第4-2便:万事休す!? 魔導エンジンの停止!

 

 そのあとは順調に船が進み、とうとうリバーポリス市の街灯りが視界に入るようになってくる。つまり左岸渡船場が近いということだ。もっとも、それだけ近付けば岸や停泊しているほかの船などと接触する危険性が高まるから、それはそれで注意しないといけない。



 ディックくん、もう少しだよ。もう少しだけ頑張って。



 私は心の中で祈りつつ、操船を続ける。そして操舵輪を握る手に力を入れようと意識した瞬間――


「……っ!」


 突然、私は全身から力が抜け、激しい目まいがした。まるで魂が抜け出ていったかのような感覚。足がふらついて倒れそうになったけど、必死にバランスを取ってそれを回避する。


 さすがに疲れが出たのかな……。


 そう思ったのも束の間、ここで新たなトラブルが発生する。なんと魔導エンジンが停止してしまったのだ。うんともすんとも言わない。ただ、私はすぐにその原因に気付くこととなる。


「私の……魔法力が……」


 そう、とうとう私の魔法力が尽きてしまったのだ。エネルギー源が失われてしまっては、魔導エンジンが動くはずもない。またしても船は上流側へ押し戻され始め、せっかく近付いたリバーポリス市が少しずつ離れていく。


「っく! なんでっ! なんでよぉっ! ここまで来たのにっ! あと少しだったのにっ!」


 私は自分の無力さと理不尽な運命を突きつけた神様に激高し、操舵輪を拳で叩いていた。気持ちを抑えきれなかったのだ。


 こんなことなら私たちに希望を与えるようなことをしないでほしいッ! 目的達成の寸前で絶望に突き落とすなんてあんまりだっ!


 私は奥歯を強く噛みしめる。自然と涙が溢れ、頬を伝ってポトリと床に落ちる。


 ちなみにもし流木がスクリューに絡むアクシデントがなければ点検魔法を使わずに済み、その分の魔法力で渡船場まで辿り着けていたと思う。押し戻されるロスもなかったからなおさらだ。


 でもあの時、点検魔法を使わなかったら船が止まった原因が分からず、上流へ流されるままになっていた。ゆえに必要な魔法だったのは間違いない。事前に魔法力回復薬が用意できていれば……。


「何があったんだ、シルフィ!」


 直後、船や私の様子がおかしいことに気付き、船首からクロードがやってくる。そして私が泣いているのを見ると、大きく息を呑む。


 状況が分からないんだから当然だよね……。


「クロード、私の魔法力が尽きちゃった……。もう魔導エンジンを動かせない……」


「なんだそんなことか……。諦めるのは早いぞ、シルフィ! まだなんとかなる!」


「えっ?」


「オイラの魔法力を使え! 本当はオイラが魔導エンジンへ直接魔法力を送り込んだ方がいいんだろうが、それだと加減が分からない。だからオイラの魔法力をシルフィに送る。ロスは発生するが、あと少しは船を動かせるはずだ」


「クロード……。そっか、その手があったか!」


 暗闇を切り裂くような一筋の光。ピンチの打開策が見え、私の心に再び希望が宿る。


 確かにそれなら魔導エンジンを動かすことが出来る。ただ、クロードの最大魔法容量は私の数分の一くらいしかないはずだから、すぐに限界が来ちゃうだろうけど。


 でも街が目の前に見えている今の状況ならそれで充分。きっと渡船場まで辿り着ける。


 やっぱりどんな時も冷静さを失ってはダメだ。冷静に考えて、考えて、考え抜いて、最後の最後まで決して諦めてはいけないんだ。


「クロード、来てっ! 私の肩に!」


「おうっ!」


 クロードは全速力で私の体を這い上がり、肩の上に鎮座する。陸にいる時はこのスタイルでいることが多いけど、操船している時にこうするのは初めてかもしれない。なんだか新鮮。


「クロード、魔法力を送って」


「任せろっ!」


 程なく肩の上に彼の体温とは別の温かさが広がり、私の体に魔法力が流れ込んでくる。干ばつで乾ききった畑の上に水が染みこんでいくような感覚っていうのかな? 潤され、清々しくてさわやかな気持ちが広がる。


 うん、徐々に私の魔法力が回復していく! これなら魔導エンジンを動かせる!!

 私は操舵輪と動力ハンドルを握り、魔法力を送り込んでいく。これで再びスクリューも動くはず――




 …………。


 ……………………。


 ……えっ?


 手応えのなさを感じ、私の心に動揺が走った。間違いなく魔法力は魔導エンジンに流れ込んでいるのに、なぜか動かない。




 まさかまた何かのトラブルっ?


 でも今は点検魔法を使えるほど魔法力に余裕はない。そうなるとあとは物理的に原因を突き止めるしかない。今回は不幸中の幸いというか、反応がないのは魔導エンジンだというのが分かっているから、そこを確認すれば何かが分かるはずだけど……。


 私はクロードを床に下ろし、操舵席の下にある機械室の扉を開けた。


 すると途端に中から外へ熱風が吹き出し、焦げ臭さと機械油臭さが周囲に広がる。機械室内はまるでサウナ。その瞬間、私はエンジンの状態を悟る。


「オーバーヒートしてる……」


 無理な使用方法が災いしたのか、あるいはどこかに異常が生じていたのか、それとも魔法力を直接送り込んで動かすのは負担が大きかったのか。そもそも私の制御が完璧じゃなかった可能性もある。


 詳細は分からないけど、エンジンが過熱して不具合が起きているのは間違いなかった。



(つづく……)

 

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