最果てからの来訪者と善人ではない僕らの正義論
朝方の桐
プロローグ『正義を唄う悪人』
「むむむむむ」
「へぇへぇ、隊長なにかありましたかね?」
とある日の昼下がり。
見るからに体格とあっていない、椅子に腰掛けて、両手にナイフとフォークを携え、足をブラブサとさせながら鼻唄を歌っていた少女は、唸った。
つい先程まで、子供が見るようなものではない気がする、昼のワイドショーをラジオを意味もなく見ていたのに……だ。
側に現れたのは、短パン半袖のTシャツという明らかに駄目人間な香りがする1人の男。
その手には、イメージとそぐわないゴージャスなパンケーキを持っている。
「
「はーい、隊長。
スーパーデラックスハイパースペシャルパンケーキプレートですよ」
「相変わらずの、酷いネーミングセンスね!!
って、そうじゃなくて!!」
プンプンとぷにぷにの頬を膨らませて、隊長と呼ばれた幼女は怒る。
「なんだ?
リンゴじゃなくて、モモとかがよかったか?」
「次はモモでよろしく!
じゃ、なーーくーーてーー」
バタバタと手足をバタつかせて、少女は彼に抗議をする。
「お仕事のお時間よ!!
瞬月貴方分かっていて、からかっているでしょう!!」
「あ、バレちゃいましたか。
はいはい、伝令伝令ですね。
場所は?」
スマホを取り出し、メンバーの1人が制作した専用のアプリを立ち上げる。
少女のぴょんぴょんと存在を主張しているアホ毛が、ぴーんと伸びる。
「
「いや、隊長。
いつも言っているだろうよ、降りてきた予言はきちんと最後まで覚えておいてくれと」
「うるさーい!うるさーい!
難しいことは分かんないのよ!どうせ、行けば分かるでしょう!!」
「いや、芦立区って言ってもそこそこ大きいんだよなぁ…」
覚えていないのならば仕方ない。
それに今回に始まった話でもない。
アプリに『芦立区に出現予言だ。近場にいる奴は向かってくれ』と打ち込む。
「お、
返信でやってきた『近いので向かいます』の連絡に、反応をしていつの間にかパンケーキを食べだしていた少女の口元を、彼はハンカチで拭く。
「あの、期待の新人だな!」
「その、期待の新人ですね。
心配事といえば、特務機関からきちんと逃げ出せるかってところか」
「大丈夫よ!!」
パンケーキをリスみたいに頬張りながら、少女は笑う。
「だって、この秘密結社『ダークヒーロー』のメンバーだもの!」
「正直、隊長のネーミングセンス俺とさほど変わんない気がするんですよ」
「瞬月よりはマシよ!!」
「はいはい、マシです。マシです」
場所は変わって、何処の芦立区。
「いや、と言っても足立区って滅茶苦茶大きいんだけど、どう探せと言うんだよ…」
「まぁ、何処に出ても良いように中央辺りに居るのが理に適ってるだろ。
はは、芦立区に遊びに来ていたお前の運の尽きだ」
「ぐぬぬぬぬ」
2月に入っても、夜は冷え込むが太陽の出ている昼間は少しずつ寒くなくなってきたな…と思ったりしだすそんないつもと変わらない今日この頃。
先程買ったパンを食べながら、もうじき災害が起こるなんて信じられないほどにのどかな、1つ変わらない街を2人で歩く。
太陽はテッペンを過ぎ、傾き始めており、その光に照らされた影が1つ伸びている。
「まぁ、
流石に県はしんどいが、最低限市が分れば追えないことはない。
それに、出ないこともあるそうじゃないか」
「隊長の出ないかもしれないは、行けたら行くと同意義だと僕は教えられたがな」
「ははは」
何処にも繋がっていないスマホを耳に当てて、誰かと話しているふりをする。
スマホが伝える、冬の寒さで耳が痛い。
「ま、気を張るな。
お前らは、正義のヒーローではなく、正義を唄うただの悪人でしかないのだから。
失敗して誰かが死んだって仕方のないことさ」
「人間はそんなに割り切れないんだよ。
検知頼むぞ」
「言われなくても、何もしなくても来るなら分かるさ。
私は与えられた役目はきちんとこなすさ」
黒髪黒目、よくいる
「契約者の夢を手伝うといったのは私だからな。
前言撤回はしないさ、あくまで私達は公平で平等な契約関係なのだから」
「はいはい、期待しているよ」
『どれだけ人を救っても、どれだけ被害を抑えても、世界も世間も俺たちのことを悪人と後ろ指を指すだろう』
入隊したばかりの頃、禁煙しているんだと棒突き飴を舐めながら話してくれた
『それでもを唄うなら、俺らは歓迎する。
なんていっても、俺らも君と同じ悪人だからな。
正義のヒーローでなくても、人は救えるんだよ。
ま、拍手は貰えないけどな』
パンの最後の一切れを口に入れ、袋をクシャクシャと握り締めて、ポッケに入れる。
初めての仕事場だ。
粗相をしないように、頑張らなければ。
ガシャンという耳を貫く嫌な音と共に、1つ先の交差点で車が歩道に乗り上げていた。
ボンネットから、灰色の煙を立ち上げて周りは騒然としている。
「契約者、来るぞ。
気を確かに持て、あれはお前を殺した車じゃない。
良かったな、目と鼻の先だ、走れ走れ」
ゲシゲシと、足を蹴られる。
蹴られたところが、電気が走るようにビリビリと痛い。
「あ、あ、ああ…」
嫌な記憶が蘇る。
抉り取られた腹と、真っ赤に染まった掌、止まらない赤色が脳裏にこびり付いているが、彼の言葉で我に返る。
だが、幸いなことに怪我人はいないようだ。
運転手の男性が、慌てた様子で運転席から転げ落ちるように出て来た。
バチッという、大袈裟な静電気、軽めの雷とも呼称されるお決まりの電気のような衝撃が辺り一帯に伝達する。
まだ、点くには早い筈の街頭が点いたり、煙と焼けた匂いを上げたり、不穏な空気を醸し出す。
「っ!!!
ロイデアだ!!
ロイデアが来るぞ!!離れろ!!逃げろ!!」
近くにいた男性が叫ぶ。
時空の歪みとも錯覚する、大きなねじれと共に車が通ったその交差点の真ん中がぐにゃりと歪み、現れたのは暗い、暗い光を通さないドレスを纏う最果てよりの来訪者。
「白の最果て、世界のゴミ箱、流れの行き着く先。
ようこそ、我が同胞よ。
知恵無き、我が同胞よ。
ああ、本当に力があるって羨ましいよ。
帯雷体が居なくても短時間なら干渉できるんだから」
「小言を零さないでくれ。
さぁ、
「そうだな、なんて言っても初仕事だからな。
まぁ、死んだらまた体、作ってやる」
「死なないようにしてくれ」
薄く邪魔にならない被り物を頭に被り姿を誤魔化す。
続いて、車によって曲がってしまった標識を頭の中で強くイメージする。
「いざ」
差し出した方の手が、静電気を食らったようにバチッと反射をし、その空を握る。
その何も無かったはずの空には、途中で折れた止まれの標識が握られており、
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