元エリート魔術師の詐欺史〜借金返済のために渋々詐欺師となったが、腹黒聖女様に目をつけられて悪党を騙すことになった〜

渡月鏡花

第1章

プロローグ

 やあ、紳士淑女のみなさん。

 詐欺師という人間をご存知だろうか。


 他人を言葉巧みに欺き、騙し、カネやモノ、時にはココロまでを奪うことを生業としている人間のことだ。


 そう、最低最悪な人間だろう。


 もちろん、そんなことは知っているって?

 

 そうかそうか。


 当然、詐欺師になんか騙されたことはないんだよな?


 今、頷いていたそこのお兄さん!

 そう、金色の髪のそこのあなたのことだ。


 騙されたことなんてないってことなんだよな?

 なるほど『騙されるわけないだろ』か……。

 うん、それはこの上なく重畳なことだ。


 その調子で今後も騙し、欺かれることなく用心して生活してくれ。


 一方でそこの綺麗なお姉さん。

 そう、絹色の長い髪をした綺麗なお姉さんのことだ。

 違う違う。黒いローブを被った君の隣にいるお姉さんのこと。


 口が上手いって?

 いやいや、あなたは本当に綺麗だよ。

 まるで女神マリアリア様のように麗しいことこの上ない!!!


 ……コホン。


 ところで、先ほど俺が詐欺師に騙されたことがあるか聞いた時に、その綺麗な顔を一瞬だけ歪めていたね?


 もしかして騙されたことがあるんじゃないのかな。


 そうか……1年付き合った彼氏に実家のお金を持ち逃げされたのか。

 それはおそらく結婚詐欺にあった……ということだよな?

 災難だったな。


 詐欺師という連中は、誰も彼もどうしようもなくロクでもない人間なんだ。


 だからとてつもなく確率の低い不幸な事故にでもあったと思って諦めてくれ。


 例えば、希少種であるユニコーンの方から近寄ってきて、あなたは意気揚々とその背に乗ろうとして、不幸にも足を滑らせて——いや腰を滑らせて、と言った方がいいのかもしれない。

 

 コホン。

 まあ、いずれにしても落馬して頭を打って死んでしまうような、そんな避けられようのない事故なんだ。


 だってそうだろ?

 この場合、明らかにユニコーンのせいじゃないわけだからな。


 『どういうことなの?』だって?

 詐欺も一緒ってことさ。


 詐欺師自体が悪いんじゃない。

 たまたま、偶然、あなたがカモにされてしまっただけの話なんだ。


 だから仕返しなどと考えたところで、きっと巻き上げられたカネは戻ってくることはないだろう。

 だって、今頃、詐欺師の手元にはすでにカネなんてなくなっているだろうからな。

 

 それに、そもそも詐欺師を見つけることさえも難しいかもしれない。

 きっとどこか違う街で君と同じくらい綺麗な子でも引っ掛けているかもしれない。


 それでも『とられた結婚資金を諦めきることなんてできないっ!絶対に許せない』か……そうか。


 だったら一つだけその詐欺師に仕返しをする方法があるんだが、俺の話を聞いてみるか?


 ただしこの場にいるみんなに聞かれてしまったら効果がなくなってしまう方法なんだ。

 だからここからはあなた『一人にだけ』に『特別』に教えてあげよう。


 どうだろうか。

 もしもこの後、時間があるって言うのならば……提案がある。


 もちろん興味があればの話だがね。


 この画廊まで来てくれないだろうか。


 この日、この時間にあなたと俺が出会ったのはきっと女神マリアリア様のお導きだろうから……。


 それに俺ならばあなたを騙したという詐欺師を捕まえるのに協力できるかもしれない。


 さあ、是非とも俺にあなたの復讐を協力させてくれないだろうか。

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