第4-3便:思い当たる出来事
一方、そんな私の姿を見てディックくんは少し頭を抱えている。
「っっっ……。人が良すぎるというか、シルフィは誰かを疑うということをしないのだな。まぁ、それはキミの長所でもあるのだが」
「てはは、ごめん……。でも第三者の関与って言われても、怪しい人は船に乗ってなかったと思うんだよね」
あの時、『グランドリバー号』に乗っていたのは私と社長、ルティスさん、クロード。あとはミーリアさんや審査担当者さんたちしかいない。
ソレイユ水運の関係者は除外するとしても、ミーリアさんを含めた審査担当者さんたちだって何か怪しい動きをしていれば誰かが気付くはず。特に注意力や勘の鋭い社長やルティスさんが、そういうことを見逃すとも思えない。
船外から魔法を使うにしても有効効果範囲と持続時間の関係で、その術者は船との距離が離れすぎないように移動し続けなければいけない。もっとも、もし魔法が作用していたなら
そんな感じで怪しい人物が誰も思い浮かばず私が眉を曇らせていると、ディックくんはさらに言葉を続ける。
「対象となるのは運航中だけとは限らないぞ。実務審査開始の少し前から問題が発生するまでの全てだ。その間にいつもと変わった点があったとか、気になったこととか、ほんのちょっとしたことでもいい。何か思い当たることはなかったか?」
「思い当たることかぁ……」
私はもう一度、あの時のことを思い出してみることにする。
でもやっぱり運航中に関しては、誰かに何かをされたとはどうしても思えない。だからこそ、私が何かを見落として魔導エンジンに不具合が起きたと考えていたわけだから。
とすると、何かがあったとしたら実務審査が始まる直前から翌日にブライトポートの発着場を出航するまでということになる。
さらにそのうち往路の航行中も誰かの目があるから、残るのはブライトポートの発着場に到着してから出航するまでの間か……。
あの時は桟橋に船を停泊させたあと、社長たちと一緒に宿へ移動した。それでレストランへ行くことになって、ミーリアさんと通路で会って、外へ出たら発着場の前を――。
「あっ……」
私は思わず小さく声を漏らした。あの日の夜、発着場から出てきた人影のことを思い出したから。
夜目が利くクロードの証言によると、その人影の正体はライルくん。ただ、ルーンの社員である彼があの場所にいたとしてもおかしくはないし、それだけで犯行を疑うのは根拠として弱い。
なにより私の個人的な意見だけど、彼が船に細工をしたとは思えない。ライルくんは絶対にそんなことをする人じゃないから。それは自信を持って言い切れる。
むしろレストランへ向かってから朝になるまで、私たちソレイユの関係者全員が『グランドリバー号』から目を離していたわけで、その間に誰かが何かをしたと考える方がまだ納得がいく。
「シルフィ、何か思い出したのか?」
眉間にシワを寄せて考え込んでいたからか、ディックくんが訝しげな顔でこちらを
どうしよう? 発着場でライルくんを見かけたということを話すべきか?
でも彼はきっとこの件と関係ないと思うし、あらぬ疑いを掛けるのは当人の迷惑にもなる。新たなトラブルの火種にもなりかねない。
――と、その時、ディックくんが私の肩をポンと優しく叩いて見つめてくる。
「ひとりで抱え込まず、話してみてくれ。俺でも何か気付く点があるかもしれないだろう」
「……分かった」
ディックくんの真剣な表情と強い想いを受け、私はあの時の出来事を打ち明けることにした。
言葉が口を
そして私が事情を話し終えると、彼は大きく息を呑んで身を乗り出してくる。
「シルフィ、それは重要な手掛かりじゃないか! ライルが船に細工をしたんじゃないのか?」
「ううん、それはあり得ないよ。ライルくんがそんなことをするとは思えない」
「なぜだ? アイツには機械に細工が出来る技術がある。しかもライバル会社の社員であって、シルフィやソレイユ水運を
「不自然だよッ!」
「っ!?」
即座に私が語気を荒げて言い放つと、ディックくんはビクッと体を震わせた。そして目を丸くしながらたじろいでいる。おそらくここまで私に強く否定されるとは思っていなかったんだと思う。
でも私にはライルくんが無実であると信じられる根拠がある。
「ライルくんは魔術整備師という仕事に誇りを持っているし、魔導エンジンや機械に対して私以上に情熱がある。そんな人が自分の手で機械に不具合を起こさせるなんて絶対にあり得ない。それは自分の信念ややってきたことへの否定になるから」
「う……うーむ……。シルフィの意見には説得力があるが、もしライルが誰かに人質のようなものを取られていたとしたらどうだ? 例えば、要求を呑まなければ家族の命を奪うと
それを聞いて私は一瞬、言葉が出なくなってしまった。確かにディックくんの意見にも一理あるから。
(つづく……)
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