ひつまぶし
向かい側のお店の前では、すでに店員さんが待ってくれていた。エプロンを着た男性の店員さんが待ってくれてる。私を見ると、笑顔で頭を下げてきた。
「いらっしゃいませ。お待ちしていました」
「ん……」
ちょっと恥ずかしい、ような気がする。私のことは気にしなくていいけど。でもこんなに人が多いと、やっぱり難しいのかな?
ここのお店も落ち着いた感じのお店で、テーブル席もたくさん。私が案内されたのは、一番奥の席。さっきと同じように仕切りを立ててくれた。落ち着いて食べられそう。
『特別待遇だなあ』
『ぶっちゃけあらかじめ来るって分かってたら同じようにする店は過去にもあったかも』
『それは確かに』
いつもいきなり行ってるからね。それはちょっと、悪いことをしてるのかも。今回が例外なだけっていうのはあるけど。
「ではひつまぶしをお持ちします」
「ん」
店員さんが離れていったので、あとはのんびり待つだけ。ウナギ美味しかったから、ここのひつまぶしも楽しみ。
「ウナギ好き。楽しみ」
『そういえばリタちゃんの世界にウナギっていないの?』
『漁業はあるみたいだし探せばいるのでは』
「んー……」
確かに、探せばいるのかも。ちょっと探してみようかな。どうしようかな。
「でも日本に来れば美味しいお魚食べられるし……」
『それはそうだけどw』
『もうちょっと自分の世界に興味を持ってw』
それを言われると困る。そうだね、ちゃんと自分の世界も気にしないと。精霊様にも言われそうだし。
そんなことを話していたら、ひつまぶしが運ばれてきた。店員さんがちょっと大きめのお盆を持ってきて、それを私の目の前に置いた。
「おー……」
まず目についたのは丸い入れ物。おひつっていうらしい。白いご飯が入っていて、細かく切ったウナギが載ってる。タレもたっぷりとかかっていて、とても美味しそう。
次に何も入ってないお茶碗。なにこれ。
あとは、三種類の、えっと……。薬味? それが入った細長いお皿。ネギとわさび、山椒、らしい。これも一緒に食べるのかな?
まだあって、何かのお汁が入った大きめの入れ物。えっと……。お味噌汁とはまた違うみたい。そのまま飲むものじゃないみたいだね。
んー……。
「食べ方は分かりますか?」
「分からない」
「では説明させていただきますね」
「ん」
お言葉に甘えて、店員さんに教えてもらおう。
まずはお盆にあるしゃもじでおひつの中のひつまぶしを四等分に。その一つをお茶碗に入れて、そのまま食べる。
柔らかいウナギに濃厚なタレが絡んでとても美味しい。ちょっとだけ香ばしく焼かれてるのもいいと思う。細かく切ってるから、ウナギそのままより食べやすい。
もちろんこっちがいいとかじゃなくて、そのままの方は好きな大きさで食べられてウナギを感じられるから、あっちも好き。どっちも好き。
「んふー」
『美味しそう』
『ひつまぶし……出前頼むか……?』
『ウナギだからちょっと高いけど美味しいからなあ』
ん。これはすごく良いもの。
この空のお茶碗はひつまぶしを入れるためのものだったんだね。そのまま食べたらだめ、なのかな?
「次に二杯目は薬味と一緒にお召し上がりください」
薬味。ネギとかわさびとかだね。お茶碗にひつまぶしを入れて、薬味も入れる。店員さんが言うには、全部入れる必要はないみたい。お好みで、だって。特にわさびに注意してほしいらしい。
じゃあ、わさびは少なめにして、他はちょっと多めに入れて……。
「んー……。美味しい。美味しいけど、そのままの方が好き」
『薬味は正直好みがあるからね』
『わさび嫌い』
『こういう人もいるから』
嫌いってほどではないけど、そのままの方がやっぱりいいかな。
次は、お出汁を入れるみたい。このお汁が入った入れ物だね。ひつまぶしを入れて、お出汁を入れて……。これも全部入らないみたいだね。
ひつまぶしとお出汁を混ぜて、食べる。
「おー……。これ好き」
お茶漬けみたいですごく美味しい。すごく贅沢なお茶漬け。ほんのり甘いウナギとご飯、お出汁の味がほどよく合わさってる。食感もウナギがあるからかいつもと違って、ちょっと楽しい。
「んふー」
『あかんめっちゃ美味そう』
『だめだ! 我慢できん! 俺はひつまぶしを注文するぞポチー!』
『いいなあ俺も頼もうかな』
『残高足りないって出て泣きたくなった』
『いや草』
お値段を見ると、やっぱりウナギだからちょっと高いね。さすがに頻繁に食べようとは思えない値段かも。私はお金いっぱいあるから、今のところは困らないけど。
最後の一杯は、一番好きな食べ方をもう一度、だって。じゃあお出汁を入れる。そのままも好きだったけど、僅差でお出汁が好き。
全部食べ終わって、満足。とっても美味しかった。
「美味しかった」
「ありがとうございます。美味しそうに食べていただけて、こちらもとても嬉しく思います。ところで」
「ん?」
「写真、いいでしょうか……?」
いつもの、だね。何が嬉しいのかやっぱり分からないけど、もちろん大丈夫。
店員さんとお客さんも集合して、写真を一枚。あとついでに、お土産用にひつまぶしももらった。これも精霊様に食べてもらおう。
「美味しかった。ありがとう」
「いえ。是非またお越しください」
店員さんたちに手を振って、その場を離れた。味噌煮込みうどんとひつまぶしは食べたし、次はどこに行こうかな?
とりあえず、周辺を見渡せる場所に行こう。それじゃ、転移だ。
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