異世界へ行って帰って来た

@katuniro

第1話神須ダンジョン




世界各国にダンジョンが出現して、5年が過ぎようとしてた。




記者会見場では、大勢の記者やカメラマンがいる中で、司会者が話し出した。


「皆さん、質疑応答は後ほどしますので、伊佐美いさみ先生の発表をお聴きください」


フラッシュが一斉に光った。


「皆さんもご存知のとおりに、ダンジョンの魔物からドロップする魔石を研究してきました。その結果、電気を取り出す事に成功しました。今後、日本はエネルギーで他国に頼らなくてもよい国となるでしょう」


会場全体が騒がしくなった。


「皆さんお静かにお願いします。仔細しさいな資料は後ほど配ります」



そんな発表があった数日後には、自動車会社から魔石を使った電気自動車が発表された。

その魔石電池は急速充電は当たり前で、1回の充電で走行距離が500キロに及んだ。

そして劣化のない電池としても証明された。


そして新たな電気会社が、企業や家庭に魔石による電気供給すると発表された。

工場には複数の魔石電池が置かれ、家庭に1台の魔石電池が当たり前の時代になった。




それは18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命のように、魔石革命が世界を制覇せいはした。


それが切っ掛けになって、ダンジョンで生計を立てる探索者が現れた。

企業や人間が魔石を求めたからだ。

各国は、探索者を取りまとめるギルドを設立した。

それにともない、ダンジョン法の法案が可決する切っ掛けとなった。



- - - - - - - - - - - 




神須かみすダンジョンの1階で、ゴブリン相手に戦っていた。


身長140なのに、大人と変わらない力で錆びた剣で振りかざしてきた。

剣を上手くかわして、刃渡り20センチのナイフで首をかき切った。

緑の血を流しながら倒れた。


俺は、5体のゴブリンを眺めている。

もうすぐゴブリンはダンジョンに吸収されて、魔石をドロップするはずだ。

1体が消えて魔石を手に入れた。最後の5体目で魔石とゴブリンの指輪を発見した。


ゴブリンの指輪か・・・1年ぶりのドロップだ。

この指輪は、力をアップさせる効果があった。俺の左指にも同じ物がある。

結構良い指輪だ。

俺が手に入れた時は、相場は200万円で取引きされてたが・・・果たして今は、いくらぐらいの値になっているだろうか。



今日は帰るか・・・なれたダンジョンだ。

ゴブリンが居ない道でサッサと帰った。

階段を駆け上がると、神須かみすギルド支部は目の前だ。




「おばさん、これを換金してくれるかな」


「あら、今日は早いね。何かあったのかい」


「ゴブリンの指輪がドロップしたから、早めにオークションに出品しようと切り上げただけだよ」


「久しぶりにドロップかい、ちょっと待っててくれるかい・・・何々、最近の相場は341万で落札されてるね」


これは思っていたより高い値段だな。


だから急いで指輪と魔石をテーブルに置いた。

牧田まきたのおばさんは、大事そうに指輪を装置に置いてスイッチを入れた。

自動で写真を撮ったり重さや大きさをも測ってくれる装置だ。


「傷は無いみたいだね。案外高く落札されるかも知れないね」


そんな事を言いながら、魔石を数えていた。


「今日は30個で3万円だよ」


ギルドカードを差し出すと、カードリーダーで読み取られて入金された。


「オークションは月初めだから、10日後だね。・・・大事な事を忘れていたわ。ギルド研究所からタカじいさんの指輪が、ようやく返って来たわよ」


弁護士を雇って、1年間の交渉でようやく手にする事ができるのか・・・

後ろの金庫が開けられて、箱を取り出して渡してきた。


箱を開けると、ギルド研究所の研究対象と同じ指輪があった。

結局、指輪の効力も分からないまま放置された物だ。




この神須ダンジョンは、神須神社があった所だ。


神須村では、珍しい祭事【神渡り】の最中に起きた。

1年間も見つからなかったダンジョンから、ゴブリンが大勢あふれ出したのが原因だ。

後で分かった事だが、1年間ダンジョンを放置すると魔物があふれ出て来るのだ。


それでも村の被害は数名に終わった。


それには訳があった。

俺のじいさんが奮闘したのだ。

それは取材に来ていたカメラマンが撮っていた。


剣道の達人だったじいさんは、ゴブリンから剣を奪って戦い続けた。

しかし体力の限界だ。最後のゴブリンと相打ちになって倒れた。


救急車で病院へ運ばれる途中で息を引き取った。

俺は救急車の中で泣き崩れた事を今も忘れていない。

その時にドロップした剣と指輪があった。


まだダンジョン法が無かった。5年前の事だ。

だから政府が勝手に取得してしまった。


その時の剣が、トップランカーの手に渡り今も現役で頑張っている。

その剣の名は、【カミス】だ。


最初にダンジョン攻略に挑むと、激レアが出るのは有名だ。

その後のダンジョン法で、ドロップした品は倒した者の物で、死んだ場合も遺族に手渡される法になった。


だからダンジョン法の前の出来事でも、政府の行いに納得出来なかった。

ダンジョン出現から10年も経過した。

俺も20歳になっていた。だから弁護士に相談した。


剣は無理だが指輪は取り返せると、弁護士は確約した。

剣は金で賠償されるだろうと、弁護士の予想だった。

なのでその賠償の2割りを弁護費用とする事で、かさむ弁護費用とした。


親父も了承した。代わりに指輪は、俺がもらう事になった。

賠償額は、1億2千万だ。


もう親父は、神須村を出て5年だ。

だからじいさんの家は、俺が引き継いだ。




俺は出された書類にサインした。

おばさんに別れを告げて、ギルド支部を出た。


ギルド支部の横の石に向かってつぶやいた。


「じいちゃん、ようやく手にいれたよ」


石には、じいさんを称える言葉が書かれていた。


「神須健吾の勇気を称える」



しばらく歩くと鳥居とりいが見えてきた。

この鳥居だけが壊されずに残っていた。

神須神社は全焼して、その面影さえなかった。



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