第18話 始まりの友
気が遠くなるほど昔、と形容するにはあまりにも鮮明に、その時の事はよく覚えている。
それは私、アルクアード・ブラッドバーンが伯爵の友となり、男爵位を授かって約二十数年後の事だった。
「私を……ヴァンパイアにしてくれないか。」
目の前の男、初代ロチェスター伯爵、アーサー・ロチェスターは三百年前、私にそう言った。
「何を馬鹿なことを……。」
「よくよく考えたうえでのことだ。」
この、私にできた初めての親友であり、そしてたった一人の友達でもある彼の冗談なのかと思った。しかし、彼の目はいたって真面目だった。
「私は君と、二十年近く共に過ごしてきた。」
彼は、遠い目をしながら語りだした。
「ヴァンパイアとは、人に仇為すような存在ではない。私が今、ここにこうしているのがその証拠だ。つまり私がヴァンパイアになっても、息子たちに危害を加えるような事にはならないだろう。」
「まあ……それはそうだが。」
「もちろん、私が永遠の命を手に入れれば、この島を未来永劫見守っていくことが出来る。その安心に勝るものは無い、と言うのは、先ほど言った通りだ。しかし、それだけではない。」
アーサーは言った。
「君のように未来永劫生きるような存在が、この土地を治めていくべきではないか」と。
しかし、それ以外に、彼に何があるというのだろうか。
「君だよ、アルクアード。」
「私?」
アーサーは、優しく微笑みかけながら私を指さした。
「ああ。未来永劫生きる。否応なく。そんな宿命を負っているのが君だけだなんて。そんなの、この先何十年後、何百年後に、正気を保っていられるとは到底思えん。」
アーサーは、私にそんな言葉を吐いた。
******
アーサーとの出会いは、前述の通り、その二十数年前の事だ。
彼と出会う前。私は、一人だった。
物心ついた時からヴァンパイアだった私は、たった一人で、この島で隠れて生きて来た。幸い誰が建てたか分からないが、森の奥に立派な屋敷があったので、そこで暮らしていた。勿論、廃墟同然ではあったが、雨風を凌ぐのには十分だった。森の外に出る事もあったが、たまに島の人間に目撃されれば、その度に、私の真っ赤な瞳を見た住人から化け物と呼ばれ、石を投げつけられたりしたので、森の奥から徐々に出なくなっていった。
そんな事が、何十年続いただろう。
ある時、大陸から大勢の人間が島を渡って来た。島は騒がしくなり、にぎやかになり、そして、道が整備され、沢山の建物が立ち並ぶようになった。私はその様子を、人目につかないところから遠巻きに眺めていた。
(この森にも、いつか人の手が及ぶかもしれない。)
私は不安になったが、そんなときは決まって、私は屋敷の更に奥深くにある、名前も知らない赤い花の群生地に足を踏み入れた。そこは、一面真っ赤な花が咲き乱れており、何故か、その周辺には、動物はおろか、高い樹木などは育たない不思議な空間だった。美しい月明かりに照らされて、その幻想的な血の海に沈んで、身を漂わせると、不思議と心が落ち着くのであった。
そんなある日、私の不安は的中した。
ある時、その群生地に赴くと、甲冑を身に着けた、数人の男たちが、その花畑の周辺で倒れていたのだ。
ついに人の手がここにも及んだか。
私はそう思ったが、ひとまずそれどころでは無かった。
近づいて男たちの様子を見る。
残念ながら全員、既に息をしていなかった。
彼らをどうしようか。
残念ながら私には島に知り合いは居ない。昔私を化け物と罵り、石を投げつけて来た人間も、もう生きてはいまい。あれですらもう数十年前の出来事だ。
最近の様子からして、この島に開拓の手が及んできているのは明らかだった。とすれば、この人間たちは、それなりの身分のある人間から、探索、或いは開拓を命じられた人間だろう。行方不明になったとあらば、再び捜索の手が及ぶのは間違いなさそうだ。
(困ったことになった。)
私が思ったその時、背後で気配がした。
「誰だ!」
私が叫ぶと、一人の男が、木に寄りかかりながら、苦しそうに立っていた。男は、私の顔を見て少し驚いたようだったが、その感情を表に出すことが出来ない程弱っていたらしく、その場で気を失った。
それが、私とアーサー・ロチェスターの出会いだった。
私は、彼を屋敷に連れ帰った。
甲冑を脱がせ、ボロボロのベッドに横たわらせる。
しかし、彼の容体は一向に良くならず、苦しそうにうめき声をあげていた。その横でしばし途方に暮れていたが、私はあることを思い出した。
この屋敷には、かつて、私以外のヴァンパイアか、或いはその研究者でも住んでいたのか、ヴァンパイアに関する文献がいくつか書物として残っていた。触ってしまうだけでボロボロと崩れてしまうものや、雨風にさらされてしまい、もはや解読不可能なものばかりだったし、そもそもそんな古文書のような存在に興味が無かったので放置していたが、その中で、比較的新しく、読めるものがあったので、暇つぶしに読んだことがあったのだ。
それは毒の花の話だった。
あの時は誰かの創作話だと思っていたが、この状況を見るにそうでもないらしい。
(あの紙の束が入っていたのは、確か……。)
私は、別の部屋に行き、片足を失い斜めに倒れかけた机の引き出しを開けた。
そこには、あの時よりもいささか黄ばんではいたが、まだ十分原型をとどめていた紙が積み重なって入っていた。
直ぐに、その紙の束を取り出し、解読を始める。
やはり、形、香り、生息条件など、調べれば調べるほどあの赤い花の事であった。
その花は、名を『ロチェスト』と言うようであった。
『大量に花粉を吸いこむと、幻覚を見て死に至る。』
そこには更にそう書かれていた。
きっとあの彼は、死の花畑からは少し離れていたため、他の共のものよりも症状が軽かったのだろう。
しかし、容体が回復しそうな気配はなく、このままにしては置けない。
私は更に解読を進める。すると、強く丸で囲ってある、三つの記述を目にした。
『ロチェストの花は、フィルマの花と対になる存在。共にこの島の東端と西端に群生している。』
『ロチェストの色も、香りも、そして毒も、全てはフィルマによって無に帰る』
そこには、こう書かれていた。
つまり、フィルマの花、とやらが、どうやら解毒になるらしい。しかし、この森をほとんど出たことのない私ではあるが、この屋敷に残されていた地図によると、ここは島の東端。西端まで行って、フィルマの花とやらを取ってくるのは無理がある。
しかし、最後の一つにはこう記されていた。
『フィルマの花の原液のサンプルを、ここに保管する』
(なんだって!?)
私は慌てて、引き出しの奥をまさぐった。すると、奥の方で、小さな革袋が手に当たった。
それを取り出し、中を開いてみる。そこには、液体の入った、親指ほどの小瓶が入っていた。
(これが、フィルマの花……。)
いつの物なのかも分からない。下手をしたらかなりの年代物だろう。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。幸い、密封されていたためか、おかしな臭いや色は無く、瓶の埃さえ払えば、瓶越しに向こう側が見えるほど透き通ってみえる状態だった。
私は、急いで、その液体を彼に飲ませた。
すると、ほんの数分で、彼の苦しそうな表情は消え、替えのうめきはすうすうと安らかな寝息に変化していた。
どうやら、解毒は成功したようだった。
どこの誰かは知らないが、昔のこの屋敷の持ち主に感謝である。
翌日、目を覚ました彼に、私は事の顛末を説明した。
私が、ずっとこの森で隠れて生きて来たヴァンパイアであること。
最近になって、この島が騒がしくなってきたこと。
森で咲く、死の花の事。そこで、彼の共の者たちはみんな亡くなっていた事。
助けられた相手が伝説の化け物だったのだ。彼はご多分に漏れず、私の真っ赤な瞳に驚き、盛大に取り乱した。しかし、徐々に冷静さを取り戻した彼は、溢れんばかりの感謝の念を口にした。そして私の話を真剣に聞いてくれた。
そして今度は、彼が、自分の事を話して聞かせてくれた。
彼は、アーサー・ロチェスター伯爵、と名乗った。
伯爵なんて、なかなか大層な肩書きであったが、実は彼は大陸の下級貴族の出だった。国王から拝命を受け、このアトエクリフ島の開拓をする代わりに伯爵という高い位を授かった、と言うことらしい。聞けば、大陸では、この島は「呪われた島」と呼ばれており、大昔から、流刑地として使用されて来たとのこと。そこで、貴族の中でも下っ端の彼が、爵位を餌に汚れ仕事を背負わされた、と言うことだった。
「そうか。噂には聞いていたが、本当だったとは……。」
ひとしきり話し終えた後で彼はそう言ったが、果たして、ヴァンパイアの事と、死の花の事。どちらを指しての言葉だったのだろうか。あるいは両方かもしれないが。
「助けて頂いた事、本当に礼を言う、アルクアード殿。」
「アルクアードで構わない、伯爵様。」
「そうか、では私もアーサーで構わない。」
アーサー地位や爵位などあまり気にしないタイプの男らしかった。それはとても私には助かった。礼儀や作法など求められても、何の知識も無いのだから。
「その、君は家名、とかは無いのかい?」
「ない。ただのアルクアード。それだけしか覚えていない。まあ、ここで隠れて暮らしてきた私には、知り合いも友人もいない。そんなもの、あっても何の意味も無いさ。」
「隠れて生きて来た? いったいどれくらい。」
「さあ、少なくとも、君が生まれる前からだろうさ。」
私の言葉に、アーサーは驚愕の表情を隠せない様子だった。
そして、アーサーは何やら少し考え込み始めた。彼の真剣な表情に、私は彼の次の言葉を待つことしか出来なかった。
アーサーは、しばしの後、ようやく口を開いた。
「私は、この土地の、この『呪われた島の』開拓を命じられた。道を整備し、街を作り、作物を作り……きっと、長い長い、大変な道のりだ。」
「それは大変そうだ。」
私は他人事のように言った。と言うか、完全に他人事だった。他人とのコミュニケーションに慣れていなかった私には、彼の意図する部分が良く読み取れなかった。
アーサーは、私の他人事の
「そこでだ。君の力を借りたいんだ、アルクアード。」
「え?」
彼の言葉に流石に私は驚いた。普通の人間から見れば、私など森の奥深くに住む、世捨て人の怪物である。島の知識も、人脈も無い私に何の手助けが出来ようか。
「きっと、この森も誰かの手が入る。君も隠れて暮らすことは出来なくなるだろう。それに、あの死の花の事もある。どうやらあそこに立ち入ることが出来るのはヴァンパイアの君だけのようだ。君の助力は必要不可欠だよ。」
「どういう意味だい?」
「いずれは、この島にも多くの人が訪れるだろう。だからこそ、あのロチェストの花の管理と研究は必須なんだ。この島でしか咲かない、ロチェストの花。それはきっと、他には無いこの島の財産だ。研究して、この島の何らかの名産品になるのか、それとも、害悪として駆除するのか。いずれにせよ、そのために君の力はどうしても借りたいんだ。」
なるほど、合点がいった。確かに、ロチェストの花はこの島を生きる人の脅威になる。しかし、角度を変えれば、財産にもなりうるかもしれない。確かに、研究するにしろ、管理するにしろ、あの花の毒性が通じない私の協力は必須かもしれなかった。
「なるほど。私にロチェストの花の研究を頼みたい、と。」
それは好都合だった。私としては、これからも、人がここに立ち入らないように取り計らってもらえば良い。アーサーの申し出を受け、研究の手伝いをするのがその交換条件となるのならば、容易い事だった。
しかし、私の考えとは裏腹に、アーサーはとんでもないことを言ってのけた。
「この森に咲く以外のロチェストの花は、全て駆除する。そして、君には、この森の管理をお願いしたいんだ。そして一般の民が無断で入り込めないように、この土地を君の領地にする。なに、統治に必要であれば、男爵位くらいは私の独断で授けても良いと王からは仰せつかっている。何の問題もない。」
「はあ!? 何を言っているんだ、アーサー!?」
急に、初対面の男を貴族にする、と言い出した酔狂な伯爵様に、私は大声を上げた。しかし、アーサーは、もうそれが最善策であり、もはや決定事項であるかの如く、淡々と私を説得した。
「ヴァンパイアの男爵が、ロチェスター家と盟友であると言う事になれば、島の住人も心強い。君が島の皆に愛され、島の皆が、君とヴァンパイアの秘密を守る、そんな島を作る。それに……。」
そしてアーサー・ロチェスター初代伯爵は、私にとって決定的な一言を言った。
「出来る事ならば、私の息子、孫、その先の子孫まで、代々、君に面倒を見てもらいたい。若き時は兄として、歳を取れば友として、道を踏み外さぬように。さすれば、ロチェスター伯爵家は、永遠に生きる君の、永遠の友となるだろう。」
こうして、私は、アーサー・ロチェスター伯爵の提案に従う事を決めたのだった。
それからは大変だった。
大変だったが、充実した日々だった。
隠れ家だったボロ屋敷は改築され、男爵家に相応しい館に生まれ変わった。
アーサーは道を整備し、水路を通し、島を開拓し続けた。
そして、私は、ロチェストの花が見つかれば、片っ端から摘みに行き、我が領内の森に植え替えた。
花の発見の知らせが無い時は、ロチェストの花の研究に明け暮れた。
とは言っても、ほとんどは、私の館に今でも残されている、ボロボロの書物の解読であったが。
そこで大昔は、ロチェストの花の原液は、染料に使われていた事。フィルマの花と混ぜる事によって、解毒の具合に応じて様々な色に変化する事を突き止めた。
ロチェストの花は花粉さえ取り除けば、毒素を吸い込む危険性はない。勿論花びらごと食べれば、即死級の猛毒だが、抽出した液体を衣類や布のしみ込ませても、日の光で一日寝かせれば、毒素は抜けるらしい。もちろんこれも書物の解読からの知識である。
ちなみに、そこからフィルマの花から取り出した液だけを用意する。そのまま使わなければ赤色。一滴垂らせば橙色。もう一滴で黄色。それから、緑、青、紫。どんな色もデザインも自由自在である。後に、この島の特産品となったのは言うまでもない。
アーサーと初めて会ってから、約十年。
島の運営も軌道に乗って来た。
ロチェスター家の提案で、領地を二つに分割して統治することになり、大陸から貴族が渡って来た。そして、そこの領地はフィルモアと呼ばれるようになった。それは、お互いに、お互いを必要とするロチェストの花とフィルマの花を、それぞれの領地で管理し、流出や悪用を防ぐためであった。
そして、共生関係でもあり、同じ島に住む者同士として、ロチェスターとフィルモアは、争い一つなく友好関係を保っていた。
私も、ロチェスターの人々と仲良くなった。
「この島をずっと守って下さいね、ヴァンパイアの男爵様」
とお願いされるのは、少し照れ臭かったが、それでも嬉しかった。
思えば、本当にアーサーの言った通りになった。まあ、彼の政治的手腕によるところが大きかったが。
アーサーと初めて会ってから十五年。
アーサーも、伯爵夫人を
流石に、幼子に対してこの外見はトラウマを植え付けてしまう恐れがあるので、面会はしていないが。
しかし、それにしても、これだけ剛腕で豪胆なアーサーも、妻には弱いらしく、尻に敷かれている様だった。
そして、その逃げ場として男爵家を訪れたアーサーと共に、勝負事をするのが習慣になっていた。
「チェス」とかいうものらしい。
これが、なかなか奥が深く、初めて見ると、とても深くのめり込んでしまった。
私など、彼には、何一つ
そう思っていたアーサーに、チェスで勝った時など、人生で初めて彼を上回った。そんな高揚感に包まれた。
そして、私達の勝負は、どんどん白熱していった。
それは、とても幸せな時間だった。
アーサーの悔しそうな顔。
アーサーの嬉しそうな顔。
それはとても大切な思い出だった。
そして……。
アーサーと初めて会ってから、二十三年。
彼は、私に言ったのだった。
「私をヴァンパイアにしてくれないか」と。
******
「未来永劫生きる。否応なく。そんな宿命を負っているのが君だけだなんて。そんなの、この先何十年後、何百年後に、正気を保っていられるとは到底思えん。」
私はそう言ったアーサーに返した。
「アーサー、それは大丈夫さ。君は言ったじゃないか。君の子供、孫、その子孫。ロチェスター家が永遠に私と共に歩む友だ、と。」
しかし、そう言った私に、アーサーは力なく笑い、言った。
「そう、昔は……若いころは、そういう気持ちだった。いや、今でもその気持ちは変わってない、のだが……な。」
アーサーが何を言いたいのか、私には要領を得なかった。本当に今日のアーサーは珍しいほど歯切れが悪かった。
「アーサー、一体どうしたんだ。」
私はアーサーの様子を心配して聞いただけだった。しかし、思えばこの時、彼は「何故、そんなことを言い出したんだ」と聞かれたと思ったのだろう。彼は、深刻な表情で考えた後、意を決したように口を開いた。
「私は、もうきっと長くない。」
「……え?」
自分の耳を疑った。
そりゃあ、孫の代とか、子孫まで、とか散々口走って来た。しかし、いざ現実にそんな風に言われると、私も動揺を隠せなかった。
アーサーは、私に出来た、初めての友である。
そして、たった一人の親友である。
大切な兄でもあり、恩人であり、人生の師である。
その彼が、いなくなる。
私には、その想像が出来なかった。
「そんな……冗談だろ。」
「医者にな、そう告げられた。」
聞けば、それは、人間がかかれば、数か月で命を落とす、内臓の疾患だった。確かに、ここ数カ月で、アーサーは痩せた気がする。
「はじめは、汚れ仕事を任された、貧乏くじを引いた、と、そう思った。しかし、この島に来てから、私の人生は輝いていた。大変な毎日だったが、君と出会い、君と二人で、多くのことを乗り越えて来た。」
遠い目をして語るアーサーの思い出話に、私はともに思いを巡らせ聞き入った。
「楽しく、眩しく、そして一瞬だった。本当に、一瞬。これからなんだ、この島も、友と歩む私の人生も。」
「……アーサー。」
「この島の未来だとか、君の未来だとかいろいろ言ってしまったが……本当は……。」
そして、アーサーは本音をついに口にした。
「死にたくない。まだ、私は、死にたくないんだ。」
私は、そう言ったアーサーの顔を見た。
どこか苦しそうな親友の顔。
いつも私の身を案じ、いつも私の為に動き回ってくれた親友。
本当に、彼の言う通り、彼との時間は一瞬だった。
そして、それは本当に眩しい、挑戦の連続だった。
「私だって、君に死んで欲しくない。」
私も、本音を口にした。
でも、本当にいいのだろうか。
彼をヴァンパイアにしても。
確かに、ここにあった書物の中で、「ヴァンパイアが人間の血を吸い、代わりにそこに自分の体液を流し込めば、ヴァンパイア化する」と言う記述だけは見つけた。その後の言葉は途切れ途切れで解読には至ってないのだが、ヴァンパイアにする方法だけは確実である。
でも、それは、世界の
しかし、そんなことを言い出せば、私自身が世界の理に反していると言っても過言ではない。
それに、もともとここは呪われた島である。ヴァンパイアが生息していても不思議ではない。
幸い、アーサーの手腕のおかげで、ヴァンパイアの存在は、大陸には知れ渡っていない。ここで一人ヴァンパイアが増えたところで、そんなに問題ではあるまい。
この島の為に身を粉にして働いてきた、アーサー・ロチェスター伯爵である。彼の一生に一度の願いくらい、叶ってもバチは当たらないだろう。
それに、これは、私からの恩返しだ。まだ何一つ、彼に返せていない。そして、私にしか出来ない、恩返しなのだ。
そう、これは、正しい選択なのだ。
そして、私は、顔を上げた。
目の前には、不安そうに私を見る親友の顔があった。
私は、その顔に向かって、一言だけ呟いたのだった。
「分かった。」
と。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます