぜナイフを・・・」


「今から俺の行動を見ていろ」


ナイフで自分の指をサッと切った。

すると鮮血が滴り落ちるのを見せる。


「なにするの!」


「そうだよ。ストレスでも溜まったのか」


「いいかい。自分自身の魔力で指を治すんだ。ホラ!もう治った」


俺の指を触りまくって「嘘!本当に治ってる」


「そんな事ができるなんて・・・」


もう高田のじいさんもビックリしてるぞ。



俺は、魔力での回復の仕組みについ、ていねいに説明してやった。


「細胞を活性化するって言ってもねぇー」


「何をやってる。早く指を切らないか」


「ちょっと待ってよ。心の準備が・・・」


「ホラ!高田のじいさんは、もう切ったぞ」


そうなのだ。高田のじいさんは切った指をにらみつけていた。

それなのに奈菜は、持ったナイフをぶるぶるとふるわすだけだ。


「俺が切ってやろうか」


「え!よしてよ」


その時だ。


「治ったぞ。見てくれ」


「本当に治ってますね。よく頑張りました」


気を良くした高田のじいさんは、手に持ったナイフで奈菜の指を切っていた。


「ギャー!人殺しよ。何をしてるのよ。このクソじじい!」


俺もビックリだよ。


そんな騒ぐ奈菜を捕まえて「さあ!切れた指に集中して」

まだ震える体が伝わってきたが「さあ、頑張ろう」


諦めたように指に集中をするようになったぞ。

俺の鑑定が細胞の活性を知らせてきた。


「あ!治った。本当に治ってる・・・信じられない」


もう何度も切って治す事を繰り返した。


もう十分だと思った俺は、2人の手を握って『癒しの光』を発動。


2人とも信じられないように、何度も何度も手を見てた。


「前よりキレイになってるわ。見て見て、右手より左手の肌つやが全然違うわ」


鋭く俺の方を見た。


「もしかしたら、全身にその光を浴びたらキレイになるかも」


「いやいや遊びじゃないんだから・・・次のステップにゆくぞ」


「・・・・・・」


「そのステップで高田さんより早くできたら、褒美として癒しの光をして下さい」


なんだよ後半の『して下さい』の言葉は・・・


「まあ良いだろう。高田さん、あんな事を言ってますよ。負けたらダメですからね」


「分かってますよ・・・だてに歳はとってませんよ」


じいさんの目が光ったような・・・



「2人は、力アップのスキル覚醒者だ。素早さもアップしたいとは思わないかな」


「そりゃーないより、あった方がいいに決まってるわ」


「その素早さを、無魔法を使って体に一時的に強化する方法を伝授しよう」


「本当ですか」


「わたしに出来るでしょうか」


「失敗しても減るものでもないので気楽にやりましょう」


ここは緊張させたら失敗するから落ち着かせよう。


「魔力循環をやったね。今度は神経と筋肉に同時に循環させてくれ。イメージとして神経伝達を速くする感じと筋肉がすぐに反応するイメージがいいだろう」


30分が経過。1時間が経過した時だ。


「やったぞ!できたぞ!」


高田のじいさんが、ダンジョン内の空間を素早い動きで走りだしている。

目にも止まらない動きだ。


「わたしの負けなのね。なんで・・・」


ガクッとうな垂れる奈菜が居た。



その奈菜もマスターすると走り回ってる。


「もういい加減しないか!!」


俺が止めなかったまだまだ走り続けただろう。



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