第40話「激ファイト! アルミラージ VS ラピットタイガー」
”畜生め!
ラビッツの演奏中、聴衆が叫んだ言葉
大人たちの目が嫌いだった。
「まだ子供だな」
自分達が情熱をもって語る時、しょうがないやつだと苦笑する目。
蔑むでもなく、笑いものにするでもなく。
お前の好きな物は低級なものだから、早く大人になって
でももし……。大好きな歌手たちが、大好きな歌で、
出来ないのは分かっている。大人の事情があるってもう知っている。
その出来ない事を誰かがやってくれたら。
それはきっと……、とっても気持ちがいい!
今彼は空を見上げている。夜空を翔ぶウサギたちを。
自分達を馬鹿にしていたあちら側のやつらも、みんなみんな声援を送っている。
気持ちいい!
「あちら側の奴ら! お前らは空を飛んだか!?
ナードたちは叫んで叫んで、叫んだ。しわがれ声になるまで。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『お疲れさん。正直君がいないとダメだったかもな』
飛行するロボットの背で、大言壮語のスパイトフルが、珍しく弱音を吐いた。
放送を終えた〔アルミラージ〕は北西地区の工場街に着陸を試みていた。
『そんな、私の方が何度もサイレンにミスを助けられました』
無線越しに恐縮するオリガ、いや、今日はナイトサイレンと呼ぶべきだろう。
どうやら歌手としての彼女も、学びあるステージだったようだ。
『いいえ、全部私が歌ってたら、さすがに限界だったわ。サポートがいてくれて良かった』
不安定な足場でMCをこなしつつ、延々と歌い続けるのは、さぞ体力を削られた事だろう。
それでも2人は満足げだ。
『また一緒に歌いましょう!』
『はいっ!』
あとは協力者の工場で〔アルミラージ〕を分解し、検問が敷かれる前に脱出すれば、まるで彼らが消えたように見えるだろう。まるで手品のように。
『さて、どうやら物語は感動で終わらねぇみたいだな。怖い人達がいるぜ』
眼下にはロボットが3体。
が、検閲官も警官隊もいない。バルーンによる陽動に引っかかって機動力のあるロボット以外追いつけなかったようだ。
ロボットを全力疾走させ続けたらパウダーの消費は激しい。コアの負荷も大きい筈だ。よって、お得意の持久戦が行えない。双方が短期決戦を目指す事になる。
自ら吐き出した蒸気の中から、〔アルミラージ〕が姿を現す。
公園に集っていた人々は、狂ったように歓声を上げた。
『ゴンドラを降ろすから、群衆に紛れてくれ!』
取り囲む3体のロボットが様子をうかがっているうち、〔アルミラージ〕はゆっくりと腰を屈めた。
2人の歌姫が、狂乱の中駆け出してゆく。
それを、〔アルミラージ〕の背中で見守った。
『スパイトフル、どうやらあの〔タイガーモス〕、3体とも改造機だよ?』
回収班の指揮を執っていたピンヘッドから通信が入る。
戦闘中に彼から連絡が入ったと言う事は、何か技術的な問題が発生したと言う事だ。
『改造機? コアでもブーストしてんのか?』
『それは分からないけど、装甲が肉抜きしてあるから、軽量化タイプだと思う』
『まあ、やってみるさ!』
何だか模型みたいな話だが、敵は強い方が観衆が盛り上がる。
かと言って負ければ意味が無いが。
「〔ラピットタイガー〕! アームネット!」
2体の〔タイガーモス〕――〔ラピットタイガー〕と言うらしいが――の掌から、蒸気圧でネットが射出される。どうやら、足元に人がいる状況を予想して、この武器を選択したようだ。
「〔アルミラージ〕! 後ろに飛んでかわせ!」
背中に乗ったままアンテナにコマンドを撃ち込む。
『スパイトフル! 大丈夫!?』
衝撃でよろけるが何とか立ち直る。通信機越しのピンヘッドも余裕がない。
が、こちらとしては手ごたえも感じていた。
『こいつら、軽すぎて攻撃に重みがない。パワーで叩きのめせば――』
通信は打ち切られた。
一発の魔法弾がスパイトフルの顔面をかすめたからだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『こんばんは、怪盗さん。メインディッシュに呼んでらえないなんて酷いんじゃない?』
少女探偵スーファ・シャリエールは、通信機に語り掛けた。挑発するように。肩付けしたライフルの照準は、ひと時も外さない。
始めは拳銃一挺で突撃するつもりだったが、恐らく烏丸が手を回してくれたのだろう。ロボットが間に合ったのが効いた。
『いやあ、ちゃんと場を温めておいただろう? 大体君、物言いがオレに似て――』
二発目の射撃。
使用する魔法はただの【
「お姉さま! 右上に15度です!」
双眼鏡を覗き込みながらクロエがアシストをしてくれる。
自分の攻撃で仕留められなくてもいい。こうやって注意を逸らし続けていれば、あとは
『やれやれ、一応聞くけどさぁ。オレたちを使って検閲官を掣肘する腹積もりは?』
本人も期待していない口ぶりなので、はっきり言ってやった。
『これだけ世間を引っ掻き回してくれたんならもう十分でしょ? あとは世論が引き継ぐわ』
『はっはっは、相変わらず君は――』
第3射、これも外れたが、スパイトフルは上体を崩す。
それにつけこんで、〔ラピットタイガー〕が〔アルミラージ〕の角を掴んで折ろうとする。その腕を〔アルミラージ〕が取ろうとするが、途中で停止する。背中のスパイトフルがスーファの第4射を受けてコマンドを撃ち込み損ねたからだ。
『あまり余裕がなさそうね。それにこれくらいで倒れる様な組織に、今後私の目を欺けるとは思えない。引導をわたしてあげる』
再び照準器に視線を合わせる。これで終わり……。
『じゃあ、その
刹那、照準器の先が、白く染まった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
まずは1体を潰す。
今の苦境は、3体のロボットと狙撃。複数の敵が連携してこちらの動きを奪っている事にある。
なら、数を減らせばいい。
正直、お披露目はもう少し後にしたかったが。
「〔アルミラージ〕! 【ハンマーダート】だ!」
鋼鉄の兎は、応答するように蒸気を吐き出した。
その籠手がせり上がり、中から1本の杭が現れる。これがロボット殺しの矢、ハンマーダートだ。
突撃した〔ラピットタイガー〕が、〔アルミラージ〕と交差する。
ガキン! と甲高い金属音と共に、すれ違いざま撃ち込まれたのはディファイアント鋼の杭。〔ラピットタイガー〕がそれでも敵に組みつこうと、緩慢な動きで両手を振り上げた時――。
「【
スパイトフルが叫ぶ。瞬間〔タイガーモス〕が
心臓を失った下半身が、ゆっくりと公園にその身を横たえる。
見物人たちも、あんぐりと口を開けて墓標と化した両足を見つめている。
ハンマーダート、
その芯の部分には高純度の
「ついでに探偵さん、ちょっと大人しくしてもらおうか。〔アルミラージ〕! コアを強制冷却!」
両肩のスリットから濁流のように蒸気が流れ出した。コアを強制冷却した氷魔法が蒸発したものだ。
白く濁った視界では、狙撃は無理だ。自分なら風魔法で吹き飛ばす事を考えるが、その
蒸気を逃れて後ずさりする〔ラピットタイガー〕を追い、頭部を掴む。そのまま反動をつけて引き抜いた。
あと一体!
「〔アルミラージ〕! 後ろだ!」
背中越しに殴りつけてくる〔ラピットタイガー〕に、引き抜いた頭を投げつける。
ひるんだ敵に、振り返りざまのパンチを見舞う。
角が折れ、ひしゃげた頭では
戦場には3つの残骸と、興奮する群衆があった。敏い探偵さんは、既に車を取りに走り出している。おお怖い怖い。
「それでは本日の出し物は終了でーす。当イベントは一度きりのお祭りです。次回開催予定はありません。悪い人がまた弱い者虐めしたら分からないけどね。わはははっ!」
頼むから第2回などやることにならないでくれよ。本気でそう思う。
「〔アルミラージ〕! 探偵さんを振り切って予定の場所へ」
しゅっ、と。返事をするように〔アルミラージ〕が蒸気を吐き出す。
どんどん集まってくる工場街の人々は、皆彼の背に手を振る。
「……お前は最新技術で生まれたのに、こんな事に巻き込んで済まないな」
何ともなしに呟いたとき、〔アルミラージ〕がしゅっと小さく蒸気を吐いた。
一瞬驚いてしまう。こいつとは開発の頃から付き合っている。時々本当に意志があるのでは? そう思う程に。
「今日は、皆で体を洗ってやるぞ。楽しみにしろよ」
吐き出された蒸気は、ただ冷却の為だったろうか? 喜んでくれているというのは、持ち主の欲目だろうか?
ふと、〔ラピットタイガー〕の残骸を思い浮かべる。彼らも、帰還できていれば体を洗ってくれる者がいただろう。
『野蛮な行為だな。これは』
そんな言葉が自然と出たことに、自分でも驚いた。
自分は信じると言いながら、暴力を使ってロボットを破壊したのだ。
良い事ではない。
彼は気づかない。無線のスイッチを入れたままにしたことも。
青髪の少女がそれを拾っていたことも。
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