②亡郷のふたり

鹿島さくら

プロット

〇コンセプト

★恋愛感情も信頼も友情も入り混じった生まれも育ちも社会的立場も真逆のバディ風味の男女が見たい! 互いを友人であり半身、メンター、帰ってくる場所、自分の居場所だと確信して実際そうなってる二人組が見たい!

→主人公とヒロインが対等でどちらも最強でかっこよくてかわいい、互いの心や身体を守り守られる関係性。

★英雄の伝説の「めでたしめでたし」のその後の話をしたい。

→偉業を成し遂げ(今回は魔王討伐)英雄と呼ばれて、その後はどうする? 「偉業」と呼ばれるほどのことを成し遂げたら社会は変化するのでは? 変化した社会はそのまま英雄を称え続けてくれる? 英雄が偉業を成し遂げ艱難辛苦を排そうとも社会は新しい問題にぶつかるのでは? 新しい問題、新しい社会に英雄は対応できるのか? 英雄が過去の遺物になる可能性があるのでは? 英雄がいずれ只人になる可能性は? 英雄本人は只人になることに耐えられる? 旅は楽しかった? 楽しかったならまた旅立たないの? という個人的な疑問が起点。

→英雄が、英雄になってくれと頼んだ人々に裏切られ見放される物語。偉業を成し遂げたことで変化した社会が英雄を政治的に利用し、排除する物語。

★「楽園を目指そう。そんなものはどこにもないけれど(そしてあえて言うのならあなたのいる場所が楽園だ)」という感じの共依存の物語が見たい! 「ずっと一緒だよ」の「ずっと」が本当に正真正銘の「ずっと」である人々の話。


◯参考作品

・峰倉かずや「WILD ADAPTER」(漫画)

あらゆる感情がごちゃ混ぜになった共依存の2人の話。

・北野詠一「片喰と黄金」(漫画)

各街での滞在中の出来事のオチのつけ方、主人公二人の互いの信頼度合いや物わかりの良さの程度の参考に。

・シルヴェスター・スタローン主演「ランボー」(映画。ランボーシリーズ1作目)

故郷のために命を懸けたのに故郷に裏切られる人の物語という意味で。

・ 瘤久保慎司「錆喰いビスコ」(ラノベ)

死すら切り裂けない強力な「愛」で結ばれたバディの冒険物語という点で。



◯世界観

・異世界ファンタジーの世界。魔族や魔王、精霊や魔法が存在する。

・大気に魔力が含まれており、人々はそれを体内に取り込み魔法に変換することが可能。魔法は強い願いを基盤とする「祈り」、次に「(武器を用いた)戦い」の2つを軸に発展した歴史がある。祈りは占いは雨ごいや願掛けといった魔法の原初の形。戦いは生活を脅かす魔獣を退けたりするため。

→「日常でも使える便利な魔法(空を飛ぶ、ものを浮かせて運ぶ、瞬間移動、複製品を作るなど)」はほとんど無い。魔法の道具の類も珍しい。移動手段は馬、調教した魔獣、歩き、船などが基本。

・ひとつの大陸に人間の住める瘴気のない(薄い)場所”人間領”と、魔族の住める瘴気のある場所”魔族領”が存在している。

・この世界にはいくつかの大陸が存在しているが、第1巻ではそのうちのひとつ"グランディア大陸"が舞台。以下で示す説明はグランディア大陸に限る。


★人間領:本作(第1巻)の舞台になるのはこちら

・グランディア大陸の人間領はグランディア王家がその全体を統治している

・グランディア大陸は2つの島から構成されており、ところどころにダンジョンがある。

→王都グランディアがある側、グランディア島(グランディア文化圏)は森や丘など穏やかな地形。王都がない側、ディソレディア島は荒野や雪山、砂漠など険しい地形。どちらの島もグランディア王家の統治下。

→人々は一定の住みやすい地域に集まって街を作り、街をつなぐように大街道があり、街道沿いに村や宿場町が点在する。グランディア大陸全体に未開発の土地が多い。荒野や砂漠にはそこで住むことに特化した文化を持つ人々がいる。

・街やその周辺の村は「諸侯」が治め、その諸侯の長が「国王」。主人公たちは王都グランディアを治めるグランディア国王の命令で魔王討伐の旅に出る。

・100年間の魔王の出現により魔獣が狂暴化、グランディア大陸全体の文化交流はやや停滞ぎみ。

→特に海を隔てて地域差が大きくなっており、ディソレディア島の人々はグランディア王家に統治されている意識が薄い。情報もあまり伝わってこないため、島を渡って来た旅人は歓迎される。

→情報や地域ごとの交流は停滞する一方、どこも魔獣対策や対魔王に神経をとがらせてきた。そのためグランディア島では100年間は内乱がほとんど起きておらず、王家の支配は盤石になっている。

→内乱が起きにくい環境だったため、グランディア島では攻城兵器(大砲を含む)の開発研究や大規模な戦争の戦術研究は停滞気味。活版印刷技術が広がり始めている。上下水道も整備されているかも。

・大陸に階級社会が浸透。王族、貴族(上位貴族が諸侯)、平民の3つに分かれ、さらにその下に非公式かつその数は非常に少ないが「被差別民」がいる。

・グランディア大陸全体として”技巧12神信仰”が国教。これを統括し布教する宗教組織が”聖堂会”。人体に有害な”瘴気”を分解し無害にするのもその任務。”技巧12神”とは紡績や製鉄、木工、農耕などの人間の生活に必要な技術を司る12の神。最初は13の神がおり、その13番目が「戦の女神」。神代の時代、グランディア王国を作った「建国の英雄」に恋をして地上に降りたことで神の座から追放され神としての権能を失ったと言われる。建国の英雄と戦の女神、二人は手を取り合って駆け落ちして”楽園”にたどり着いたという。(=「女神堕としの伝説」)グランディア王家は建国の英雄の弟が継いだ。女神の走り抜けた後にはダンジョンが発生、これが魔王による人間領侵略の足掛かりになったと言われる。

・非公式の最下層身分「被差別民」とはかつて神の座から追放された「戦の女神」と同じように顔にアザのある者。戦の女神の加護を受けた者と呼ばれ、災厄をもたらすと言われている。

→顔にアザがあることが差別対象になる、というのは我々の現実を見渡した時に少し問題があるのでは?という懸念がある。女神の紋章の形のアザ、とすることもできる。あるいは、「浅黒い肌+赤い癖毛」が差別対象? これはこれで現実を見渡すと問題があるかもしれない。


★魔族領:人間には毒となるほどの高濃度の魔力”瘴気”が漂う土地。魔族の生存には瘴気が必須。

→人間側から魔族領の観測はほぼ行われていない

・瘴気を大量に取り込むと、通常の人間なら身体が衰弱して死に至る。人間離れした魔力を持っていたり特別な魔法道具を持っている場合、身体の衰弱を耐えきると身体は変化し、人間でないものになる可能性もある。衰弱期の間に聖堂会による呪いの解除を受ければ死なずに済むこともある。

・魔族領には人間領以上に険しい土地が広がっているらしいが、中には「妖精郷」のような美しく穏やかな(と語られる)土地も存在する。

・魔族の王たる魔王は、魔族の住まう土地を広げるために人間領にあるダンジョンを中継地点として人間領に瘴気を広げている。住まう場所を広げようとするのは種の拡大のための、本能的な行為である。




◯主要キャラクター

勇者パーティーの代表なので便宜上ヒロインポジの勇者を先に表記。

★勇者:シレーネ・ランケッテ(女)

・ランケッテは育て親の姓

・身長150~155センチ

・18歳で旅立ち、20歳で魔王討伐、21歳で王都帰着(捨て子なので正確な歳は不明)

・健康的な浅黒い肌、豊かな赤い癖毛。生まれつきの顔のアザ。(被差別民の条件)

・緑色の左目に金色の義眼の右目。往路で右目を損傷、ダンジョンを守護するゴーレムの目を義眼として使用。霊的なものや魔力の感知が可能。

・意志の強そうな短く太い吊り眉。溌溂とした表情の似合う顔立ち。

・旅を経て全身に傷跡、特に腹部に大きな傷跡アリ。

・特別な魔法の道具「流星の宝剣」と「戦乙女の翼」を持つ。前者は魔法剣、所持者の運動能力を向上させる。後者は飛行能力を授けたりする。

・一人称「私」。二人称は相手や状況によって使い分けるが相棒アスティのことは「お前さん」と呼び、ふざけた時やかしこまった時、立場を意識させるときには「僧侶殿」。

・おおらか、さっぱりと気持ちの良い性格。いざという時の腹のくくりかたが苛烈。

・王都のスラム出身、被差別民。ただし育ての親に恵まれた。

→育て親はかつて政争に敗北し身分を失った革命家と呼ばれる元貴族。それに育てられ、読み書きや計算をはじめ、歴史、薬学などの知識をある程度持ち、礼儀作法についてもある程度わきまえている。

→生み親を知らないことは気にしておらず、自分は運が良かったという自覚がある。育て親から貴族として生きることの大変さも聞いている。

→アスティに対して出自や経歴について詮索することも往路においては無かった。(アスティはその態度にかなり救われていた)

・魔王討伐成功時の多額の褒賞金や、「俊英騎士」という特別な称号とそれに伴う貴族の地位(「諸侯」相当)や領地が目当てで魔王討伐の旅に出た。

→これらを利用し、スラムに孤児院、病院、公衆浴場などを兼ねた総合福祉施設を作り運営することを考えていた。

・腰には剣を携え、大判の布を巻いており、それに隠れるように交通手形や小切手のようなものが下がっている。


「私の僧侶殿に何かご用か?(……)私の僧侶殿が民からのご祈祷の頼みを断るはずないが、それとも何ぞ、貴殿が無茶な頼みでもしたのか?」

「なんだか前よりも弱くなってる気がする、私。……お前さんとこんな関係になって」

「好きな名字を名乗ったらいいさ。自分で作ったっていい。誰にも奪えない、死んだって引きはがせない、お前さんだけの名前だ」



★僧侶:アスティ・グレシャム(男)

・シレーネと同い年

・身長185センチほど

・白い肌に金髪、青い瞳。美しい容姿。性欲のこもった好奇の目を向けられることも。

・左腕は往路でちぎれたため、ゴーレムの腕を加工した黒い義腕。感覚が鈍く、冷たさや熱さや痛みをあまり感じない。

・一人称「俺」。一人称二人称は状況や相手によって使い分け、シレーネに対しては「君」。ふざけた時には「勇者殿」と呼ぶ。

・負けず嫌いな面はあるが基本的に穏やか。

・往路にダンジョンで入手した魔法道具「妖精の弦」(弓にもなるし竪琴にもなる)と「盟約のマント」を装備。

・僧侶としての技術「瘴気の分解(呪いの解除)」や「祈祷」「治療」以外にも、歌による支援強化、魔法や弓による遠距離攻撃などなんでもござれ。

・王家の血を継ぐ大貴族グレシャム家当主の男と没落貴族の女性の間に生まれた妾腹の子。母の家で育つ。

→13歳で母親が自殺、すぐグレシャム家に引き取られる。冷遇されたが、兄弟の中で一番優秀、大抵のことは器用にこなす。

→しかし後ろ盾が無かったため、15歳で捨てられるように神学校へ。アスティの父としては、神学校卒業後は技巧12神を信奉する宗教組織「聖堂会」の中枢で影響力を持つ聖職者エリートになることを望んでいた。

→父の思惑通り王都にある聖堂会の総本山に着任。アスティの美しい見た目と権力主義に走る聖堂会本部の風潮のために、政治手腕の巧みさで聖堂会の権威を一気に強化した老女教皇のお気に入りになる。

・勇者が選定されたことに伴い勇者の同行者として聖堂会枢機卿たちから名指しされる

→当時の聖堂会枢機卿たちがこの自分より優秀な若者を恐れてのこと。

→この指名に老女教皇は反対するが、国王と血縁関係のあるアスティの実家グレシャム家もこれを支持した(彼を勇者に同行させることで家名を上げるため)ので、老女教皇は政治的判断としてアスティの旅立ちを認める。

→本人にこの決定を拒否する権利はなく、当初は半ば嫌々でシレーネの旅に同行した。


「俺が主に祀ってる神? 一応は主神デイラだけど、そうだなぁ……最近は、戦の女神を」

「別に良いんだよ、弱くなったって。じゃなきゃなんで一緒にいるか分かんないだろ?」

「俺をハンガーラック役にする奴なんて後にも先にも、シレーネ、君だけだよ」




◯物語構成(記載している章タイトルは仮)

★全体でプロローグ+7章の8章構成

★以下、本文を書く上での前提事項など

・スキンシップ多め。義眼を埋め込んだり義肢を取り付けた後の療養期間に互いに肩や手を貸しあい、二人で崖から転がり落ちたときに離れないように互いを強く抱きしめあったりしていたため。

・全体を通して、「戦の女神」と「建国の英雄」の伝説がアスティとシレーネの関係性にオーバーラップする。また、「楽園(=追放された戦の女神が建国の英雄と共に逃げ延びた場所)」「楽園を目指す」がキーワードになってくる。前述の伝説はたびたび雑談の中で言及されたり、遠くに見える景色に彼らゆかりの遺跡があったりしてその都度説明が入る。作中、アスティは建国の英雄に、シレーネは戦の女神に例えられる。3章後半からシレーネはアスティへの恋愛感情を自覚することでいつも自信にあふれる彼女が相棒のことで心配性になったり相棒を失うことを恐れたりして本人の言を借りるなら「弱くなる」(=疑似的に女神堕としの伝説を再現する)。その分アスティとお互いを補い合う形になる。

・シレーネとアスティは6章後半まで人間と戦う時には頻繁に「殺さない」ことを口にして重視する。


・プロローグ:魔王の遺跡

 魔王との最終決戦、昇り始める朝日を背景にシレーネとアスティがトドメの一撃を放つシーンから本作は始まる。魔王の消滅を確認し、瘴気を吹き出す魔法陣を封じた二人は朝焼けを眺めながら互いの拳をぶつけ、勝利を分かち合う。

 旅の大目的を果たしたのは良いが、ここから”あのめちゃくちゃきつかった道”を辿って帰らなくてはいけないということに肩を落とし、アスティはシレーネに「王都に帰らず旅を続けたい」と冗談めかして言う。シレーネは苦笑して褒賞も欲しいし……とそれを宥め、アスティを抱えて遺跡のある険しい岩山を飛び降りる。岩陰に潜んでいた大型魔獣が二人を狙い急上昇するのをすれ違いざまに射落とすアスティ。

「それじゃ……帰るか!」


・1章:砂漠にて

 岩山から移動、到着した砂漠のオアシスで歓迎される二人。砂漠では、そこに住まう巨大な魔獣サンドワームの葬儀が行われており、アスティは僧侶として葬儀のサポートを頼まれる。100年の間にオアシスの民は砂漠の主である魔獣サンドワームの習性を理解して共生してそれ以外の魔獣からオアシスを守ってもらっていた。葬儀にはまたサンドワームが生まれかわってこの地に誕生することを祈る意味がある。葬儀の最中、鳥型の魔獣の群れが襲来、それを義眼でいち早く察知したシレーネは人知れず葬儀を抜けてこれを撃退するために魔獣に一人で(葬儀に集中したいであろうオアシスの民に気づかれないように)空中戦を挑む。相棒がいなくなり、彼女が苦戦していることにただ一人気づいたアスティは葬儀を終え彼女に加勢。撃退が終わると彼女の肩を掴み言う。「なんで一人で行ったんだ、せめて俺に一言言ってくれ!」「一人で無茶するんだったらなんで俺がいるのか分かんないだろう! 君が強いのは知ってるよ、葬儀の進行をしてた俺に気を使ってくれたのもわかる。だけどさ、それとこれとは別だよ。君がほんとに平気だって思ってても、なにか力になりたいよ」「……言ってくれなきゃ分かんないよ」

 オアシスの民から土産を持たされ馬をもらい、旅を再会する。


・2章:荒野にて

 荒野に到着、ここには遊牧と定住を季節ごとに繰り返し生活する人々が住んでいる(モンゴルや中央アジア風)。それをまとめる「諸侯」に歓迎され、彼の定住用の館に招かれるシレーネとアスティ。案内された館には武器が充実しており、攻城兵器が揃っており、館の外でも様々な品を盛んに用意している。諸侯の館での宴会にて、シレーネの傍にはあらゆるタイプの美男美女が侍る。一方でアスティはしきりに諸侯にしゃべりかけられている。その時のアスティの顔に張り付いた笑みが彼の「防御」であることを見抜くシレーネ。

 宴のあと、シレーネはアスティに「寝巻に着替えないように(スキを作らないように)」と言い残して別れ自分にあてがわれた部屋入る。そこに諸侯の腹心の部下の訪問を受け、騎士としてのスカウトを受ける。”格別の待遇”を約束するから王都に戻らずこの地に留まってくれ、と。自分のところに人が来ているのならアスティのところにも、と彼を心配し迎えに行こうとするシレーネ。腹心が控えさせていた部下を無力化し(殺しはしない)アスティの部屋に向かう。扉を開け、寝台に垂れ下がる布を取り払い剣を構え、「ようアスティ、お前の勇者様が迎えに来たぞ」。アスティを組み敷く諸侯に対し「英雄に夜這いを仕掛けて手籠めにするのがこの地の礼儀とは知らなかったな」、怒りをむき出しにしてきつく脅す。2人駆け出し、諸侯に指揮される兵士を押しのけ、そこらにいた馬をひっつかまえて飛び乗り夜空の下、追っ手を逃れるべく駆けていく。


・3章:雪山

 諸侯の館を抜け出して数日後。あれ以来、不眠気味のアスティを心配するシレーネ。気にしないでほしい戦えるから大丈夫、と言う彼にシレーネは痺れを切らす。「ちょっとでもお前さんの力になりたいんだよ。だってそうだろう、そうじゃなきゃなんのために敵なしのはずの私たちが一緒にいるのか分かんないだろ。……お前さんがしてくれたみたいに、私にも相棒の心配をさせてよ」アスティは荒野の領主に組み敷かれたことで少年時代に母親にそうされたトラウマをえぐられたこと、それを拒んだ後に母が死んだことで母を殺したのは自分であるという罪悪感から悪夢を見ることを告白。シレーネは彼の震える背を撫で、こめかみにくちづけして「できればお前さんの悲しみを取り払ってやりたいと思うよ」。

 歩を進める二人は万年雪の山を越える。夜を過ごす洞窟にたどり着く前にふたりは何者かに襲撃を受け弓矢で怪我をする。狭い山道、吹き付ける雪、魔力を使わない攻撃に義眼は反応せず、追っ手を分断するために二人は別々に行動することを決める。別れ際、アスティはシレーネに言う。「必ず君のところ戻ってくるから」双方、襲撃者が王都宮廷の宰相の私設暗殺部隊であることに気づきながら(あるいは聖堂会の秘密裏に設置された特務部隊)彼らを殺さず撃退。この山越えの間、アスティはシレーネに自分の心を預けたことで安心感を得て、体の動きにも自信に満ち溢れている様子。一方のシレーネは強さこそ変わらないもののアスティがいないことを不安に思い、自分の気持ちに戸惑い体の動きがやや鈍い様子。しかし無事に雪山を降りて海辺の町で落ち合う。ここから二人はお互いに向ける感情を自覚し、精神的に互いを強く求め寄り添いあうようになる。また、お互いに思っていることをきちんと口に出して伝えるようになる。


・4章:海辺の町

 海辺の町は通商の中心でもあり、憧れの旅行地でもあるのでこれで人が戻ってくるとふたりは大歓迎される。街角でナンパされるアスティを助け出すシレーネなどの一幕も挟まるが、ナンパを撃退した後にシレーネは「自分が弱くなったような気がする」とこぼすが、アスティはそれで良いと説き伏せる。

 襲撃者の身元は気になるが、海にすむイカ型タコ型などの魔獣がいなくなった海辺の町での夏の休日を楽しむ。特に、二人は初めて祭りに参加する。貴族の子供だったアスティは王宮のパーティーに強制参加で屋台を回ったりすることができず、被差別民のシレーネは育て親に手を引かれて屋台を回ろうとするも店主に罵られたりしてそれ以来祭りからは距離を取っていた。「アスティ、お前さんといるとあの頃を取り戻してるみたいでさ。今まで怖かったことも大丈夫になるんだ」祭りの屋台の景品で手に入れたおもちゃのような指輪型の魔法道具に互いの魔力を入れて交換し、身に着ける。

 休養が終わった二人は船を出してもらいグランディア大陸に渡ろうとするが、その最中、海賊に襲われる。彼らは元は魔獣討伐を担っていた傭兵だったが、魔獣が減り始めたことで、船や海辺の町を襲っているのだという。アスティとシレーネが彼らを制圧すると(殺しはしていない)海賊は言う。「せめて戦争がありゃあ俺たちもこんなことせずに食っていけるんだよ!」

 戸惑いながらも船は無事に寄港、グランディア島に入る。


・5章:商人の街

 グランディア島に入ると分かりやすい形で街や宿場町があり、いくつかの街をトラブルなく通過。王都の一つ手前、商人の街で「魔王の頭の角を削った粉末」が露店で大層な値段で売られている。口にすれば病が治り、持っていれば特別な力を発揮できるらしい。もちろんこれは偽物、ただの小麦粉などだがそれを売る屋台には人だかりができている。その他、英雄饅頭(温泉饅頭的な……)だとか子供用の勇者なりきりセット、僧侶の髪(もちろん偽物。ご利益があると銘打って売っている)だとか、勇者シレーネが座った酒場の椅子だとかが売られたりしていて商魂たくましい。皆それをありがたがって、後生大事にしている。そんな中、一人の少年が勇者の角の粉末を買い求める。「お母さんが病気なんだ。それに、これを持ってたら僕にも特別な力が使えるかもしれない……」必死な様子に何も言わず彼の家についていき、アスティが病床の母を看てやり薬や砂糖を少し分けてやる。その日の夕刻、アスティは街の人に乞われて僧侶として説教や礼拝を執り行う。

 その翌日の昼間は休日。アスティとシレーネが街の人に見送られて旅立とうとしたところで隣の学生街から神学校の学生が押し寄せる。商人街の商売は暴利で定められた法に背くし勇者商法も行き過ぎているというところから、ホウキや椅子を振り回し、石を投げ始めて流血沙汰になる。その中で、商人街の人々は後生大事に飾っていた勇者の座っていた椅子だとか僧侶が説教したときに使っていた燭台とかを手当たり次第に掴み武器として使用し、その一部は壊れる。乱闘騒ぎの中で「売れれば何でもいい」の本音も漏れる。その乱闘騒ぎの中に、昨日アスティが看てやった母と少年がいて(体調が少し良くなって散歩に出ていた)巻き込まれていた。母親がこけて人に手を踏まれたときに、「魔王の角の粉」を袋に入れて首から下げた少年は声を上げる。「やめて! やめてよ、僕のお母さんを傷つけないで!」彼の意思に反応して魔法で風が吹きあがる。(魔法の根源は占いや祈り、すなはち強い願いである)シン……と静まり返る大人たち。ただの小麦粉は確かに少年に特別の力や勇気を与えたしそれを持つ本人の心によって本物の魔王の角の粉になった。唖然とする大人たちが少年に謝り話し合いの場を設けようとしたのを確認して、アスティとシレーネは黙って街を去る。「俺が思うに、真の英雄とはあの子のような者を指すのだと思うな」「同感だ」


・6章:王都にて

 王都に帰着するとその報は王宮に届けられる。ふたりはシレーネの育て親に顔を見せた後、王宮で国王への謁見を行い「流星の宝剣」を返還する。翌日昼、アスティは聖堂会現トップ老女教皇から枢機卿への昇格と次期教皇の地位を約束される。その夜、魔王討伐成功を祝うパーティーが王宮で行われる。パーティーでシレーネは戦の女神を彷彿とさせる赤いドレスを、アスティは建国の英雄を彷彿とさせる青いマントを身に着けている。ふたりはパーティー会場で色々に声を掛けられるが、一方でシレーネに対しては「あの被差別民が本当に成し遂げた」「俊英騎士の称号を本当に得るのか」と非難めいた視線も向けられる。群衆の中、シレーネをあからさまに侮蔑する者に対してアスティは激昂。決闘を持ちかけるがアスティの父によって双方は宥められ、アスティは「自分を捨てたくせに急に出てきて父親面するな」と怒りに拳を震わせながらも矛を収める。

 翌日、アスティは王都郊外の実家に呼び出され、そこで自身の墓を発見して呆れとバカバカしさから大笑いする。本来は実家を離れた愛するわが子を死んだものとして執着を捨てるための子離れの儀式として作りいずれ壊すためのものだが、父親にそれを壊すつもりはないと言われ実家から除籍される。本人もいっそその方が良いとこれを受け入れる。その一連の流れを見守っていたシレーネは好きな名字を名乗れば良いと言い、彼の新しい人生を祝福する。

 その日の真夜中、アスティと決闘騒ぎを起こした貴族の子弟が殺害され、その犯人としてアスティが捕まる。この噂はあっという間に街に広がる。尋問の最中、アスティは聖堂会の一部メンバーが自分をやっかんで排除しようとしていることを知り、彼の実家が「(我が家から除籍したので)アスティなどという男は知らない」と言ったことで彼を擁護する者はおらず、英雄が人殺しをしたその重さを鑑みて翌日昼の処刑が決定する。この時、アスティは自身に帰る場所がなくなり味方はシレーネだけになったと感じる。

 一方のシレーネはアスティが捕まった話を聞くと彼を奪還するための力を借りるべく育て親の元に急ぐが、宮廷の一部派閥から派遣された刺客によって育て親は致命傷を負っていた。シレーネを殺すつもりで襲い掛かる刺客たちを相手に宝剣を持たないシレーネは怒りも相まって手加減ができず、アスティの魔力を込めていた指輪(4章の祭りの景品)で刺客のひとりを殺してしまう。死に際の刺客に「この国をまとめるために魔王に代わる我が国全体の敵が新しく欲しかった」「国民の期待を一身に背負った英雄が人を殺せば国民は怒りお前たちに失望するだろう。それを裁き罰を与えるグランディア国王にこそ正義があることを示す。それによってグランディア国王の威信を支える」「いかなる辺境であろうと王家への内乱など許しはしない。この国の支配を盤石にするための贄なのだよ、お前たちは」というようなことを言われ、育ての親が息絶えたことで刺客たちを殺害する。彼女は育て親という故郷を失ったことを悟り、刺客の亡骸をひっつかんでグランディア王家を罵りながら、返り血を浴びたまま、王都の中央聖堂会本部に華々しく展示される「流星の宝剣」や「妖精の弦」をかっさらい、建物正面のステンドグラスを蹴り破って処刑現場に乱入。その場にいた宰相を斬り、処刑現場で抵抗していたアスティに無言でくちづけする。アスティは彼女の返り血を浴びた手を取って「楽園に行こうか」。このやり取りで二人は、互い以外に寄る辺を失ったことで互いの唯一無二の関係になったことを確信。その場から逃走する。

「やはり女神の加護を受けた者は災厄をまき散らす! ましてや人殺しなど、許してはならん。捕らえよ、わがグランディア王国の名に懸けて!」


・7章:魔族領へ

 逃亡からすでに2週間~1か月は経過している。王都からやや離れたところにある瘴気のあるところに身を潜めて王国兵の追跡を逃れる。瘴気の傍にいる時間が長いことで二人の皮膚にうろこが生えたり、角が生えたりしており、瘴気のないところではせき込んだりすることも多くなっている。一時的に物資の補給のため街に立ち寄った2人だが、活版印刷で作られた人相書きが出回っており、街の人に通報され、兵士に追いかけられる。森の大魔法図書館(ダンジョン)に逃げ込み、アスティはその蔵書から、瘴気によって変化した身体を元に戻す方法が魔族領「妖精郷」にあることを知る。ダンジョン内まで追いかけてくる王国兵の熱心さに呆れたり、「瘴気で変化した体を戻すのに瘴気の濃い場所に行くのってどうなんだ」と冗談を飛ばしてからかったりしながら、魔族領深部につながる扉を開く。手をつないだところでアスティが「そういえば言い忘れてた」。「好きだよ、シレーネ」「……私も。好きだ」顔を見合わせ、笑顔で扉に飛び込んでいく。


注1)6章ラストのシレーネがアスティを助けに行く流れは、アスティがシレーネを助ける流れでも良い。この場合、白昼の往来、育て親が、周囲には実行者の分からない形で刺客に暗殺されるが、シレーネは義眼で犯人を見抜き激昂して刺客に戦いを挑みその果てに殺してしまう。刺客はその場で死亡。周囲には「勇者が突然人に襲い掛かって殺した」ように見えるわけで、彼女は人々の罵声や失望の声を聴きながら通報されて捕まり、尋問にかけられ、自分たちがグランディア王家の威信を高めるための贄であったことを知りながら処刑現場へと連れていかれる。一方のアスティも貴族の子弟が死んだことで殺人の容疑をかけられ、尋問にかけられる。その最中、もはや味方はいないこと、シレーネが捕まり彼女の処刑が確実であることを知り、指輪に込められた彼女の魔力で尋問担当者を殺して脱出、彼女と処刑現場で合流して逃亡。……という流れを想定。


注2)2巻は瘴気で変異した体を元に戻すために妖精郷を目指して魔族領を旅する物語。道中でバイコーン(馬)が仲間入りする。その後は別の大陸を巡ったり、あるいは技巧12神の領域に踏み入って戦ったりするかもしれないが、いずれまたグランディア大陸に戻ってくる展開が見たい。魔王がいなくなり人間同士の争いに向き合わなくてはならない社会を、グランディアにおいて「過去の人」となったアスティとシレーネが見るという意味で。(二人の関係性が変わったり離れることはない)


注3)別の大陸には、グランディアとは社会制度も文化も環境も異なる国や都市がある。たとえば魔力が多すぎる人々の集まってできた国で全国民が魔力封じの術を誕生の瞬間に施されている国とか。魔力を持つ人が差別されている国家とか。魔法と科学が融合した国とか。瘴気を払う手段も文化や技術によって異なっている。

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