日本の焼き鳥


 真美が案内してくれたのは、湯畑の側にある焼き鳥屋さん。あらかじめ調べていてくれたみたいで、私と一緒に来ようと思ってくれていたらしい。ちょっと嬉しい。


「並んでる」

「並んでるね……。ちょっと待つけど、大丈夫?」

「ん」


 たくさんの人が買おうとしてるってことは、それだけ美味しいってことだよね。楽しみ。


『あー、ここの焼き鳥屋さんか』

『草津温泉でもかなり有名だよね』

『行ったことある、美味しいよそこ』


 有名なんだ。楽しみ。

 行列に私たちも並んだけど、やっぱりたくさんの人に見られてる。周りからも、前からも後ろからも。


「あの……。リタちゃんも焼き鳥を買いに来たんですか?」


 そう聞いてきたのは、前に並ぶ人だった。


「ん」

「よければ前に行きますか?」

「ん……? 別にいい。のんびり待つから」


 会席料理っていうのを食べたところだから、待つのは問題ない。それに、良い香りがここまでしてきてる。この香りを楽しむのも悪くないと思う。

 期待が自然と高まってるけど。すごく楽しみ。きっと美味しい。


「勝手に焼き鳥のハードルが高くなってる気がする……」


『絶対に気のせいじゃないぞ』

『見ろよ、リタちゃん焼き鳥の方向しか見てないからな』

『香りがいいからね、仕方ないね』


 香りが本当にいい。香ばしいっていうのかな。お腹が減ってくる香りだ。

 そのままのんびりと待って、少しずつ進んで。ようやく私たちの順番になった。


「リタちゃん、何食べたい?」

「いっぱい」

「じゃあ盛り合わせ頼んじゃおっか」

「ん」


 焼き鳥と一言で言っても、種類はいっぱいあるみたい。ねぎま、とか、つくね、とか書かれてる。どれがどれかは私には分からないから、真美に任せる。

 盛り合わせっていうことは、いろんな種類を入れてくれるっていうことかな。

 盛り合わせを三パック買って、近くの椅子に座る。真美と一緒に並んで座って、焼き鳥のパックは隣に。目の前が湯畑で、温泉らしい場所、かな? 光が当てられていて、ちょっと綺麗だ。


「それじゃ、早速食べよっか」

「ん。どれが美味しいの?」

「分からないかな!」

「そっか」


『いやまあ、食感とか種類によって全然違うからな』

『好みはまさに人それぞれ』

『でもどれも美味しいよ!』


「ふうん……」


 一本、取り出してみる。これは……ねぎまかな? お肉とお肉の間にネギを刺してるみたい。お口直し用なのかな。

 こうして見ると、私の世界での串焼き肉とちょっと似てるかも。こっちの方が香りがよくて、食べやすい大きさになってるけど。

 ぱくりと一口。んー……。たれの甘辛い味がお肉にしっかりと絡まっていて、美味しい。お肉も柔らかくて食べやすいね。ネギも香ばしく焼かれていて、それでいてタレの味と絶妙に合ってる。美味しい。


「もぐもぐ……。ご飯が欲しくなる」

「あはは……。近くのコンビニで買ってこようか?」

「んー……」


 さすがに、買いに行かせることなんてしたくない。一人で食べるのは寂しいし。

 そう思っていたら、横から温め済みのパックご飯を差し出された。


「どうぞ」

「ん……。テレビの人」


『テレビの人www』

『もうちょっと認識してあげて?』

『この場限りの付き合いだろうし、仕方ないだろ』

『しかししれっとパックご飯を買っていたこの人、有能では?』


 すぐに渡されたから、私が言うよりも前に買っておいてくれたってことだよね。予想されてたってことかな?

 口を動かしながらテレビの人を見る。若いお兄さんは薄く笑って、


「いつも見ていますので。ご飯を欲しがるかなと」

「おー……」


『やはりこいつも視聴者……!』

『めちゃくちゃ羨ましいポジションにいるじゃねーか!』

『有能なのがむかつく!』


 めちゃくちゃ言うね。

 お礼を言ってご飯をもらう。焼き鳥と一緒に口に入れると、うん、やっぱりすごく合う。美味しい。


「高崎さんならお酒を飲みたがりそうだよね」


『わかる』

『間違いないw』


 真美のつぶやきにみんな同意してる。お酒と一緒に食べるものなのかな。

 次は、かわ。こっちは塩がかけられてるみたい。食べてみると、さっきのお肉とは全然違った食感だった。お肉よりもずっと柔らかい。それでいて塩味がしっかりときいていて、とても美味しい。タレでも美味しそうだね。


「んふー」

「リタちゃん、美味しい?」

「ん。すごく美味しい」

「満足できそう?」

「できる」


 焼き鳥、すごくいいもの。これも精霊様のお土産にしたいけど……。今あるのは全部食べちゃいそうだし、あとでもう一度並ぼうかな。でも真美に付き合わせるのも……。


「どうぞ」


 テレビの人に盛り合わせを二パック渡された。まだ口に出してないのに。


「精霊様へのお土産が必要かと思いました」

「もぐもぐ……。すごい。テレビの人、すごい」

「いえいえ」

「お礼。はい」

「え」


 焼き鳥を一本、渡してあげる。全然食べてなさそうだったから。

 テレビの人は戸惑っていたけど、ちゃんと受け取ってくれた。


「え、どうしよう、嬉しい。家宝にしてもいいかな」


『テレビの人すごいと思ったらただのバカだったw』

『愛すべきバカなのか憎むべきバカなのかこれもうわかんねえわw』

『ちゃんとリタちゃんに感謝して食べろバカ!』


 いや、感謝してるのは私だけど……。まあいっか。

 もらった焼き鳥をアイテムボックスに入れて、残りを食べる。うん……。焼き鳥、すごく美味しい。来てよかった。さすがは真美だね。

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